2018 Fiscal Year Research-status Report
神経細胞局所で脂質分子分布の偏りを作り・維持するシステムの分子解剖学的研究
Project/Area Number |
18K06828
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
堀川 誠 浜松医科大学, 医学部, 特任助教 (50775997)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脂質輸送 / 神経 / 脂肪酸 / リン脂質 / 蛍光顕微鏡 / 質量顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
質量顕微鏡法やマイクロ流路デバイスを用いた先行研究により、神経細胞の神経突起上には細胞体側から神経突起の先端に向けて脂質分子の分布に偏りがある事が分かっているが、その偏りを生じさせる分子メカニズムは良くわかっていない。本研究では、従来の方法に加え、質量顕微鏡法の高解像度化や蛍光顕微鏡観察法を用いる事で、この分子メカニズムの解明を試みている。 マイクロ流路デバイスを用いた神経細胞への蛍光標識脂肪酸局所投与を行い、蛍光顕微鏡ライブ観察により脂肪酸分子の移動を経時的に追った。結果、神経突起上の脂肪酸分子輸送には移動速度に差があり、細胞体から神経突起先端までの移動速度(順行速度)は逆行時の速度(逆行速度)に比べて5~10倍程度速い事を明らかにした。この事は、脂肪酸分子分布の偏りが動的なメカニズムにより制御されている事を示唆している。また、アジ化ナトリウム処理により細胞内輸送を抑制した神経細胞では、順行速度が極端に低下した事から脂肪酸分子の極性を持った移動は細胞内輸送によるものであると考えられた。 質量顕微鏡法の高解像度化に関しては、電子顕微鏡試料調製法を応用した新規TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)試料調製法を開発する事で超高解像度化に成功し、約200 nm(神経突起一本スケール)の空間解像度で神経突起上の脂肪酸分子分布観察に成功した。しかし、想定以上にイオン化効率が悪い事が明らかとなった(1%前後と想定したが、推定値でイオン化効率は0.1%以下)。また、超高解像度条件では飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸と同程度存在するはずの多価不飽和脂肪酸の検出が困難である事も明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神経突起上での脂肪酸分子輸送に動的極性がある事を明らかにした。また、その極性が能動輸送によるものである事も明らかにした。質量顕微鏡法をサブミクロンスケールまで超高解像度化する事に成功し、一本の神経突起における脂肪酸分子分布を可視化する事が出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
マイクロ流路デバイスを用いて神経細胞に炭素鎖長や不飽和度が異なる各種脂肪酸を添加し、神経細胞の生存率や形態などを調べる事で神経突起における脂質分子分布の偏りがどのような生理作用を持つか調べる。 他の蛍光標識脂質(フォスファチジルコリンなど)に関しても、局所投与を行う事で蛍光顕微鏡を用いた分子の移動の経時的観察を行う。 同様に、安定同位体標識脂肪酸の局所投与を行い、質量顕微鏡法により局所に取り込まれた脂肪酸がどのようなメカニズム(脂肪酸のまま輸送されるか、リン脂質に組み込まれて輸送されるか、など)で神経突起上を輸送されるか明らかにする。この時に用いる質量顕微鏡法は、従来のMALDI-IMS法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量顕微鏡法)を主とする。ただし、TOF-SIMS法のイオン化効率の向上も試み、サブミクロンスケールでの神経突起上の脂肪酸分子分布の偏りを検出できる試料調製法および測定条件を開発する。 クリックケミストリー手法を用いる事、蛍光標識脂肪酸が市販されていない多価不飽和脂肪酸類に関しても、蛍光顕微鏡観察により神経突起上での分布を調べる事を試みる。
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