2020 Fiscal Year Research-status Report
分子動力学計算と情報科学的解析による、ALK遺伝子変異に伴う薬剤応答性予測
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18K06594
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
荒木 望嗣 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (10452492)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非小細胞肺がん / ALKキナーゼ / 薬剤耐性変異 / 分子動力学シミュレーション / タンパク質-化合物結合親和性 / 統計解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、非小細胞肺がん(NSCLC)の薬剤耐性に着目し、anaplastic lymphoma kinase(ALK)遺伝子変異に伴う分子標的薬剤の応答性変化をコンピューター上で高精度に予測する事を目的としている。 R2年度は、予測した薬剤耐性変異体候補に対する薬剤応答性の実データに基づいて、予測プロトコールの改良を実施した。まず、現状の予測プロトコールに従ってR1年度に抽出した薬剤耐性変異体候補の中から選抜した代表的な変異体(19種)を対象に、(公財)がん研究会・がん化学療法センターの片山量平博士に支援を得て、各ALK変異体を恒常的に発現するBa/F3細胞株を樹立した。その結果、19種類の細胞株のうち16種類においては、薬剤非存在下においてもALKの自己リン酸化が認められなかったことから、これらのALK変異体はキナーゼとして正しく機能していないことが示唆された。そこで、ALKと近縁関係にあるキナーゼ164種の配列情報を用いることでキナーゼ機能の保持に重要な残基を推定し、これらの残基は耐性変異予測の対象外とするように予測プロトコールを改良した。次に、改良版プロトコールに従って薬剤結合に影響を与えうるアミノ酸を抽出した後、H30年度・R1年度に記載したシミュレーション・解析プロトコールに従って、ALK変異体-阻害剤複合体の分子動力学(MD)シミュレーション、MDシミュレーションデータの統計解析、薬剤の結合自由エネルギー計算を行って、薬剤耐性変異体候補を再度抽出した。 また、上記のシミュレーション手法を活用する事で、ALDH2/PIK3CA遺伝子変異に起因するタンパク質活性異常の分子メカニズムを推定し、論文発表に至った。更に、タンパク質変異による薬剤応答性変化を精密に計算する新たなシミュレーション手法を開発して論文発表に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H30年度は、ALKタンパク質変異体-薬剤複合体540ペア(=180種類×3薬剤)の各々に対して分子動力学シミュレーションを実施した。これらは比較的大規模な計算量であったが、、「京」コンピューター(ポスト「京」研究開発枠)を利用して並列実行する事で、全てのシミュレーションが予定通り完了している。 R1年度は、これらのシミュレーションデータの統計解析を行い、薬剤の結合状態が野生型と比較して優位に異なる変異体群を抽出した。次に、これらの変異体群を対象に、アンサンブル分子動力学シミュレーション(MP-CAFEE法)により薬剤の結合自由エネルギーを計算し、薬剤応答性を優位に低下させる薬剤耐性変異体候補を抽出した。 R2年度は、薬剤応答性の実データに基づいて予測プロトコールを改良し、薬剤応答性を優位に低下させる薬剤耐性変異体候補を再度抽出した。その際、ALKタンパク質変異体-薬剤複合体540ペア(=180種類×3薬剤)の分子動力学シミュレーション、シミュレーションデータの統計解析、薬剤の結合自由エネルギー計算を改めて実施しており、これらの行程に時間を要したため、当初の計画よりも遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
R2年度に抽出した薬剤耐性変異体候補に対する薬効を実験的に測定し、これらの実データに基づいて薬剤耐性変異の予測プロトコールを精密化する。具体的には、R2年度と同様に、(公財)がん研究会・がん化学療法センターの片山量平博士に支援を得る事により、予測した変異をもつEML4-ALK融合遺伝子を導入したBa/F3細胞株を使用して細胞生存率の50%阻害濃度(IC50)を測定する。次に、測定結果を分子動力学(MD)シミュレーション解析にフィードバックする事で、MDシミュレーションやシミュレーションデータの解析におけるパラメータの精密化を行い、ALKキナーゼドメインに生じたアミノ酸変異に伴う薬剤応答性変化を高精度に予測する方法論を完成させる。
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Causes of Carryover |
(理由)COVID-19の流行により、研究進捗に遅延が出たことに加えて、参加を予定していた学会が中止になったため。 (使用計画)MDシミュレーションデータを格納するストレージサーバを購入するとともに、研究協力者である(公財)がん研究会・がん化学療法センターの片山量平博士との研究打ち合わせ、および研究成果を国際会議・学術論文で発表するための必要経費に充てる。
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[Journal Article] Landscape and function of multiple mutations within individual oncogene2020
Author(s)
Yuki Saito, Junji Koya, Mitsugu Araki, Yasunori Kogure, Sumito Shingaki, Mariko Tabata, Marni B. McClure, Kota Yoshifuji, Shigeyuki Matsumoto, Yuta Isaka, Hiroko Tanaka, Takanori Kanai, Satoru Miyano, Yuichi Shiraishi, Yasushi Okuno, Keisuke Kataoka
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Journal Title
Nature
Volume: 582
Pages: 95-99
Peer Reviewed
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