2020 Fiscal Year Research-status Report
自閉スペクトラム症病態モデルマウスの社会性異常行動の起因となる神経回路の特定
Project/Area Number |
18K06527
|
Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
内野 茂夫 帝京大学, 理工学部, 教授 (30392434)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 自閉スペクトラム症 / Shank3 / 病態モデルマウス / 行動解析 / ケモカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では4つの課題を計画した。課題1:社会性異常行動に関わるニューロンは? 課題2:社会性異常行動はいつ惹起されるのか? 課題3:社会性異常行動を起因する分子は? 課題4:コミュニケーション障害と社会性異常行動は相関するのか? 昨年度に引き続き、課題1、課題3、課題4を中心に行った。 課題1について:複数のShank3欠損マウス家系において、仔マウスとの対面試験から、社会性の行動異常として1)他マウスへとの接触を避ける警戒性、2)噛みつきなどの攻撃性、3)執拗な追い回し、4)他マウスを認識しない(接触しない)、を定義し、定量的な解析を実施した。また、我々が作出したSHANK3アイソフォームの発現をGFPによりモニターできるShank3-GFPトランスジェニックマウスを用いて、SHANK3aおよびSHANK3cアイソフォームの脳発達期の脳内発現プロファイルも作成した。本年度は特に生後1ヶ月齢までの脳発達過程の新生児・幼若マウスについて解析した。これらの結果は、Shank3欠損マウスの社会性行動解析との比較検討を行う上で、重要な知見となる。 課題3について:昨年度、成体のShank3欠損マウスと野生型マウスの大脳皮質サンプルを用いたマイクロアレイ解析から異なる発現を示す遺伝子としてCCL21を特定した。本年度、さらにプライマーアレイを用いた発現解析も進め、CCL6やCCL9、腫瘍壊死因子受容体など、野生型マウスと発現が異なる複数のサイトカイン・ケモカイン、また、その受容体を見出した。今後、これらの結果に基づき、定量PCR法等を用いて脳発達期の経時的な発現解析を行う予定である。 課題4について:母子間コミュニケーションの一つである新生児マウスが発信する超音波について、超音波マイクとビデオカメラをリンクさせ、超音波発信と行動との相関を解析する手法を開発した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
社会性行動解析としてICRの仔マウスとの対面試験を行い、1)接触を避ける警戒性、2)噛みつきなどの攻撃性、3)執拗な追い回し、4)他マウスを認識しない、の行動様式の定量的な解析方法を確立し、複数のShank3欠損マウス家系の行動様式を判定した。また、Shank3の発現をGFPでモニターできる遺伝子改変マウス(Shnak3-GFPマウス)を用いた組織解析から、Shank3が一部の抑制性ニューロンで発現していることを見出した。そこで、我々が保有するCre/LoxPシステムを用いたコンディショナル欠損マウス(Shank3-floxマウス)と、新たに導入したVGAT-Creマウスを用いた抑制性ニューロンにおけるShank3欠損マウス、また、Nestin-Creマウスを用いた神経系細胞におけるShank3欠損マウスの対面試験から、Shank3欠損マウスが示す行動異常と抑制性ニューロンとの関連性を検討する予定であった。しかし、2020年4月からおよそ数ヶ月、新型コロナウイルス感染防止のため研究の中止を余儀なくされた。この間、マウスの系統維持のみ進め、秋頃からコンディショナル欠損マウスの準備(掛け合わせ)を行ったが、十分な解析までは至らなかった。そこで、1年間研究期間を延長した。
|
Strategy for Future Research Activity |
課題1:社会性異常行動に関わるニューロンは?:現在進めている抑制性ニューロンでのShank3のコンディショナル欠損マウスと、Nestin-Creマウスによる神経系細胞でのShank3のコンディショナル欠損マウスの対面試験の比較検討から、異常行動に関わるニューロンに関する知見を蓄積する。 課題3:社会性異常行動を起因する分子は?:これまでのマイクロアレイやプライマーアレイ解析から取得した複数の候補分子(サイトカイン・ケモカイン)について、行動様式が明確なShank3欠損マウスの脳サンプルを用いた発現解析から、異常行動との関連性を検討する。 課題4:コミュニケーション障害と社会性異常行動は相関するのか?:マウスのコミュニケーションとして、我々は母子間コミュニケーションの一つである新生児マウスが発信する超音波に着目し研究を進めている。これまでに、超音波マイクとビデオカメラをリンクさせ、超音波発信と行動との相関を解析している。すでに、一部のShank3欠損マウス家系においてデータを取得している。今後、さらに家系を増やし解析を継続する。 以上、社会性行動異常を惹起する神経回路ならびにその関連分子を明らかにすることで、Shank3欠損マウスが示す自閉スペクトラム症様異常行動の組織ならびに分子レベルでの解明を目指す。
|
Causes of Carryover |
本研究で用いる遺伝子改変マウスのほとんどは独自に作出したマウスであることから、自家繁殖による系統維持は必須である。本研究では、生後1週間までの新生児期に行う超音波発信測定から、生後3か月齢以上の成体マウスで行う社会性試験およびオープンフィールド試験と幅広い週齢のマウスを取り扱う。さらに、Cre/loxPシステムを用いた複数のコンディショナル欠損マウスにおける行動解析も計画していることから実験が長期に渡るため、厳密なスケジューリングが必要となる。2020年度、4月から数ヶ月新型コロナウイルス感染防止のため、遺伝子改変マウスの系統維持のみを行い他の研究を中断した。秋頃から実験を再開したものの、全てのマウスは掛け合わせから行わなければならなかったため、予定の実験計画に遅延が生じることになり、本年度使用予定であった試薬や消耗品、また、マウスの飼育管理に関わる消耗品等の費用が次年度繰越となった。 次年度使用額は、2021年度にマウスの飼育管理費や組織解析、分子発現解析に用いる試薬・消耗品等の物品費に主として使用する予定であるが、成果発表(日本神経精神薬理学会(於京都)はすでに演題登録済み、分子生物学会や神経化学会など)にも使用する予定である。
|