2022 Fiscal Year Research-status Report
分子表面の有用構造を標的としたD-アミノ酸酸化酵素阻害剤の創出
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18K06580
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
加藤 有介 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 高度分析研究センター, 特別研究員 (70596816)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福井 清 徳島大学, 先端酵素学研究所(次世代), 非常勤講師 (00175564) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | バーチャルスクリーニング / タンパク質表面 / 計算科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題ではD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の分子表面等の部位を標的とする阻害剤の探索を目的として研究を行なっている。DAOは補酵素FADと基質結合サイトの両サイトが存在するが、これまでの化合物結合サイト探索研究の結果、FAD結合サイト周辺が阻害剤結合のための候補サイトの1つとして考えられている。これまでの研究によりそうしたサイトを利用した多段階バーチャルスクリーニング手法を含むアプローチにより阻害化合物を取得した。さらにこの研究を発展させるべくDAOの活性調節因子と考えられるG72タンパク質とDAOの相互作用機構の解析研究を行うことで分子表面サイトに対する阻害機構の解明を目指した。G72タンパク質の立体構造はこれまでに報告されていない。アルファフォールド2による予測構造では1本のαヘリックス構造が示されたが、この構造が実際に溶液中で安定に存在するのか検証されていない。この問題を解明する基盤技術整備ために高速計算機を利用した分子動力学環境を構築し、G72タンパク質の動的構造の解明に取り組んだ。G72にはN末端ドメインとC末端ドメインが知られているが、それぞれについて分子動力学解析を実行した。既存の分子動力学手法の場合、ローカルミニマム構造に落ち着いてしまう可能性があるため、よりグローバルな構造変化に向けた取り組みを行なっている。 分子表面のタンパク質構造を利用した低分子創薬アプローチの応用として、淋菌ani Aの類縁酵素の分子表面構造に対する多段階バーチャルスクリーニング研究を高速計算機による行なった。この系では数千万化合物のライブラリーを出発点としてin silico計算により化合物の絞り込みを行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題ではDAOの分子表面等に存在する特徴的な構造を標的とする阻害化合物の探索を目指し、計算機による相互作用化合物の予測技術を駆使して労力的にもコスト的にも効率化した手法を取り込んだ研究を行なっている。一方で予測のための基礎的なデータの取得のために実験手法と計算手法の両方のアプローチを取り込み、DAO表面の標的部位の絞り込みやDAO-阻害剤複合体の結晶構造解明などに取り組んできた。これまでの取り組みでバーチャルスクリーニングのための各プログラムの処理速度の違いが作業効率に大きな影響を与える可能性が示唆された。プログラムによる違いとして、各化合物のコンフォメーションやドッキングポーズのバリエーションなどが観察された。こうした違いを利用して複数のプログラムによる効率的なバーチャルスクリーニング手法の構築が可能であると考えられる。またDAO分子表面上のループ構造の変化がDAOの活性に及ぼす影響も評価されたことから、ループ構造を標的にするという先行研究による予測が示されたG72タンパク質がDAOと相互作用する際の立体構造に大きな関心が持たれている。この課題に取り組むにあたってG72タンパク質の立体構造やその揺らぎやコンフォメーション変化の解明が重要であると考えG72タンパク質の動的構造の解析に取り組んだ。G72タンパク質の立体構造をめぐってはこれまでに様々な予測構造が報告されているが結晶構造の報告はないため、より精度の高い計算科学手法の導入が必要であると考え分子動力学の導入に取り組んでいる。 また多段階バーチャルスクリーニング手法の水平展開という課題に取り組むためにAni A等を新しい標的とした研究も行なってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのバーチャルスクリーニング研究からプログラムごとの処理速度の違いが顕著であることが明らかになってきた。そこで初期段階において処理速度が速いプログラムを用いることが1つの方策である。これまでのところ、より並列数(数百程度)の高い大型計算機の利用を検討することで計算の高速化に取り組んできた。こうした取り組みにより数千万化合物のバーチャルスクリーニングを可能にする環境構築にも取り組んできた。一方で近年のGPGPU等の発展に伴いより高速なバーチャルスクリーニングも可能になってきているため今後はそうしたアプローチも検討したい。GPGPUの運用は既に分子動力学では一般的になっているため、本研究課題においてもG72タンパク質の構造計算にGPGPU導入を検討し実用に結びつけた。またこれまでの研究からDAOを阻害する化合物が多く知られているが、AI技術を導入することでより効率的な化合物の探索が可能になるか検討する価値があると考えている。 バーチャルスクリーニング研究の新しい潮流として、標的タンパク質の動的構造を考慮したスクリーニング計算が提案されている。標的タンパク質の動的構造を全て検討することは無限の計算量を必要としてしまうため、効率的な構造サンプリングが重要になるものと考えられる。通常の分子動力学では構造サンプリングに偏りが見られる可能性があるため、レプリカ交換法等の手法の利用が望ましいが、計算量が非常に大きくなることが課題であるために並列化など計算の効率化を図る必要がある。同様の問題はG72タンパク質でも生じる可能性があるためドメインごとの構造サンプリングを検討している。 またこれまで得られたリガンド情報を利用してファーマコフォアを作成し、リガンドベースのバーチャルスクリーニングに発展させることも検討している。
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Causes of Carryover |
本研究計画がスタートしてから研究代表者の異動が何度かあったことや研究体制の見直し等の理由から、研究環境の構築に予定より多くの時間を要している。計画当初は計画の初期段階で高速計算機を導入することで大規模なバーチャルスクリーニングを実施する計画であったが、実際には昨年度に導入した。計画実施時には化合物ライブラリーの規模を当初計画よりも縮小することで計算機への負荷を低減し、多段階バーチャルスクリーニング方法の検討を実施した。このことにより研究計画の全体的な見直しが必要になった。計算機の性能は年々向上していることから計画当初より高い計算性能を持つ計算機を導入することができたため、結果的に計画の実行が高速化される部分も生じると予測される。G72タンパク質の構造計算や標的の分子動力学など今後計算をさらに進めるべき課題として様々な課題が残されており、そうした計算のために必要なソフトウェアライセンス、サポート契約やストレージ、計算結果の検証実験のための試薬や消耗品の購入の計画がある。
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