2019 Fiscal Year Research-status Report
NHC配位子の遠位置換基を活用した反応場の精密制御
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18K06583
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
安藤 眞 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 助教 (00622599)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有機化学 / 配位子 / N-ヘテロ環状カルベン / 遷移金属触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は申請者が開発したビシクロ骨格を備えたN-ヘテロ環状カルベン(NHC)配位子の構造多様性の拡張を基軸とし、新たな配位子設計戦略の礎を築く事を目的としている。昨年までに金属から比較的離れた位置に配置した芳香環によってカルベンー金属結合が有意に安定化を受けること、銅錯体を触媒として用いた際に還元的脱離段階が加速されること、を見出した。また、その芳香環と金属の距離が異なる配位子を合成すると、その触媒能に大きな影響が現れた。 本年は昨年新たに開発したビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を備えたNHCと、従来より研究を進めているビシクロ[2.2.2]オクタン骨格を持つNHCについて、電子的・立体的影響の差異を精査した。具体的には銀錯体を用いたX線結晶構造解析、イリジウム錯体を用いて電子供与能の指標であるTEP値の算出を行った。その結果ビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格の方がビシクロ[2.2.2]オクタン骨格よりもより高い立体遮蔽効果を示すことがわかった。さらに電子供与能は、窒素上に導入したアルキル置換基によって大きく変動すること、その変動の幅にビシクロ骨格間で差異があることがわかった。 さらに、従来より研究を行っているビシクロ[2.2.2]オクタン骨格を持つNHC配位子については、配位性官能基であるピリジンを2つ加えたピンサー型配位子を新たに開発した。その銀錯体はこれまでに2例のみしか報告されていない稀有な構造をしていること、ニッケル錯体が安定に得られることを見出した。また、得られたニッケル錯体は熊田-玉尾-コリューカップリング反応において触媒活性を示し、反応系中で4日間以上活性を保つ高い安定性を持つことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NHC配位子の中でも、イミダゾリニリデンはイミダゾリリデンと比べて一般にその錯体の安定性が劣るために構造と錯体の性質の相関について知見が不足している。対して申請者独自のビシクロ骨格を備えたNHCは安定性が高い錯体を与えるイミダゾリニリデン配位子であり、構造と錯体の性質の相関を見ることが容易である。今回、特に従来法では合成が困難であった窒素上にアルキル鎖を備えたNHC配位子を用いた金属錯体に焦点を絞り、電子的な影響を精査できた。これによりイミダゾリニリデン配位子ではアルキル鎖の性質がその電子供与能に大きな影響を及ぼすことが新たにわかった。配位子が持つ電子供与能の調整は錯体を触媒として用いる際に必須の項目であることから、これらの調整が容易であることは意義深いものと考える。また、2つの異なるビシクロ骨格上の芳香環が重要、かつその位置が金属から遠位にあるにも関わらず触媒へ大きな影響が現れる事がわかった。現在この芳香環について、芳香環の拡張法、置換基導入法も確立しつつあることから、より多様性に富んだ配位子群の開発を見込んでいる。 更に、窒素上に配位性官能基を導入したピンサー型配位子の開発にも成功し、高い安定性を示すニッケル触媒の合成につながった。この知見を基に異なる配位性官能基の導入、基本骨格の異なるピンサー型配位子の開発を試みることで安定性や活性に富む金属触媒開発が期待できる。 以上、活性中心から遠位に存在する置換基が及ぼす影響が明らかとなりつつあること、配位子群の合成経路の確立ができつつあることから今後の触媒への応用への道筋はつけられたと考えられ、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度確立した合成経路を用いて骨格の異なる配位子、芳香環に対して置換基を導入して電子的な性質を変化させた配位子等を合成し、金属錯体をあわせて合成する。金属錯体を用いてX線結晶構造解析などを行うことで、新規NHC配位子がもたらす立体的・電子的な影響を精査する。次いでそれらの変化が触媒としての機能に与える効果を確認する。 基本骨格の拡張とともに窒素上に導入する置換基の多様化も試みる。窒素上に導入する置換基は金属近傍に位置することから、より直接的に影響を及ぼすことが知られている。しかし、これまでの検討から、基本骨格が異なるビシクロ骨格NHC配位子においては、総合的な立体環境の変化が触媒能を大きく左右する傾向が観察された。このことから我々が多様化したビシクロ骨格NHC配位子における窒素上の置換基多様性がもたらす影響は改めて精査する必要性がある。金属からの遠位、近位それぞれの置換基の変化がもたらす総合的立体環境の変化と錯体の性質を精査し、新たな立体環境を備えた配位子ライブラリーを構築する。また、独自に見出したアルキル鎖が電子供与能を大きく変化させる傾向が、骨格の変化によらない一般的性質として観察されるかも検討する。可能であればこれら新規配位子群が特異な反応性を示す反応系の探索も同時に行う。 また、他の配位性官能基の導入によっても大きく異る性質の触媒創生が可能となったことから、異なる配位性官能基の導入を行ったピンサー型配位子の開発、それらを金属触媒に応用することでより高活性な遷移金属触媒の開発を試みる。
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