2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K06877
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Research Institution | Meikai University |
Principal Investigator |
村本 和世 明海大学, 歯学部, 教授 (10301798)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横須賀 誠 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (90280776)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 味覚 / 嗅覚 / 風味形成 / 島皮質 / 梨状皮質 / 感覚統合 / in vivoイメージング法 / 学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
食に関する感覚情報は,味覚だけでなく嗅覚や口腔内体性感覚などを総合した風味として評価されているが,その脳内統合の機構は不明な点が多い.本研究は,風味形成の脳内機構解明を目指して,内在性のフラビン蛍光を応用したin vivoイメージング法を用いて味覚と嗅覚の統合機構を解析し,GRIN-rodレンズを応用して生体における脳深部の活動を計測する手法の確立を目標としている. これまでに麻酔下のマウスに対してニオイと味溶液の同時呈示を行うと,それぞれを単独呈示の場合と比較して島皮質(IC)内にある無顆粒島皮質(AI)領域での刺激応答が有意に増大することを明らかにした.また,ニオイは本質的に食味に対して中立であることから,マウスに呈示するニオイを食味と関連(意味)づける学習訓練を行い,学習前の味・ニオイに対する皮質応答との比較を行った.前年度は動物が嫌悪する味質である苦味(キニーネ)とバナナ臭(アミルアセテート:AA)を同時呈示することによってAAに対する嫌悪学習について検討し,嫌悪学習が成立したマウスでは,ニオイ刺激に対しては嗅皮質である梨状皮質(PrC)のみならずIC内の味覚野(GC)にも応答が観察され.キニーネ(苦味)刺激に対してもGCだけでなくPrCが応答することを明らかにした.嫌悪学習によって感覚刺激に対する皮質応答に変化が現れ,関連づけられた異なるmodalityに対して応答することを明らかにしたのである.2019年度はさらに,キニーネの代わりにマウスが嗜好性を示すスクロースを用いて,AAに対して嗜好学習を成立させた場合にどのような変化が現れるのかについても検討した.嗜好学習でも嫌悪学習と同様に,学習成立によってニオイに対してGC応答が,スクロースに対してPrC応答が現れるという皮質応答領域の拡張が観察された.現在,嫌悪・嗜好両学習による皮質応答の違いについて解析中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の実施計画・方法は大きく4つに分けて計画していた.①味覚・嗅覚刺激に対する脳内応答について,GRIN-rodレンズを応用して通常では生体で観察の難しい脳深部を含めて検討を行う.②神経活動マーカーを用いたて風味形成に関わる脳領域(神経回路解析)を組織化学的に検討する.③味とニオイの連合学習をマウスに訓練し,学習による可塑的な皮質応答の変化を検討する.④行動薬理学的に脳内の特定の領域に薬剤を投与して,学習やその結果としての行動変化,刺激に対する皮質応答への影響を解析する.以上である.この内,2019年度は③についてさらに進捗し,連合学習の成立によって本来は刺激に対する責任応答領域ではない他のmodalityに対する脳領域が,組み合わせた他の感覚刺激に対しても応答するようになるという興味深い結果をさらに詳細に明らかにした.本来は①のGRIN-rodレンズを用いた脳深部の領域・神経核等での応答の解析を先行させる予定であったが,予想以上に③の解析が進展したため,こちらが現在の所主たる研究成果となっている.GRIN-rodレンズを用いた解析については,当初既存の励起光照射装置で観察可能であると考えていたが,脳深部に対しては十分な強度の励起光を照射することが既存装置では困難であることが判明し,2018年度はGRIN-rodレンズ内に強い励起光を通すための光ファイバーなどやレーザー光源装置などの購入を行った.2019年度はこれらの新規購入装置を用いて,レンズ内に最適な条件で励起光を通すための条件設定,発せられる蛍光像を画像として取得するための最適条件の設定などを行うことに時間を費やしてしまった.③の解析については当初の予定よりも大幅に進展が見られたが,①については少々遅れてしまったのが現状である.この両成果の相殺を考慮すると,おおよそ順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
研究は概ね望んだペースで進捗しているが,今後の課題としてまずGRIN-rodレンズを用いた脳深部の観察手法を確立することが挙げられる.GRIN-rodレンズについては,予算から既にいくつかのスペックのものを購入済みで,上の項でも述べたように適切な励起照明装置などの装備も購入し,本年度は実際に観察するための条件設定をある程度行うことができた.2020年度は,さらに適切な条件を設定して,本レンズによる脳深部のニオイおよび味応答について解析をしていきたい. また,研究計画の中で結果の出ている味とニオイの連合学習による皮質応答領域の可塑的変化についは,2019年度に引き続き論文として公表するに必要なデータを必要十分とするために補充データ・捕捉データを取るための実験行った.現在論文を作製中となっており,2020年度の早い時期に論文の投稿,刊行まで行いたいと考えている. 本研究で最も予定よりも遅れているのは神経活動マーカーを用いて風味形成の神経回路を組織化学的に解析するプロジェクトである.これについては,分担研究者との共同研究となっているが,必要な抗体や試薬等は準備済みで,具体的に進めていきたい.具体的には,アデノ随伴ベクターをもちいて風味学習した際の回路を可視化し,脳組織の透明化技術と合わせて,島皮質を中心とした風味形成回路を可視化して形態学的に改名することを目標としている.また,2020年度は最終年度となるので,これまでに風味学習によって変化が現れる領域(島皮質と梨状皮質)にGABAアゴニストなど神経活動を抑制する薬物などを学習訓練時や学習効果のテスト時などにカニューレ等から投与して,我々が風味形成に重要であると考えている領域の役割について行動薬理学的に解析する実験も行う計画である.
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Causes of Carryover |
2019年度は当初研究分担者も含めて4名体制で研究を計画したが,うち連携研究者であった私の研究室のメンバー1名が,1年間海外留学のため不在となってしまった.また,大学院生1名も研究メンバーに計上していたが,2018年度に学位を取得した後,歯科医師として大学からほとんど離れてしまったため,実質的に研究実施者が減ってしまい,研究費の消費が少なくなってしまった.また,2018年度に大型の備品や消耗品等は購入して準備ができていたため,2019年度はほぼ消耗品(動物購入費や軽微な試薬等)のみで,研究費の使用分が少なくて済んでしまった.研究分担者の研究室でも,研究実施者の不在から,それほどの金額の消費ができていない. 2020年度は,研究分担者の研究室メンバー,当研究室の大学院生などが新たに加わり,さらには研究代表者の研究室でも留学中のメンバーが帰国して研究を遂行するメンバーの増員が見込める.そのため,より活発な研究活動を行うことが可能となり.その研究費用として助成金を有効に活用する予定である.また,最終年度は行動薬理学的な実験を計画しており,行動観察システム等も購入予定である.研究分担者の研究計画でも,神経回路のマーカーとして,GFPを組み込んだアデノ随伴ウィルスベクターの作製依頼及び購入なども予定している.
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Research Products
(5 results)