2019 Fiscal Year Research-status Report
代謝性活性酸素種による黒質アストログリア細胞活性化機構の解明とその制御物質の同定
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18K06702
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
小椋 正人 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (10548978)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 活性酸素種 / ミトコンドリア / プロテオーム / アポトーシス / シグナル伝達 / アストログリア細胞 / 神経変性疾患 / 分泌因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
酸化的リン酸化によるエネルギー産生はミトコンドリアの最も重要な機能であるが、同時に、ミトコンドリアはROSの主な発生源である。代謝に伴うROS発生については、神経変性疾患をはじめとする種々の加齢性疾患の発症要因の一つとされている。ところが、ROS発生から疾患の発症に至るまでの一連の分子メカニズムには、未だ未解明な点が多く残されており、解決すべき基本課題となっている。申請者はこれまでミトコンドリアc-Srcによる呼吸鎖複合体IIのsuccinate dehydrogenase A (SDHA)サブユニットの215番目のチロシンリン酸化がROS産生の抑制に必須の役割を持つことを見出してきた。本研究では、アストログリア細胞群特異的SDHAY215F変異体発現トランスジェニック(Tg)マウスを用いて、ミトコンドリア活性酸素種(ROS)に起因するアストログリア細胞活性化モデルを構築し、疾患発症に関与する新規分子の同定および機能解析を行うことを目的とした。本年度は、アストログリア細胞群特異的SDHAY215F変異体発現Tgマウスの行動解析および昨年度同定した新規疾患候補分子の機能解析を行った。ロータロッド試験により運動能協調性を検討したところコントロールマウスと比較してTgマウスにおいて有意な保持時間の減少が認められた。また、その経時的学習能力においても、有意な減少が観察された。Tgマウスの黒質領域のドパミン神経細胞の減少と共に、海馬領域での神経核(NeuN)抗原発現の減少が見られた。疾患領域におけるグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)および疾患候補分子発現の増強が観察された。疾患候補分子のクローニングを行い、初代培養アストログリア細胞における機能発現を確認した。さらに、そのグリア培養上清を用いた神経細胞死解析を行い、神経細胞死制御に関わる新規分泌因子を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CAT-SDHAY215F発現Tgマウスとアルデヒド脱水素酵素1L1(Aldh1l1)プロモーターを持つCre発現マウスを交配させアストログリア細胞群特異的SDHAY215F変異体発現Tgマウスを作出した。研究実施計画に従い、研究目的であるアストログリア細胞群特異的SDHAY215F変異体発現Tgマウスの行動解析および昨年度同定した疾患候補分子(新規分泌因子)の機能解析を行った。運動協調性を評価するためロータロッドテストを行ったところ、コントロールマウスと比較して、Tgマウスではロッド保持時間および経時的学習効果の有意な減少が観察された。運動協調性に重要な役割を果たす脳の黒質領域のドパミン神経細胞をチロシン水酸化酵素(TH)抗体を用いて免疫組織化学法により解析した。その結果、Tgマウスにおいて有意な陽性細胞数の減少が見られた。一方、アストログリア細胞をGFAP抗体を用いて解析したところ、GFAP陽性細胞数のみならずここのGFAP発現の増加が観察された。昨年度同定した疾患候補分子(分泌因子)も同様に解析したところ、Tgマウスのアストログリア細胞において発現の増強が見られた。これらの因子の機能解析を目的としてクローニングを行い、初代培養アストログリア細胞における発現を確認した。この培養上清を用いて神経細胞死解析を行い、アポトーシスを制御する因子を複数同定した。このため、おおむね計画通りに研究実施しているが、コロナウイルス流行に伴う動物実験削減によりin vivo実験の遅延がわずかに起きている。
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Strategy for Future Research Activity |
In vivo実験を中心に、ウイルス接種および行動解析を遂行する予定である。同定した神経細胞死を制御する新規アストログリア細胞因子のin vivoにおける機能解析を行う。レンチウイルスおよびsiRNAシステムを使って分子機能をin vivo(脳内接種)で検証する。これらの研究から、ミトコンドリア活性酸素種により開始されるシグナル系の解明を通して、アストログリア細胞活性化と神経細胞死の分子メカニズムの全貌に迫り、神経変性疾患をはじめとする加齢性病態とミトコンドリア活性酸素種との関連性を考察する。
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Causes of Carryover |
次年度の研究費は、当初の計画通りに、細胞培養培地類およびプラスチック器具(主にシャーレ)および動物の購入(ウイルス接種用)に使用する。これは、研究計画において同定した神経細胞死を制御する新規アストログリア細胞因子のin vivoにおける機能解析を行っていくためである。特にレンチウイルスの作製に関して高力価で純度の高いものを得るには、多大な細胞数から精製していく必要がある。さらに、遺伝子導入試薬の使用量も通常の実験よりも増加するため購入額が高めになる。そのほかに、疾患候補分子の抗体、シグナル伝達に関わる市販抗体および免疫沈降用ビーズ、siRNA作製の費用に、相当額の消耗品費を充当する必要性がある。また、本研究課題において得られた知見の迅速な公表を目的に、国内学会にて2回、および国際学会にて1回発表する予定である。そのため、研究費を国内および外国旅費に使用する。
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