2019 Fiscal Year Research-status Report
肥満に対して環境因子および生体内ケトン体利用経路が果たす生理・病理的寄与の解明
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18K06639
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Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
山崎 正博 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (80328921)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 臭化難燃剤 / アセトアセチルCoA合成酵素 / 脂肪細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
臭化難燃剤が、我々の見出したケトン体利用酵素-アセトアセチルCoA合成酵素(AACS)を介した代謝経路に与える影響を明らかとするために、培養脂肪細胞(3T3-L1細胞, ST-13細胞)を用いて検討した。 2019年度は、培養脂肪細胞の分化自体への影響を詳細に検討するために、分化前後の24時間処理による影響の違いを検討した。その結果、分化誘導カクテル処理48時間後にTBBP-Aを24時間処理した群では顕著な影響は認められなかったが、分化誘導処理前にあらかじめ24時間TBBP-A処理をした群ではAACSの発現の抑制と脂肪細胞TGリパーゼATGLの発現誘導が認められた。一方で全く分化誘導を行わなかった非分化誘導群ではAACS発現は上昇していた。さらに脂肪細胞の分化マーカーであるPPARγについては、いずれの処理でも顕著な遺伝子発現の変動は認められなかった(投稿準備中)。また、対照として用いたNeuro-2a細胞やHL60細胞では顕著な変動は認められなかった。これらの結果は、中止となった2020年3月の日本薬学会年会で報告の予定であった(要旨のみ公開)。 また、臭化難燃剤である臭化ジフェニルエーテル(DBPE)を用いて分化・未分化脂肪細胞への処理実験を行ったが、AACS遺伝子発現への顕著な影響は認められなかった。 以上の結果は、本邦で使用されている臭化難燃剤TBBP-Aが未成熟な脂肪細胞ではケトン体の利用を促す一方で、それらの細胞が脂肪細胞へと分化する際には逆にそれらを抑制し、正常な脂質利用が妨げられている可能性を示唆している。またミトコンドリアにおける脂質消費に関わる因子(LSD-1、UCP類)についても、分化誘導前処理群と非分化誘導群との間で増減に一致が見られない傾向を認めていることから、TBBP-Aが脂肪細胞などの質的変化を誘発する可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度から利用しているCRISPER-CAS9システムによるAACS欠損マウスについて、雌雄の出生率に大きな偏りがあり、出生総数自体も少ないため、検討に必要な頭数を確保できていない。実験施設ではなく、AACS欠損そのものによる影響も考えられるため、同マウスの胎児線維芽細胞 (MEF)を用いた実験系に切り替える予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
DBPEでは影響が認められなかったが、入手できる他の難燃剤との比較検討を引き続き行う。また進捗状況でも述べたように、TBBP-Aを用いた実験動物への投与実験を初代培養細胞系であるMEFに変更し、臭化難燃剤による脂質代謝系の因子への影響をAACS遺伝子発現の人為的抑制により打ち消せるかどうかを明らかとする。 また、2019年度には実施できなかった細胞内酸化的ストレスに関する検討も行う。これは、肥満による脂肪組織内での過酸化脂質増加と組織炎症が悪性肥満と関連があることと、TBBP-Aが炎症性因子に肯定的な影響を及ぼす可能性を根拠としている。当研究室で構築したB16メラノーマ細胞に対するアミノトリアゾール(AT)による細胞内過酸化水素ストレス上昇の実験系を用い、酸化的ストレスに対する培養脂肪細胞の防御機構への臭化難燃剤の影響を見る。 以上のように、2020年度は臭化難燃剤のAACSを介した脂質-ケトン体代謝経路へ与える影響を中心に実験を遂行する。
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Causes of Carryover |
2019年度は概ね予算内で実験を遂行したので、次年度への資金の大幅な繰越は生じていない。
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