2018 Fiscal Year Research-status Report
ピロリドン固定解剖体の特性の解明と解剖学研究・教育・研修への応用法の構築
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18K06841
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
松村 譲兒 杏林大学, 医学部, 教授 (90173880)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長瀬 美樹 杏林大学, 医学部, 教授 (60302733)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 臨床解剖学 / 手術手技修練 / 腹腔鏡 / 気腹 / 固定液 / ホルマリンフリー / ピロリドン |
Outline of Annual Research Achievements |
昨今、ホルマリン代替固定液の開発が急務となっている。本研究では、研究代表者が大分大学と共同で開発したピロリドン固定法を解剖学研究・研修・教育へ応用するストラテジーを確立することを目的とし、以下の研究を行った。 目標①ピロリドン固定法の特性の解明と至適条件の決定:ピロリドン投与量、希釈液、保存液、大腿静脈からの脱血、溶血処置追加などの改良を加えた。10%ピロリドン全身灌流では脳の固定には不十分であったが、頭蓋内への局所注入を追加することにより適度な硬度が得られた。組織学的にピロリドン固定群はホルマリン固定群と類似していた。 目標②従来法では剖出・観察が困難であった構造の精査:骨盤臓器、特に仙骨神経叢や骨盤神経叢へアプローチしやすく、精査を進めている。頭蓋底外科手技手法の検討や耳鼻科領域での発声の解析において、ホルマリン法に比べ優れていた。 目標③ピロリドン固定解剖体を用いた医学教育法の構築:従来の解剖学教育では、胸腹壁を開放した状態で外から臓器を観察するのみであったが、腹腔鏡を用いた中からの解剖学も臨床的には重要で、教育ツールを作製すべく精査を行った。 目標④ピロリドン固定解剖体を用いた臨床手技修練ストラテジーの構築:ピロリドン固定法を腹腔鏡手術手技修練に応用できるか否かの最初の検討として、外科手術用腹腔鏡システムを用いてご遺体(ピロリドン固定とホルマリン固定)の腹部にトラカールを挿入して気腹を作り、腹腔内構造を腹腔鏡カメラで観察した。ピロリドン固定遺体の腹壁や柔らかく、十分な気腹状態が得られた。腹腔鏡カメラを挿入すると、腹腔鏡を腹腔内の全方向に進めることができ、腹腔内臓器を生体に近い形でクリアに観察することができた。鉗子操作も生体に近く、臨床的に重要な膜構造も比較的保たれていた。以上より、ピロリドン固定解剖体の臨床解剖学的研究・修練への応用が大いに期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、研究代表者が開発したピロリドン固定法を解剖学研究・研修・教育へ応用するためのストラテジーを構築することを目的として計画した。ピロリドン法はホルマリン法と異なり、臓器が硬化せず柔らかく保たれる。この特性を活かして、初年度はまず、臨床手技修練、特に腹腔鏡下手術手技修練への応用の実現可能性を探った。その結果、気腹操作で腹腔が十分に広がり、内視鏡カメラで腹腔臓器をクリアに観察できた。鉗子操作も生体に近く、膜構造も比較的保たれており、実際の手術に近い環境が再現できた。その結果を第124回日本解剖学会総会で発表し、現在英文論文投稿中である。さらに杏林大学の消化器外科、脳神経外科、麻酔科、呼吸器外科、泌尿器科、循環器内科の医師とともに、具体的な手技に関するストラテジー確立を目指し共同研究に着手した。ピロリドン固定法の特性の解明と至適条件の決定としては、ピロリドン投与量、希釈液、保存液、大腿静脈からの脱血、溶結処置追加などの改良を加えた。10%ピロリドン全身灌流では脳の固定には不十分であったが、頭蓋内への局所注入を追加することにより適度な硬度が得られた。ピロリドン固定動物モデルを作製・解析した。組織学的にピロリドン固定群はホルマリン固定群と類似していた。解剖学研究への応用では、従来法では剖出・観察が困難であった構造の精査として、骨盤内臓器、特に仙骨神経叢や骨盤神経叢へアプローチしやすく、精査を進めている。頭蓋底外科手技手法の検討や耳鼻科領域での発声の解析において、ホルマリン法に比べ優れていた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、研究代表者が大分大学と共同で開発したピロリドン固定法を解剖学研究・研修・教育へ応用するストラテジーを確立すべく、以下の研究を行う。 目標①ピロリドン固定法の特性の解明と至適条件の決定:ホルマリン固定法やThiel法と比較し、ピロリドン固定の特性を解明する。血管内や心臓内に凝血塊が残らないような固定条件を探索する。全身解剖を行い、剖出の実際をビデオ、写真撮影する。抗感染性、病原体不活化能の有無を解析する。ピロリドン固定組織の組織学的形態、免疫組織染色の染色性、抗原性の保持性につき精査する。 目標②従来法では剖出・観察が困難であった構造の精査:骨盤臓器、特に仙骨神経叢や骨盤神経叢、心臓刺激伝導系のマクロ解剖所見を精査する。 目標③ピロリドン固定解剖体を用いた医学教育法の構築:中からの解剖学を確立すべく、観察精査を行う。臨床基本手技のプロトコール作り、教育用標本作製(臓器の3Dモデル、透明化技術と動静脈からの色素注入、Sihler染色、whole mount免疫染色など) 目標④ピロリドン固定解剖体を用いた臨床手技修練ストラテジーの構築:腹腔鏡下臨床手技研修のストラテジー開発、エコーガイド下神経ブロック、中心静脈カテーテル挿入、挿管、マイクロサージェリーなど、杏林大学の消化器外科、脳神経外科、麻酔科、呼吸器外科、泌尿器科、循環器内科の医師とともに、具体的な手技に関するストラテジー確立を目指し共同研究を行う。
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Causes of Carryover |
初年度は、ピロリドン固定解剖体の解剖学研究・修練・教育への応用として、腹腔鏡操作が生体に近い状態で施行できることが判明した。例数を増やし、論文化の準備を行い、臨床各科との共同研究を計画した。3Dプリンターや鋳型を用いた解剖学教材模型作りを次年度に回したため、CT撮影や3D印刷費、鋳型材料などの研究費を次年度に回すことになり、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(17 results)
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[Journal Article] これからの医学教育に求められるもの:2018解剖学会ワークショップから2018
Author(s)
竹田扇, 小田賢幸, 鵜川眞也, 吉川雅英, 松村讓兒, 鈴木崇根, 小澤一史, 社本憲俊, 奥田佳介, 高碩航, 深谷一勤, 須澤綾友, 島田春貴
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Journal Title
日本解剖学会雑誌
Volume: 93
Pages: 54-56
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