2019 Fiscal Year Research-status Report
昆虫由来のエリシターを利用したセリ科薬用植物の機能性強化に関する研究
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18K06738
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
田中 謙 立命館大学, 薬学部, 教授 (60418689)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 化学生態学 / 生薬学 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で、キアゲハ幼虫の吐き戻し液から同定したエリシターをセリ科薬用植物のボウフウの培養植物に投与することで、植物体中のクマリン類及びポリアセチレン化合物が増加することを見出した。その際、エリシターを投与した植物体からヘキセノールやヘキセナールなどのオキシリピン類の放出が確認されたことから、このエリシター化合物による二次代謝の誘導には、ジャスモン酸に由来するシグナル伝達経路の関与が推定された。一方、シソ科エゴマに同様の処理を行ったところ、二次代謝物の蓄積及びオキシリピン類の放出は認められず、サリチル酸メチルの放出が検出された。そこで、ボウフウ及びエゴマについてジャスモン酸生合成に関与する遺伝子(AOS, AOC, OPR3及びOPCL1)の発現並びにサリチル酸生合成に関与する遺伝子(PAL)の発現解析を行った。その結果、ボウフウではエリシター投与後、LOX, AOS, AOC, OPR3, OPCL1の発現レベルが次第に上昇し、高い発現レベルが維持されたのに対し、PALの発現レベルに変化は認められなかった。同様の処理を施したエゴマでは、13-LOX, AOS, AOCの発現レベルは投与後4時間でも高いレベルが維持されたが、PALの発現レベルの上昇に反してOPR3とOPCL1の発現レベルは減少した。サリチル酸は、植物内で12-oxophytodienoic acidのプラスチドからの放出を抑制することが知られており、そのためOPR3とOPCL1の発現レベルが減少したものと考えられる。これらの結果から、キアゲハ幼虫の吐き戻し液から同定したエリシターは、ジャスモン酸経路を介してセリ科のボウフウの二次代謝物生合成を誘導するのに対して、エゴマではサリチル酸経路という植物の別の防御機構を誘導し二次代謝物生合成誘導に対しては機能しないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに作成したボウフウとエゴマのジャスモン酸生合成に関与する遺伝子発現並びにサリチル酸生合成に関与する遺伝子発現解析に使用するプライマーを用いて、キアゲハ幼虫の吐き戻し液から同定したエリシターが植物の防御に関する遺伝子発現に対する影響を詳細に解析することができた。これらの結果を二次代謝物及び揮発性成分の詳細な分析結果と総合して学会発表や論文報告の準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、ボウフウの種子から無菌発芽させた植物体を用いて実験した。今後は、トウキ、センキュウ、サイコ、ハマボウフウなど他のセリ科薬用植物の培養植物を作成し、キアゲハ幼虫の吐き戻し液から同定したエリシターによる機能性強化について検討する。特に、サイコは、セリ科薬用植物の中で唯一キアゲハの宿主とならない植物であり、その代謝誘導の差異について研究する。さらに、トウキの露地栽培植物を用いてエリシターによる機能性強化による高品質の生薬栽培法の開発について検証する。
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