2019 Fiscal Year Research-status Report
Peripheral blood flow redistribution induced by pressor amino acid L-cysteine stimulations of the rat medulla
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18K06854
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
竹本 裕美 広島大学, 医系科学研究科(医), 講師 (60188224)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脳血流 / L-cysteine / 延髄 |
Outline of Annual Research Achievements |
身体に一定量しかない血液は、必要なとき必要とする器官に絶妙にやりくりされている。たとえば動物が毛づくろいをする時と運動をする時では、「脳血流」と「下肢筋血流」間に反対方向の配分が起きる。水道の蛇口のように、自律神経の中枢が器官ごとの血管径を変えて血流の再配分を行うと考えられている。下部中枢の延髄には安静時の血管への神経活動を調節する専用のニューロンネットワークがあり、反射の際には特定の興奮性レセプター(iEAAR)を介することが近年明らかになっている。しかし、いろいろな器官の血流調節を行なう専用ニューロンの延髄内の分布等の詳細についてはいまだ不明である。私たちは1990年にL-システインの中枢作用をはじめて報告したが、その後延髄における血圧作用がiEAARを介することを明らかにした。本研究では、血流再配分のしくみ解明を目指して、L-システインでラットの延髄を刺激して血流抵抗反応マップを作成し、延髄内の器官ごとの血流調節ニューロンの局在の有無を調べている。初年度、筋肉への血流調節部位は延髄の昇圧および降圧野に広く分布しており、さらにアドレナリン分泌を起こす部位をラットで初めて確認し、L-システインが研究ツールとして優れていることを示すことができた。本年度は、総頸動脈血流調節部位について調べ、筋血流と異なる特徴的な反応局在を認めた。ネコと異なりラットでは今までこのような反応局在が報告されてないので、慎重に検討を重ねて反応局在は状況依存的であるなどさらなる知見を得た。総頸動脈血流は頭頸部の多機能組織の血管床に注いでいるうえに、これらの血管床はさらに交感神経と副交感神経の二重調節をうけており、交感神経のみの一重調節である多くの器官の血管床調節に比べて格段に複雑な調節のしくみのためか、解明が進んでいない。本年度の研究成果は、しくみ解明への重要な一歩であると確信している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度(昨年度)は、1)筋血流反応実験をほぼ終えて、かねてより延髄におけるアドレナリン分泌部位の特定が困難とされていた部位をシステイン刺激により同定可能であることを示すこともでき、予定通り進行した。続けて本年度は2)総頸動脈血流反応のマッピングを開始し、筋血流反応マップと異なり、昇圧変化を示すものの対応する血管収縮を起こさない部位が昇圧領野の頭側にあることを観察した。つまり、筋血管への前交感神経が昇圧野全体に分布しているのとは異なり、頭頸部血管への前交感神経は昇圧野の尾側に局在している可能性が示された。しかし、延髄露出の際に頭頸部の筋肉等への血管交感神経を傷害しているために局在が観察されている可能性もあるので、延髄露出の方法を見直したり、血管交感神経の経路となる外頸および内頸神経の切断実験等を行ったりと、検証を重ねた。その結果、血管収縮の反応局在は特定の条件下でおきており、状況依存的な反応局在であることをつきとめて、説明する仮説を提示した。頭頸部の血管床は交感神経と副交感神経の二重調節を受けているが、当該延髄刺激による血流反応が交感神経性であることも証明された。また、血圧反応はないのに頭頸部血流増加を起こす部位がまれに得られ、副交感神経性を疑っている。副交感神経性の総頸動脈血流増加を起こす延髄部位については先行研究が少なく、前交感神経ニューロンとの関係も頭頸部血管床における交感神経と副交感神経の二重調節機構解明のヒントになる可能性があることから興味深くさらに追及する予定である。 このように、幸運にも研究計画は予期していなかった新しい発見をしながら、ほぼ順調に進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は前年度の発見に関連して、総頸動脈血流増加部位の特定を行う。 ネコの総頸動脈血流が延髄顔面神経核背側のL-グルタミン酸刺激により増えることが Kuoらの研究(1987)によって明らかになったがそれ以外の脳幹部位についてはいまだ検証がない。吻側腹側野表面の前交感神経ニューロン野に総頸動脈血流増加部位があったので、さらに背側まで深くL-システイン刺激を行い、総頸動脈拡張部位を調べる。交感神経による血管緊張が低下して血管拡張が生じる可能性もあるので、上頸神経節の除神経を行ったラットでもマッピングを行う。総頸動脈は、頭頸部の機能的に異なる脳、外分泌腺、筋肉、皮膚などの組織に血流を送っており、交感神経による血管の基礎緊張もある組織とない組織がある。脳血管は、他の組織と異なり脳内に特別な血管調節ニューロンをもち、脳外からくる自律神経や感覚神経の外来ニューロンと異なる調節機能をもつ。副交感神経による反射的な拡張反応によって外分泌腺や皮膚などには必要になると多くの血流が流れる。感覚神経による逆行性の血管拡張もあり、総頸動脈血流の調節機構の複雑さが想像される。解剖学的な逆行性トレーサー実験も神経節、脳と顎下腺などで行われており、血管に分布する副交感神経の起始部が脳幹に広く分布することが報告されているが、機能的な研究は皆無である。これまでの研究で、ツールとしてのL-システインによるイオン型興奮性アミノ酸レセプター刺激が、代謝型までも刺激してしまうL-グルタミン酸より有効に機能していると考えられる。最終年度である本年度は、総頸動脈血流増加を起こす部位をマッピングして、色素マーカーでその部位を確認し、得られたデータを過去の解剖学的知見と照らしあわせながら整理して、新しい機能的な知見が将来有効活用されるようにまとめる予定である。
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Research Products
(4 results)