2019 Fiscal Year Research-status Report
発生期にリーリンにより誘導される神経細胞凝集は大脳新皮質層構造の起点となるか?
Project/Area Number |
18K06842
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
林 周宏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60373354)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 大脳新皮質 / 細胞凝集 / リーリン / 脂質ラフト |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類大脳新皮質発生時において、興奮性神経細胞は脳室面付近で誕生し脳表面下まで移動するが、この時に、移動を終えたばかりの神経細胞が互いに凝集する現象が見られる。本研究では、この神経細胞凝集のメカニズムを解明することを目的に研究を遂行している。昨年までの研究で、脳表面下の辺縁帯に存在するカハール・レチウス細胞から分泌される糖タンパク質リーリンにより細胞凝集が誘導されること、また移動神経細胞内では、接着因子N-カドヘリンおよびアダプタータンパク質Drebrin-like (Dbnl)が細胞凝集形成に関与することを見出している。 2019年度は、はじめに、Nck分子の神経細胞凝集への関与の有無を検証した。子宮内マウス胎仔脳電気穿孔法を用いてリーリンをマウス発生期大脳新皮質に異所性発現させると神経細胞凝集塊の形成を誘導することが知られているが、Nckをノックダウンさせると、この凝集塊に異形成が見られた。また、NckがN-カドヘリンと直接結合することを生化学的に見出した。続いて、リーリン刺激により神経細胞上の脂質ラフトマイクロドメインが集合することを生化学的に明らかにした。さらに、この集合脂質ラフト内にはリーリンシグナルのハブタンパク質であるDab1、およびN-カドヘリン、Dbnlも局在することも明らかにした。これらの結果より、リーリンにより移動神経細胞上の脂質ラフトが集合し、Dab1、N-カドヘリン、Nck等を集積させることでシグナル伝達を円滑にし、神経細胞凝集を誘導している可能性が示唆された。 これらの研究成果を、第42回日本神経科学大会・第62回日本神経化学会大会合同大会(Neuro2019)(2019年7月新潟)にて報告した。また、The Journal of Comparative Neurology (2019, 527, 1577-1597)にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、Nckがリーリンの下流で細胞凝集に関与している可能性を示唆するデータを得ることができ、リーリンによる神経細胞凝集の分子機構を明らかにできた。一方、「リーリンにより細胞凝集が誘導されるために必要な要素は何か? 」という問いに対する結論はまだ出ておらず、2020年度の研究で明らかにすべき課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、リーリンにより細胞凝集が誘導されるために必要な要素は何か? 」を解明するための実験を行う。リーリンには2種類の受容体があり、それぞれの受容体で凝集形成への関与が異なる可能性が考えられる。そこで、各受容体のノックアウトマウスを用いて、リーリンによる誘導される細胞凝集の相違を観察する。さらに、リーリンの下流シグナル伝達についても各受容体で差異がある可能性も考えられるため、生化学手法等を用いて検証する。また、リーリン濃度依存的に細胞凝集が誘導される可能性も考えられるために、検証実験を行う予定である。
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Causes of Carryover |
理由:研究が当初の計画よりやや遅れいているために未使用額が発生した。割引キャンペーン等を利用し効率的に物品調達を行なったため、未使用額が発生した。 使用計画:次年度使用額は、遅れている研究を進めているための物品費および人件費に用いる予定である。
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