2018 Fiscal Year Research-status Report
肥満発症過程における視床下部ガングリオシドの量的・質的変化と受容体機能調節機構
Project/Area Number |
18K06662
|
Research Institution | Tohoku Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
稲森 啓一郎 東北医科薬科大学, 薬学部, 准教授 (70710375)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ガングリオシド / 視床下部 / インスリン受容体 / レプチン受容体 / メラノコルチン受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、肥満発症過程において生じる視床下部ストレス下でのガングリオシド分子種の量的・質的変化と、それが摂食・代謝調節機能に重要な受容体シグナルに与える影響を検討し、肥満発症過程でのエネルギー恒常性維持機構におけるガングリオシドの役割を明らかにすることを目的としている。そのため、(1)高脂肪食摂取により誘導される視床下部ストレスにおけるGM3関連ガングリオシドの発現変化について調べ、特異的に変化する分子種が見られたら、(2)ガングリオシドの発現変化がレプチン-メラノコルチン系およびインスリン受容体を介した摂食・代謝調節シグナルに与える影響について検討を行う。 (1)について、KKマウスを用いて4週間および8週間の高脂肪食負荷を行ったところ、視床下部炎症の指標としてTNF-α遺伝子の発現上昇が確認できた。一方で、ストレス応答性遺伝子の発現については特に有意に変化するものは見いだせなかった。また、ガングリオシド合成に関わる糖転移酵素遺伝子群の発現についても大きく変化するものは見いだせなかった。一方、KK/GM3S KOマウスに同じく4週間の高脂肪食負荷を行った際にはTNF-α遺伝子発現の上昇が有意に抑制されていたことから、GM3関連ガングリオシドと炎症との間の関連が示唆された。 (2)については、視床下部由来神経細胞株N41より作製したGM3S KO細胞を用いてレプチン応答性を検討した。摂食・エネルギー代謝に関わるレプチン受容体の下流シグナルとしてSTAT3およびERKのリン酸化に着目し野生型細胞との比較を行ったところ、GM3S KO細胞ではレプチン添加によるSTAT3のリン酸化が減弱していたが、一方でERKのリン酸化が大きく亢進しており、KKAyマウスの過食・肥満病態がGM3S KOで著しく改善した結果の根底にあるメカニズムのひとつであると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、通常よく用いられるC57BL/6系統のマウスを用いて高脂肪食負荷による視床下部炎症の惹起を試みたが、8週間程度ではTNF-α遺伝子の発現上昇はみられなかった。そこで、より早期に肥満を発症するKKマウスを用いたところ、4週間で視床下部におけるTNF-α遺伝子の発現上昇が確認できた。このTNF-α発現上昇はKK/GM3S KOマウス視床下部では抑制されており、視床下部炎症におけるGM3関連ガングリオシドの関与が示唆された。また、視床下部由来神経細胞株においてGM3関連ガングリオシドがレプチン刺激によるERKリン酸化を促進することが示された。視床下部のレプチン受容体を介したERKリン酸化は摂食、熱産生シグナルへの関与が報告されており、視床下部のGM3関連ガングリオシドが摂食・エネルギー代謝に関与していることがマウスおよび神経細胞株におけるGM3S KOによって示された。本年度計画していた実験の一部は現在進行中あるいは予定変更により行わなかったが、全体的には達成度はおおむね順調である。
|
Strategy for Future Research Activity |
高脂肪食負荷により視床下部炎症の誘導が確認されたが、その際のガングリオシド発現変化については合成酵素(糖転移酵素群)の遺伝子発現としては明らかな変化はみられなかった。しかし、生合成および分解経路の調節・バランス変化の可能性を考慮し、糖脂質そのものの発現変化の確認が必要であるため、今後、さらなるサンプル採取からLC-MS/MSによる解析を行っていく。また、採取した視床下部サンプルにおける各種の糖脂質生合成関連遺伝子やストレス応答性の遺伝子などの発現変化を網羅的に調べるため、マイクロアレイ解析を行う予定である。さらに、4週間の高脂肪食負荷で誘導された視床下部炎症が抹消組織の炎症惹起に先んじて生じているのか否かについて調べていく。 一方、神経細胞株を用いてレプチン受容体シグナルにおけるGM3S KOの影響を調べたが、どのガングリオシド分子種がシグナル調節に直接関わっているのかは不明である。今後、GM2S KO細胞との組み合わせや各分子種を細胞に添加した際のシグナルを測ることで検討していく予定である。さらに、同細胞株においてインスリン受容体シグナルへの影響についても検討していく。
|
Causes of Carryover |
本年度は、既に所有していた試薬・抗体等を使用できたことや、実験に用いるマウスを他のプロジェクトと共有できるケースが多かったことがあり、予定より使用額が抑えられた。次年度においては、さらに必要なマウスの購入に加え、高脂肪食餌、未検討の抗体・リガンド、アッセイ用キット等を順次購入していき、効率よく進めていく。
|
-
-
[Journal Article] Deficient ganglioside synthesis restores responsiveness to leptin and melanocortin signaling in obese KKAy mice.2018
Author(s)
Inamori K, Ito H, Tamura Y, Nitta T, Yang X, Nihei W, Shishido F, Imazu S, Tsukita S, Yamada T, Katagiri H, Inokuchi J
-
Journal Title
Journal of Lipid Research
Volume: 59
Pages: 1472-1481
DOI
Peer Reviewed
-
[Journal Article] NPC1L1-dependent intestinal cholesterol absorption requires ganglioside GM3 in membrane microdomains.2018
Author(s)
Nihei W, Nagafuku M, Hayamizu H, Odagiri Y, Tamura Y, Kikuchi Y, Veillon L, Kanoh H, Inamori K, Arai K, Kabayama K, Fukase K, Inokuchi J
-
Journal Title
Journal of Lipid Research
Volume: 59
Pages: 2181-2187
DOI
Peer Reviewed
-
-
-
-
-
-
-
-