2021 Fiscal Year Research-status Report
分子表面の有用構造を標的としたD-アミノ酸酸化酵素阻害剤の創出
Project/Area Number |
18K06580
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
加藤 有介 東京薬科大学, 生命科学部, 研究員 (70596816)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福井 清 徳島大学, 先端酵素学研究所(次世代), 非常勤講師 (00175564) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | バーチャルスクリーニング / タンパク質表面 / 計算科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではD-アミノ酸酸化酵素(DAO)等の酵素タンパク質の分子表面における構造的特徴を認識し酵素活性を阻害する化合物の探索を目的としている。これまでにラベル化合物による生化学的実験と計算機によるドッキングシミュレーションを組み合わせた戦略に基づいたDAO分子表面における化合物相互作用サイト探索研究を実施したところ、FAD結合部周辺もしくはサブユニット間領域にそうしたサイトの存在が示唆された。これらの成果を足掛かりにバーチャルスクリーニング等によるin silico DAO阻害化合物探索研究を展開し、さまざまなクリテリアによる多段階スクリーニング過程により候補化合物を選別することで最終的に新規阻害化合物の同定に成功した。また、DAOの基質結合ポケットのフタとなっている分子表面ループ構造に着目し、このループが基質や阻害剤との相互作用に大きな影響を及ぼすことを明らかにした。こうした阻害剤探索研究戦略を発展させ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)由来プロテアーゼ3CLproや季節性B型インフルエンザウイルス由来ノイラミニダーゼ(NA)に対する阻害剤の阻害機構解析研究も実施した。3CLproの活性部位は分子表面に露出し溶媒が自由にアクセス可能な大きな裂け目(cleft)に存在することから、この部位を標的とする阻害剤のmoiety置換による阻害能への影響を計算科学的アプローチにより検討した。NAにも同様に分子表面に露出した阻害剤結合部位が存在するため分子動力学等を用いNA分子および阻害剤(タミフル)の動的構造を考慮して、原子レベルの運動解析や相互作用解析に基づきその詳細な阻害機構の解析を実施した。この研究では計算機上でNA分子表面に変異を導入しその影響を評価することで、NA表面におけるタミフル-NA間の相互作用の物理化学的な性質の変化を原子レベルで解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はDAO等酵素の分子表面との相互作用によって酵素活性を阻害する化合物の探索を高速計算機を利用して高い効率で実施することを目的としている。これまで計算機による分子ドッキング技術とSEALideラベル化合物を利用した研究によりDAOの分子表面上に2カ所の化合物相互作用サイトが見出されている。そうした特徴的なタンパク質表面サイトを標的とすることで、これまで報告された阻害剤とは全く異なる機構により作用する新規阻害剤を創出することを目指して研究を進めてきた。16万化合物からなる計算機上のバーチャル化合物ライブラリーから出発して、さまざまなクリテリア(物理化学的性質、タンパク質表面構造、特異的相互作用、化合物配座等)による多段階のバーチャルスクリーニング過程を経て数種類の候補化合物に絞り込んだ。そして、その中に実際にDAOを阻害する能力を有する化合物を見出した。さらにより多様な可能性を追求し、DAO分子表面上のループ構造にも着目した。このループは基質が活性部位に出入りする際の出入り口のフタの役割をすると考えられていることから、潜在的な標的部位とみなしループの構造的な特徴についてアミノ酸置換体を用いた構造生物学的な解析を行なった。さらに感染症対策のための研究対象としてウイルス由来の酵素としてコロナウイルス由来3CLproおよびインフルエンザ由来ノイラミニダーゼ(NA)に着目し、これらの酵素の分子表面上における阻害剤の働きをタンパク質の動的構造に基づいて解析した。特にNA分子表面のアミノ酸残基が阻害剤との相互作用に及ぼす影響について分子動力学等を用いたシミュレーション研究を実施し、阻害剤結合部位から遠く離れた部位のアミノ酸残基が重要な役割を担うことを明らかにした。こうした研究成果はタンパク質分子表面との相互作用を考慮した阻害剤設計のために重要な役割を果たすと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのDAOを標的とした研究では、DAO分子表面において活性制御に重要な領域の探索や解析を行い成果をあげてきた。分子表面を認識するSEALide化合物による特異的ラベリング技術と計算機による分子ドッキング技術を組み合わせた研究では、DAO分子表面上に見られる化合物結合サイトの同定および化合物ドッキング様式の予測で成果をあげた。この研究ではFAD結合部位近傍およびDAOダイマー界面の近傍にそうしたサイトが見られた。また基質化合物の出入りに関与するループ領域の構造機能相関研究によりループ領域の構造と活性に相関性が見られることを明らかにした。今後はこれらの分子表面部位を標的としてより大規模な化合物ライブラリーを用いた計算機バーチャルスクリーニング研究を展開することで、より高い阻害活性を有する化合物の探索と同定を目指すことが非常に重要である。そのためにはより高速計算機の導入やそれに付随する計算環境の構築や改良が必要になる。 さらに、新型コロナやインフルエンザといった重要な感染症ウイルス由来の酵素タンパク質(3CLproおよびノイラミニダーゼ)表面を標的とした化合物が酵素と相互作用する機構を動的な分子構造に基づいて解明してきた。そうした研究から得られた知見をもとにタンパク質構造の動的性質を踏まえたかたちで、薬剤耐性化ウイルスにも対応可能な新規阻害化合物の探索を行うことが重要である。そうした研究を行うためにも、やはりハード面ソフト面の両方でより高速な計算環境が鍵となる。 以上のような背景からハード面ではGPU搭載計算機を導入し、ソフト面ではCUDA等の環境下で動作するアプリケーションを導入・最適化し、高度な高速並列計算により問題を解決するプラットフォームを構築した上で計算創薬研究の展開を実現することを目指したい。
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Causes of Carryover |
計画当初は計画の早い段階で高速計算機を導入することで非常に大規模なバーチャル化合物ライブラリーを用い、分子ドッキング法に基づいた化合物探索を実施する予定であった。プロジェクト開始後に計画を見直し比較的扱いやすい規模の化合物ライブラリーを用いて予備的な研究を行うことで計画の確実性を担保する方針に改めた。その結果、計画よりも早い段階で成果を得られたが、その後代表者の異動等による研究環境の変化もあり新しい環境に最適化した計画を再構築する必要が生じた。また、大規模な化合物ライブラリーを利用する際には、化合物情報の整合性や配座の問題等が生じるため、そうした諸問題への対処に取り組むことでよりインパクトの高い計画を目指している。GPUに対応した計算システムの構築も必要事項であり現在その構築に取り組んでいる。さらに酵素タンパク質構造の動的性質を考慮したバーチャルスクリーニング方法の構築・検討やそれに伴うインフルエンザ由来酵素および新型コロナ由来酵素に対する阻害剤の相互作用の分子動力学解析などの研究内容を盛り込み計画をブラッシュアップした。以上のことなどから新規計算機の購入時期や実験計画の見直しを行なったため次年度使用額が生じた。
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