2019 Fiscal Year Research-status Report
乳がん悪性化をもたらす亜鉛トランスポーターの分子機能解明と亜鉛シグナルの解析
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18K06676
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
中瀬 朋夏 (高谷朋夏) 武庫川女子大学, 薬学部, 准教授 (40434807)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 亜鉛 / 乳がん幹細胞 / PRDM14 / 亜鉛トランスポーター |
Outline of Annual Research Achievements |
乳がん細胞の中には、正常な幹細胞に近い性質を持った乳がん幹細胞様の細胞(Breast cancer stem-like cell; BCSC)が存在し、BCSCは自己複製によってがん幹細胞の性質を維持しながら、分化により周囲の乳がん細胞を生み出す根源であることが分かってきた。そのため、治療が成功した後も、このBCSCが残存していると、再度腫瘍を形成し、再発や転移を引き起こす。しかし、未だBCSCの特性や維持機構は不明な点が多く、亜鉛イオンとの関連についてもこれまでに報告がなかった。 MCF-7を非接着条件下無血清培地でスフェア培養した結果、球状集塊(スフェア)を形成した。そのスフェアは、幹細胞マーカーの発現、自己複製能およびin vivoにおける高い腫瘍形成能力を示し、BCSCの特徴的な性質を有している。このスフェアに細胞透過性亜鉛特異的キレート剤を処置したところ、スフェアの形成は、BCSCの維持に必須のがん幹細胞性転写因子PR domain zinc finger protein 14 (PRDM14)の核内発現量の減少を伴って顕著に抑制され、過剰量の亜鉛イオンの添加により回復した。さらに、亜鉛イオン依存的なPRDM14の活性を介したスフェアの形成は、小胞体から細胞質への亜鉛イオンを輸送する亜鉛トランスポーターZIP7の阻害により、消失した。以上より、ZIP7は、亜鉛イオン依存的なPRDM14の核内発現量の制御により、BCSCの維持に関与し、亜鉛輸送体が、がん幹細胞性転写因子の活性を制御できる可能性を初めて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、乳がんの根治を阻む最大の要因として注目されている乳がん幹細胞の維持に、亜鉛トランスポーターを発信源とする亜鉛シグナルが重要な役割を果たしていることを明らかにした。本研究成果は、乳がん幹細胞の亜鉛シグナルを標的とする新たな乳がん分子標的治療法開発を劇的に展開できる可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
ZIP7が関わる亜鉛ネットワークが、乳がん幹細胞の維持を、どこで、どのように統御するのか明らかにするため、細胞モデルおよびin vivo担がんモデルを作製し、他の亜鉛トランスポーターとの繋がり、特に乳がんの悪性化に重要なZIP6との関係ならびに亜鉛シグナルの発信意義について解析する。細胞モデルとしては、Tet誘導shRNAシステムを用いてZIP6を可逆的かつ特異的に発現制御できる細胞を構築し、遊離亜鉛イオン応答性タンパク質ラベル化試薬を用いて亜鉛の細胞内動態とターゲット分子を捉えながら、亜鉛イオン輸送経路を解析する。さらに、そのときの細胞内亜鉛ネットワークをライブイメージング技術により時空間的に解析する。同定できた分子について、in vivo担がんモデルにおいても、動態を把握する。
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Causes of Carryover |
2019年度、乳がん幹細胞モデルを用いて、乳がん幹細胞関連分子と亜鉛動態の関連を解析し、その結果を基に、動物実験を行うとともに学会発表する予定であった。しかし、動物実験の一部分について、がん形成の状況から、データの取得が不可能な事態が生じた。動物実験の計画を変更し、計画していた学会発表を行うことができなかったため、未使用額が生じた。動物モデルの詳細な解析とその研究成果の発表に関しては、次年度に実施し、未使用額はその経費に充てる。
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Research Products
(23 results)