2020 Fiscal Year Research-status Report
合理的デザインによる芳香族有機酸反応性酵素の創成と有機溶剤健康診断への応用
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18K06616
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
西矢 芳昭 摂南大学, 理工学部, 教授 (70612307)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | トルエン / キシレン / スチレン / 酵素的測定法 / 基質特異性 / 健康診断 / ハイスループット / タンパク質工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
芳香族有機酸の馬尿酸、メチル馬尿酸、マンデル酸、フェニルグリオキシル酸は、トルエンやキシレン、スチレンに暴露された有機溶剤取扱作業者の尿中最終代謝産物となる。これらの尿中濃度は予防医学の観点から特殊健康診断の測定項目であり、年間約70万人の作業者が対象となっている。しかし迅速且つ簡便な測定法が無いため、現状では多検体分析に課題を有している。 本研究は、芳香族有機酸ハイスループット測定法の開発を最終目的とした。臨床検査分野では生体試料の成分分析を主に比色定量可能な酵素的測定法で行い、自動分析装置の使用で1時間当たり数百検体以上処理する。そこで本研究では、酵素的測定用の新規な芳香族有機酸反応性酵素をタンパク質工学技術により創成し、簡易なハイスループット測定法の開発を目指した。 初年度は、臨床検査用酵素である乳酸オキシダーゼの基質特異性改変を試みた。本酵素はマンデル酸への反応が乳酸の1万分の1未満だったが、立体構造に基づく活性中心の合理的デザインを行い、マンデル酸と十分反応し乳酸とは反応しないマンデル酸オキシダーゼの創成に成功した。したがって、乳酸測定と同様の酵素的方法にてマンデル酸測定が可能となった。 令和元年度は、超好熱性菌由来カルボキシペプチダーゼに馬尿酸およびメチル馬尿酸加水分解酵素活性を見出し、本酵素とサイクリングアッセイを組合せた馬尿酸メチル馬尿酸総量測定法を開発した。しかし、本酵素の活性は実用レベルでなかったため高反応性変異酵素を設計、野生型に対し馬尿酸およびメチル馬尿酸反応性が4~31倍向上した多重変異体を得た。 令和二年度は、馬尿酸メチル馬尿酸総量測定法の改良を目指し、新たに2種の馬尿酸加水分解酵素を発見、1種は実用レベルの馬尿酸およびメチル馬尿酸加水分解活性を有した。さらに、本酵素反応で生成するグリシンをオキシダーゼで追随する、シンプルな酵素的測定法を考案、実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現時点で、新規な芳香族有機酸反応性酵素として、マンデル酸オキシダーゼ、馬尿酸メチル馬尿酸加水分解酵素の開発に成功している。さらに、これらの酵素を用いたハイスループット測定法の考案と実証にも成功している。特に馬尿酸メチル馬尿酸総量測定法は、特殊健康診断での検査事業を展開している協力企業と共同で開発し、特許出願準備中である。 マンデル酸オキシダーゼは、すでに当研究室で血中乳酸測定用酵素として検討し実用化も為されている乳酸オキシダーゼの基質特異性改変にて開発した。計算科学技術にて酵素反応を微視的に解析し、立体構造に基づく活性中心の合理的デザインを行った成果で、他の酵素の改良への水平展開が期待される。実用酵素がベースなので、本酵素の実用化も容易である。 馬尿酸メチル馬尿酸加水分解酵素は、最初に開発した酵素の実用性が乏しかったため、高反応性変異酵素の設計・作成、新たな酵素の探索の両面から検討を進めた。結果として、予測立体構造に基づく多重変異体作成にて実用レベルの反応性を示す酵素を得た。これらの変異効果は、基質特異性の低下および触媒反応の低温適正化によるものであった。また、カルボキシペプチダーゼ・ホモログ探索によっても、馬尿酸および各種メチル馬尿酸に対して十分な加水分解活性を有する酵素を得た。 さらに、馬尿酸およびメチル馬尿酸の加水酵素反応で生成するグリシンをグリシンオキシダーゼで追随する、馬尿酸メチル馬尿酸総量のシンプルな酵素的測定法を考案した。グリシンオキシダーゼは、当研究室で酵素反応メカニズムを解明した酵素である。本測定法に供するには比活性が低値であったため、立体構造に基づく機能改変を行い、比活性が数倍向上した改変体を得た。グリシンオキシダーゼを用いた新規測定法の開発や機能改変酵素の創成は、当初の計画に全く無かった内容で、幸いなことに計画以上の進展が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
有機溶剤健康診断へ応用可能な芳香族有機酸反応性酵素として、乳酸オキシダーゼとカルボキシペプチダーゼの合理的デザインにより、マンデル酸オキシダーゼおよび馬尿酸メチル馬尿酸加水分解酵素を、それぞれ開発できた。さらに並行して、各酵素を使用した芳香族有機酸の新規酵素的測定法も、当初の研究計画に沿って開発に成功した。一年の期間延長を御承認頂いたので、令和三年度はまず、「①馬尿酸加水分解酵素と改変グリシンオキシダーゼを組み合わせた新規馬尿酸メチル馬尿酸総量測定法を確立し、実用化を目指す。」 しかしながら、研究テーマを進める中で、同一原理の酵素的測定法にて馬尿酸とメチル馬尿酸の分別定量が望ましいとのニーズや、スチレン代謝物としてマンデル酸と同時にフェニルグリオキシル酸を定量したいとのニーズを得た。これらは、特殊健康診断実施企業からの声で、検討する価値が十分あると考えた。そこで令和三年度は、以下の2検討項目を並行して進める。 「②馬尿酸とメチル馬尿酸の分別定量のため、馬尿酸高特異的酵素をタンパク質工学技術により開発する。」「③乳酸デヒドロゲナーゼをベースに、フェニルグリオキシル酸デヒドロゲナーゼを創成し、フェニルグリオキシル酸の酵素的測定法を開発する。」 ②については、立体構造既知のカルボキシペプチダーゼをベースに、これまでの機能改変情報をフィードバックして進める。③については、当研究室にてリンゴ酸デヒドロゲナーゼと乳酸デヒドロゲナーゼの立体構造比較から反応メカニズムの差異を解明している。まずは研究で得られた知見に基づき、グリオキシル酸反応性の乳酸デヒドロゲナーゼ変異体を合理的に開発する。
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Causes of Carryover |
本年度に、新規な芳香族有機酸反応性酵素の創成に目途を付け、有機溶剤検査への応用を進める予定であった。実際、新規酵素の開発に成功し、検査薬製造企業での検討において応用可能性が実証された。しかし、酵素反応の理解と機能改変一般則の解明に繋げるには、基礎データの更なる蓄積が必要である。計画を変更し、酵素特性の詳細な解析と機能改変の実証および学会での発表を次年度に継続実施とし、未使用額はその経費に充てたい。 また、研究テーマを進める中で、同一原理の酵素的測定法にて馬尿酸とメチル馬尿酸の分別定量が望ましいとのニーズや、スチレン代謝物としてマンデル酸と同時にフェニルグリオキシル酸を定量したいとのニーズを得た。これらは、当該分野の企業からの声で、検討する価値が十分あると考えた。そこで令和三年度は、これらの検討も並行して進めたい。
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Research Products
(10 results)