2019 Fiscal Year Research-status Report
自閉スペクトラム症病態モデルマウスの社会性異常行動の起因となる神経回路の特定
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18K06527
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
内野 茂夫 帝京大学, 理工学部, 教授 (30392434)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / Shank3 / 病態モデルマウス / 行動解析 / ケモカイン / 遺伝子改変マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では4つの課題を計画している。課題1:社会性異常行動に関わるニューロンは? 課題2:社会性異常行動はいつ惹起されるのか? 課題3:社会性異常行動を起因する分子は? 課題4:コミュニケーション障害と社会性異常行動は相関するのか? 本年度、この課題のうち課題1と課題3を中心に行った。 課題1について:複数のShank3欠損マウス家系において、仔マウスとの対面試験から、社会性の行動異常として1)他マウスへとの接触を避ける警戒性、2)噛みつきなどの攻撃性、3)執拗な追い回し、4)他マウスを認識しない(接触しない)、を定義し、昨年度確立した定量的な解析を実施した。また、複数存在するSHANK3アイソフォームのうち、分子構造およびその脳内発現プロファイルが未解明であるSHANK3dとSHANK3eアイソフォームの分子実体の解明を行った。さらに、我々が作出したSHANK3アイソフォームの発現をGFPによりモニターできるShank3-GFPトランスジェニックマウスを用いて、SHANK3aおよびSHANK3cアイソフォームの脳発達期の脳内発現プロファイルも作成した。これらの結果は、他研究グループで行っているShank3欠損マウスの社会性行動解析との比較検討を行う上で、重要な知見となる。 課題3について:成体のShank3欠損マウスと野生型マウスの大脳皮質サンプルを用いて、マイクロアレイ解析から異なる発現を示す遺伝子を特定した。本年度、その中で有意な発現の差が見られたケモカインCCL21について、定量PCR法を用いて経時的な発現解析を行った。さらに、血液サンプルを用いたELISA法による発現解析も行った。また、サイトカインについては、プライマーアレイを用いた発現解析も同時に進めた。今後、これらの結果に基づき、定量PCR法等を用いて脳発達期の経時的な発現解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年、社会性行動解析としてICRの仔マウスとの対面試験を行い、1)接触を避ける警戒性、2)噛みつきなどの攻撃性、3)執拗な追い回し、4)他マウスを認識しない、を行動様式として定義し、定量的な解析方法を確立した。本年度、当研究室が保有している4家系のShank3欠損マウスを用いて実験を行ったところ、家系ごとに異なる特徴が観察された。さらに、自発運動や探索、情動行動を判定するオープンフィールド試験を行った。その結果、Shank3欠損マウスの総移動距離が有意に短いことがわかった。ビデオ解析から、その原因は長時間の毛繕いの回数が多いことがわかった。過度の毛繕いは、他の研究グループのShank3欠損マウスでも報告されていることから、その原因を分子レベルで明らかにすることは、Shank3欠損マウスの病態を理解する上で重要であると考えられる。そこで、野生型マウスとShank3欠損マウスの大脳皮質サンプルを用いて行ったマイクロアレイ解析の結果に基づき、毛繕いの頻度と相関する分子を探索中である。また、マイクロアレイ解析から、特にケモカインであるCCL21の発現に有意な差が見られたことから、さらにサイトカインおよびその受容体を標的としたプライマーアレイ解析を行い、分子探索を進行中である。 一方、我々は、SHANK3aとSHANK3cアイソフォームの発現をGFPの発現でモニターできるShank3a-GFPマウスとShank3c-GFPマウスを保有している。これまでの研究から、SHANK3cアイソフォームは一部の抑制性ニューロンで発現していることが確認できた。我々はCre/LoxPシステムを用いたコンディショナル欠損マウスも保有している。そこで、抑制性ニューロンのみでSHANK3を欠損させるためVGAT-Creマウスを導入した。 以上、研究の進捗は概ね当初の計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
課題1:社会性異常行動に関わるニューロンは?:社会性行動の定量的解析法を用いて、Shank3欠損マウス各家系ごとの解析を行い、遺伝的バックグランドと各マウスの個性について明らかにする。さらに、Shank3-floxマウスとNestin-CreおよびVGAT-CreマウスによるShank3コンディショナル欠損マウスを用いて、抑制性ニューロンの社会性行動異常への関与を明らかにする。 課題2:社会性異常行動はいつ惹起されるのか?:離乳後の1ヶ月齢マウスから社会性行動解析を行うことで、本課題を進める。 課題3:社会性異常行動を起因する分子は?:マイクロアレイおよびプライマーアレイ解析から、候補分子を複数取得した。今後、定量PCRやウエスタンブロッティング法を用いて、候補分子について野生型マウスとShank3欠損マウスの生後の若齢期から成体までの経時的な脳内発現解析を行う。 課題4:コミュニケーション障害と社会性異常行動は相関するのか?:マウスのコミュニケーションとして、我々は母子間コミュニケーションの一つである新生児マウスが発信する超音波に着目し研究を進めている。これまでに、超音波マイクとビデオカメラをリンクさせ、超音波発信と行動との相関を解析している。すでに、一部のShank3欠損マウス家系においてデータを取得している。今後、さらに家系を増やし解析を継続する。 本年度、新たなSHANK3アイソフォームとしてSHANK3dとSHANK3eアイソフォームの分子構造の解析を行った。さらに、Shank3a-GFPおよびShank3c-GFPトランスジェニックマウスを用いて、各アイソフォームの脳内発現を解析した。本課題は、社会性行動異常を含めたShank3欠損マウスが示す自閉スペクトラム症様症状を分子レベルで理解する上で極めて重要な知見となると考えられる。
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