2019 Fiscal Year Research-status Report
一酸化窒素(NO)合成酵素由来と外因性NOによるスーパーオキシドの毒性軽減の証明
Project/Area Number |
18K06948
|
Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
藤井 順逸 山形大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00222258)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 一酸化窒素 / スーパーオキシド / ペルオキシ亜硝酸イオン |
Outline of Annual Research Achievements |
炎症部位に集結したマクロファージには一酸化窒素合成酵素(NOS2)が誘導的に発現されてNOを産生し、抗菌作用を発揮する。その際同時にNADPHオキシダーゼが活性化されてスーパーオキシドが生成し、抗菌効果を高める。しかしNOとスーパーオキシドは速やかに反応して、酸化力の非常に強いペルオキシ亜硝酸イオンとなるため、周辺組織に対して傷害作用を及ぼすと考えられている。しかしスーパーオキシドからは過酸化水素を経て、より有害なヒドロキシラジカルが生成する可能性があるため、この反応はNOと反応することでその生成を抑えると考えることができる。本研究では、スーパーオキシドディスムターゼ1(SOD1)を欠損しスーパーオキシドの消去能を欠くマウスと、NOS2欠損マウスを用いて、NOによるスーパーオキシド消去の可能性について検証することを目的とした。 SOD1とNOS2のそれぞれの遺伝子欠損マウスを交配して作製したSOD1;NOS2二重欠損マウスと、単独欠損マウスからマクロファージを単離してNOの産生と細胞の生存に与える影響について検討した。その結果、NOとスーパーオキシドとの反応で生成したペルオキシ亜硝酸イオンによる細胞毒性はほとんど認められず、NOによるスーパーオキシドの消去活性の方が細胞の生存にとって有利なことが分かった。本研究については、現在論文としてまとめて英文誌に投稿中である。 活性酸素は、遊離鉄の存在下に脂質を過酸化させてフェロトーシスを起こす。一方、NOは脂質ラジカルと反応することでラジカル連鎖反応を終結させるため、過酸化脂質によるフェロトーシスの誘導を抑制する可能性がある。そこでフェロトーシスを誘導した培養細胞にNOドナーを添加してその細胞保護効果を調べたところ、予想通りフェロトーシスを抑えることができた。このNOによるフェロトーシスを抑制機構についてさらに解明を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
SOD1とNOS2の遺伝子欠損マウスを交配して作製したSOD1;NOS2二重欠損マウスと、それぞれの単独欠損マウス、ならびに野生型(WT)マウスの4系統のマウスからマクロファージを単離して、培養条件下で検討を行った。WTとNOS2欠損マクロファージの生存に違いを認めなかったが、SOD1と二重欠損マクロファージは脆弱で生存期間が短縮していた。細菌内毒素(リポ多糖)処理を行うと、二重欠損マクロファージはSOD1欠損マクロファージに比べてより早く死滅した。NOドナーの添加により、いずれのマクロファージの死亡率も改善し、逆にNOS2阻害剤はWTとSOD1欠損細胞の生存率を低下させた。以上の結果は、生成したペルオキシ亜硝酸イオンによる細胞毒性と比較して、NOがスーパーオキシドを消去する方が細胞にとって有利なことを示している。本研究結果については、論文にまとめて現在英文誌に投稿中である。また、硝酸/亜硝酸を含まない食餌を与えたマウスを用いた動物実験についても、マウスの実験自体は終えており、代謝産物やデータの解析を行っている。 活性酸素は、遊離鉄の存在下に脂質を過酸化して近年注目されている細胞死・フェロトーシスを起こす。NOは脂質ラジカルと反応することでラジカル連鎖反応を終結させることが知られているため、過酸化脂質によるフェロトーシスの誘導をNOが抑制する可能性がある。そこでシステインの欠乏やグルタチオンペルオキシダーゼ-4(GPX4)の阻害により細胞にフェロトーシスを誘導した状態でNOドナーを添加し、その細胞保護効果を調べたところ、予想通りフェロトーシスを抑えることができた。現在、このNOによるフェロトーシス抑制機構の解明を目指して詳細な検討を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた実験の多くはほぼ終えており、次のようにその後に重要性が増したフェロトーシスについても、NOによる抑制機構を中心に研究を行う予定である。2012年にはじめて報告されたフェロトーシス(Dixon et al, Cell, 2012)では、活性酸素によって生じる過酸化脂質が関与する。しかし当初はその重要性についての理解が進んでおらず、発表後数年してから急速に注目を集めるようになった (Stockwell et al, Cell, 29017)。そのため本課題の申請段階では研究対象としていなかったが、細胞死の形態として重要なため、新たな研究対象として取組んでいる。NOによるフェロトーシスの抑制については、ごく最近になって海外のグループから論文発表された(Kapralov et al, Cell, 2020)。そこでは活性化されたマクロファージにおけるフェロトーシスを対象としているが、マクロファージは他の多くの細胞とは異なる特殊な細胞である。本研究課題では肝臓やその他の臓器に由来する細胞を対象とし、システイン欠乏などによって起こるより一般的なフェロトーシスに対するNOの抑制機構について検討する。そのため、得られる知見は、より広い疾患の予防や治療に適用可能と考える。 具体的には、まず各種刺激によってフェロトーシスを誘導した培養細胞にNOドナーを投与し、細胞死抑制のしくみについて細胞生物学ならびに生化学的な観点から検討する。我々はこれまでにフェロトーシスを特異的に認識する抗体の作出にも成功している(論文投稿中)ため、本抗体を用いてNOによるフェロトーシスの抑制についての細胞学的検討を行う。さらに抗原分子を同定することで、フェロトーシスの実行に関わる分子機構の解明を進める
|
Research Products
(27 results)