2018 Fiscal Year Research-status Report
生体ミクロイメージングによるタウおよびαシヌクレイン病変の脳内伝播メカニズム解明
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18K06542
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
田桑 弘之 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 脳機能イメージング研究部, 研究員(任常) (40508347)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 認知症 / 二光子顕微鏡 / PET / 脳内クリアランス / タウ / in vivoイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、申請者らのグループでは、タウなどの認知症病原タンパクを標識してPETや二光子顕微鏡で測定できるマルチモーダルトレーサーを開発し、脳疾患をPETと二光子顕微鏡で全脳から細胞レベルまでマルチスケールに可視化することで病態メカニズムを明らかにしてきた。ここでは、その生体イメージング技術を異常タンパクの脳内伝播とクリアランスメカニズムの研究に応用した。初年度における研究の第一段階として、脳内に異常なタウ蛋白をわずかに産生するが凝集体が蓄積することのない動物モデルを用いて、どのような脳疾患が脳内伝播を加速するかをマルチスケールイメージング技術で評価した。特出すべき成果として、開頭してガラスプレートで脳表を強く圧迫する動物モデルにおいて、PETでも二光子顕微鏡でもタウなどの異常タンパクの著しい蓄積が生じることを発見した。同様の開頭手術を行って脳表の圧迫だけを行わなかったSham群においては、異常タンパクの蓄積は検出されなかった。これ以外に、片側総頚動脈を永久結束した慢性低灌流モデルでは、二光子顕微鏡において異常タンパクの蓄積の加速が局所的に見つかったが、PET(全脳評価)で観察できるような異常タンパクの蓄積は見られなかった。さらに頸部リンパ管の永久結束モデルや、外傷や炎症、自己血注入モデルについても異常タンパクの蓄積の有無を検証したが、PET、二光子顕微鏡の両方で異常タンパクの蓄積は観察されなかった。脳内異常タンパクの伝播とクリアランスのメカニズムを調べる研究において、著名に凝集性タウが蓄積するモデルが得られたことは極めて大きい。来年度は、脳内にタウやαシヌクレインなどの凝集体を脳内に注入する実験技術を加えて、脳表の圧迫がどのように異常タンパク蓄積を加速するかを明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的として、脳内の異常タンパクがどのような環境で伝播・蓄積されていくのか、また、どのような環境でクリアランスされるのかを明らかにしていくことにある。このことは、脳内での異常タンパクの広がり(伝播)を抑制し、さらに脳外にクリアランスを促進する異常タンパク制御方法の開発におけるカギとなる知見になりうる。そのため、研究の第一段階として、脳内にタウなどの異常タンパクを著名に蓄積させる動物モデルを得ることができるかが極めて重要であった。その中で、異常タンパクの蓄積を強く加速していく要素が発見できたことは極めて大きい。研究開始当初は、予備実験データも得ていた慢性低灌流モデル動物が最も脳内のタウ蓄積が強いと考えていたが、脳表圧迫モデルはそれをはるかに超えるタウ蓄積を引き起こし、小動物PETでのタウイメージングにおいてもはっきりとした異常タンパク蓄積が確認できている。特に興味深いのは、この脳表の圧迫モデルを作成するには頭蓋骨を除去して脳表を露出させてガラスで圧迫するのだが、手術による炎症や出血による影響が懸念された。しかし、頭蓋骨を除去して脳表を露出する手術をおこなっても、脳表を圧迫しないかぎりPETでの異常タウ蓄積は確認できなかった。すなわち、このモデルで見られるタウ蓄積について手術による炎症や出血などの影響は検出できない程度であることがわかった。さらに脳表を圧迫することによる脳表の血流低下の可能性も考えられるが、慢性低灌流モデルでのタウ蓄積が脳表圧迫モデルよりもはるかに小さいことから、脳血流の低下についてもこのモデルの直接的な原因ではないと考える。今後の研究では、この脳表圧迫モデルを中心にどのような環境下でタウが蓄積していき、さらにクリアランスされていくのかを調べていく。
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Strategy for Future Research Activity |
Glymphatic systemは、脳内を流れるリンパ(水)が老廃物を脳外に流し去っていくモデルである。ここでは、脳表の動脈周囲の脳脊髄液がアストロサイトのエンドフットに発現したアクアポリン4などのチャネルを介して脳実質内に流れ込み、老廃物を移動させながら静脈周囲に入り込み、一部が硬膜内リンパを介して最終的に脳外に排出されることを想定している。このGlymphatic systemでは、動脈周囲の脳脊髄液が脳表から実質内方向に流れ込むと考えているため、我々の脳表圧迫モデルにおいては、ガラスプレートの脳表圧迫が図らずも脳脊髄液のスペースを圧迫してグリンパ流を阻害している可能性が考えられる。加えて、Glymphatic systemの仮説において、脳脊髄液内から硬膜内リンパに移動する際に、免疫細胞の関与が推定されている。現時点で、免疫細胞が硬膜内リンパに老廃物を移動することを示す直接的なデータや論文報告が存在するわけではないが、脳表のスペースには免疫細胞が多く存在しているため、脳表の圧迫が免疫細胞の働きに何らかの影響を与えている可能性は十分に考えられる。今後の方向性として、脳表圧迫モデルについてグリンパ流や免疫細胞への影響について主に研究を進めていきたいと考えている。実験系としては、脳内にタウやαシヌクレインなどの凝集体を注入した動物モデルを用いて、PETと二光子顕微鏡でのマルチスケールイメージングを実施していき、蛍光標識したタウやαシヌクレインとミクログリアやマクロファージなどの免疫細胞との相互関係を中心に研究を進める。また、大槽に蛍光物質を注入して、脳表の動脈周囲にくる蛍光色素の速度を図ることで、間接的にグリンパ流の評価も進める。これにより、脳表圧迫モデルにおける脳内の異常タンパクの伝播とクリアランスの影響について明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
予定していた実験が順調に進み、当初スケジュールよりも少ない実験で十分な成果を得ることができた。そのため、実験動物や蛍光色素などの購入費用の支出を抑えることができた。
残額については、さらに来年度に期待以上の成果を生むための研究費用として使用したい。具体的には、初年度に有効な病態疾患を示す動物モデルを新たに発見したため、この新規モデル動物のメカニズム解明と検証実験のための実験動物、蛍光色素などの購入に使用する。これらは、当初の予定に追加して実験を進める。
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Research Products
(6 results)