2019 Fiscal Year Research-status Report
分子表面の有用構造を標的としたD-アミノ酸酸化酵素阻害剤の創出
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18K06580
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
加藤 有介 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 徳島大学専門研究員 (70596816)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福井 清 徳島大学, 先端酵素学研究所(次世代), 非常勤講師 (00175564) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | バーチャルスクリーニング / タンパク質表面 / D-アミノ酸酸化酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の分子表面等、基質ポケット以外の部位を標的とする阻害剤の探索を目的としている。そのためにこれまでに予備的な試みとして16万化合物によるvirtual screening (VS)を検討した。将来的な計画としては数百万から数千万種類の化合物ライブラリーを利用したVSを実施することが目標の1つであるが、まずは方法論や標的部位の確立を目指して予備的な研究を展開してきた。そこでDAO分子表面の化合物結合サイトの探索研究を行った結果、FAD結合部周辺のグルーブが有力なサイトの1つであることが明らかとなった。この知見を利用してFAD結合部周辺のグルーブを標的としてVS研究を展開している。異なるドッキングアルゴリズムとスコアリング関数を有するVSプログラムを複数組み合わせることで、よりヒット率の高いVS研究の展開を目指している。こうした手法により数種類の候補化合物にまで絞り込み、実験的に阻害能を示すことに成功した。 また関連する阻害剤探索研究でDAOの新規阻害剤を発見し、その阻害機構をX線結晶構造解析と分子動力学解析により解明することにも成功した。この研究は塚本尚博士 (Johns Hopkins大学) 、福井清博士 (本学)らと共同で実施され国際的な創薬専門誌EJMECHに発表した。 さらにDAO分子表面のループ構造に着目し、このループが基質や阻害剤とDAOの間の相互作用に与える影響を解析し、成果を得つつある。こうした表面構造と阻害剤が相互に及ぼし合う影響が明らかになれば、新規阻害剤の創出のために重要な知見となることが強く期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではDAOの分子表面等、基質ポケット以外の部位を標的とする阻害剤に着目した研究を展開している。これまで研究実績の概要で述べたように予備的な研究に重点を置いてきた理由は、本研究を展開する上でその方法論の確立と有用な分子表面標的を探索することが非常に重要なためである。特に、大規模な化合物ライブラリーを用いたin silico研究は計算機への負荷が非常に大きいため、予備研究により事前に方法論を確立することが非常に重要である。将来的には数百万から数千万化合物のライブラリーを用いた大規模なin silicoスクリーニングを計画しているが、予備研究で用いた16万化合物というライブラリーサイズはこれまでの他のVS研究と比較して標準的な大きさである。実際、これまでに数万から数十万といったサイズのVS研究で有用なヒット化合物を得た例は多数報告されている。ただしこれらの先行するVS研究の大半は分子表面ではなく分子内部のポケットを標的とした研究である点が本研究計画との大きな違いである。これまでのところFAD結合部周辺のグルーブを標的とした16万化合物のライブラリーを用いたVS研究でヒット化合物を得ている。さらにFAD結合部以外の新たな標的部位を探索する目的で、DAO分子表面ループのアミノ酸配列と立体構造が阻害剤の阻害能に与える影響を検討する研究を展開している。以上の研究成果を取りまとめ論文作成にも取り組んでいる。論文発表の準備に時間を要してしまっているため計画からの進捗がやや遅れている。 2018年には以前から継続してきた関連プロジェクトの成果をまとめ上げ論文発表することにも成功した。この課題は本研究課題と同じくDAOを標的とした創薬研究であった。この研究で培った計算科学や実験のノウハウが本研究計画でも活用され、さらに発展を遂げたことで上記のような成果に結びつきつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
前項までに述べたように、これまでDAOを標的とした創薬研究とDAO分子表面の標的サイトの探索研究を行なっている。DAOを標的とした創薬研究ではVSを用いた創薬研究と実験科学的なスクリーニングに基づいた創薬研究を行なってきているが、いずれの研究においても計算科学的アプローチにより阻害剤とDAOの相互作用の解析を行なっている。また分子表面の標的サイト探索研究においては、化学ラベリングによる新規標的サイト探索研究と表面ループ構造と阻害剤との相互作用の相関研究を実施してきている。これらの研究における成果を有効に活用し、新規分子表面構造を標的とし、さらにスケールアップしたVS研究を展開することが今後の課題である。これまで最大で16万化合物のライブラリーを用いたVS研究を展開しており、その中で1化合物が薬効を示すことを実証している。ライブラリーのサイズをスケールアップすることで、さらに多くの化合物がヒットすることが見込める。またこれまでの研究により複数箇所の分子表面構造がDAO活性に影響を与えることがわかってきた。それら複数のサイトを標的とした創薬研究を展開することで、ヒット化合物を得る可能性がさらに拡がる。これまで利用したVSプログラムとは全く異なる原理に基づいたスコアリング関数を利用することや、DAOの動的構造を考慮に入れたVS研究を展開することで、さらに幅広い阻害剤探索の可能性が考えられる。このような計画により幅広くヒット化合物を探索し、酵素化学的実験による研究や構造科学的な阻害機構研究、さらには細胞学実験などにより新規阻害剤の有用性を実証していきたい。
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Causes of Carryover |
当初は初期段階で最先端の高速計算機を導入することで巨大サイズのin silico化合物ライブラリーを用いたVS研究の展開を計画していた。計画を実施するに当たって計算機の負荷を大幅に軽減することを目的として、前項までに述べたように予備研究としてより扱いやすいサイズのライブラリーを用いた研究を展開している。さらに新規標的部位の探索研究を重点的に実施することで、今後の研究計画がより効果的なものになることが期待される。こうした予備的な研究を実施するに当たって既存の計算機や設備等を活用している。さらに高額なプログラムライセンスや消耗品の導入を見送り廉価な代替品を用いるなどして支出を極力抑えることに成功している。実施された予備研究は予定された計画とは詳細な部分での修正はあるが大筋で変更はなく最終的な研究目的を達成する上で必要なステップを踏まえている。その結果、予定よりも早く候補化合物の絞り込み段階に進んだことから、計画の順序を入れ替えて候補化合物を購入し酵素阻害実験を実施している。さらにこれらの成果を取りまとめるための論文執筆のために必要な文献管理ソフト(EndNote)のライセンスを購入した。次年度においては現在取りまとめ中の論文の投稿・発表およびより大規模な計算を行うため高速計算機導入を検討する。
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Research Products
(2 results)