2018 Fiscal Year Research-status Report
肥満に対して環境因子および生体内ケトン体利用経路が果たす生理・病理的寄与の解明
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18K06639
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Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
山崎 正博 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (80328921)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 臭化難燃剤 / ケトン体利用経路 / 脂肪細胞 / アセトアセチルCoA合成酵素(AACS) |
Outline of Annual Research Achievements |
臭化難燃剤が、我々の見出したケトン体利用酵素-アセトアセチルCoA合成酵素(AACS)を介した代謝経路に与える影響を明らかとするために、培養脂肪細胞(3T3-L1細胞, ST-13細胞)を用いて検討した。その結果、本邦で広く用いられているテトラブロモビスフェノールA(TBBP-A)は、成熟脂肪細胞には影響しなかったが、未分化細胞では濃度・時間に依存的にAACS遺伝子発現を上昇させることが認められた。さらに、TBBP-Aにより脂肪酸合成酵素(FAS)や、褐色脂肪細胞分化に関わるLSD-1やNrf-2なども未分化な細胞でのみ遺伝子誘導されたが、IL-6などの炎症性サイトカインの発現は抑制傾向であり、同じケトン体を基質とするCoA転移酵素(SCOT)や脂肪細胞分化マーカ(PPARγ)では変動が認められなかった。また、対照として用いたNeuro-2a細胞やHL60細胞では以上のような結果は認められなかった。 また、アデノ随伴ウイルスによる発現抑制(S. Hasegawa et al, BBRC, 2018)および、CRISPR-Cas9系によるノックアウトマウスを用いたAACS欠損実験も行った。その結果、AACSの全身的抑制がタンパク質の翻訳後修飾関連酵素に影響を与えるデータを得た(未発表)。さらに、海外との共同研究においてヒト小児脳症でAACS遺伝子の点変異があることも見出しており(T.U.J. Bruun et al., Genet Med. 2018)、脂肪組織以外の組織でも今回明らかにしたTBBP-Aの影響を検討する準備を行っている。 以上の結果は、本邦で使用されている臭化難燃剤TBBP-Aが未成熟な脂肪細胞を中心に異常な代謝を促し、脂肪細胞などの質的変化を誘発する可能性を示唆している。また、TBBP-Aは細胞の分化段階によって、肥満毒性が異なる因子である可能性も示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本学の動物実験施設が新築され、空調環境および食餌が大きく変わった影響で、予定していたモデル動物を用いた実験やアレイ解析に遅れが出ている。この件については、培養細胞での知見に基づき、2019年度に体温維持など比較的環境負荷に強い若年ラットで知見を集める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
TBBP-Aだけでなく、他の臭化難燃剤として臭素化ジフェニルエーテルDBPEなどと比較検討しつつ、培養細胞を用いた遺伝子発現への影響の検討を引き続き行う。また、TBBP-Aを用いた若年期からの長期投与実験を動物系をラットに変更し行う予定である。これは、これまで行った培養細胞系の結果からTBBP-Aの明確な影響が主に未分化な細胞で認められたことを踏まえ、脂肪組織が未発達離乳直後からの長期曝露による動物実験から得られるデータが有意義と判断したためである。さらに、培養細胞においては臭化難燃剤の影響をAACS遺伝子発現の人為的抑制により打ち消せるかどうか、その際に相関する因子は何かを当研究室で構築したAACSノックアウトマウスより得た初代培養細胞系を用いた実験により明らかとする。 また、細胞内酸化的ストレスに関する検討も行う。これは、肥満による脂肪組織内での過酸化脂質増加と組織炎症が悪性肥満と関連があることと、本年度に明らかとなったTBBP-Aが炎症性因子に肯定的な影響を及ぼす可能性を根拠としている。当研究室で構築したB16メラノーマ細胞に対するアミノトリアゾール(AT)による細胞内過酸化水素ストレス上昇の実験系を用い、酸化的ストレスに対する培養脂肪細胞の防御機構への臭化難燃剤の影響を見る。 以上のように、2019年度は臭化難燃剤のAACSを介した脂質-ケトン体代謝経路へ与える影響と、それが各種細胞・組織の分化・発達段階に応じているかを中心に実験を遂行する。
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Causes of Carryover |
1000円以下の残金が生じたため、新たな試薬類の購入に至らなかった。次年度に繰越し、合算することで試薬購入に当てる。
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