2018 Fiscal Year Research-status Report
S-ニトロソ化を介した2型糖尿病の発症制御メカニズムと新規治療法への応用
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18K06952
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
篠崎 昇平 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (40622626)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 一酸化窒素 / 糖尿病 / インスリン抵抗性 / S-ニトロソ化 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでに、2型糖尿病の発症・進展の原因として、遊離脂肪酸や炎症反応による誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現が蛋白のS-ニトロソ化(システイン残基のチオール基に一酸化窒素 [NO] が共有結合する反応)を介して肝臓のインスリン抵抗性を惹き起こす新しいメカニズムを解明してきた。タンパク質のS-ニトロソ化は可逆的な反応であり、その反応には酵素を必要としない。一方、脱ニトロソ化反応を促す酵素としてS-ニトロソグルタチオン還元酵素(GSNOR)が知られている。本研究の目的は、肝インスリン抵抗性におけるGSNORの役割を明らかにすることである。本申請研究期間内に、GSNORの欠損が2型糖尿病発症時に肝細胞機能不全を緩和するメカニズムを解明する。そのために、マウスモデル、マウス単離肝細胞、肝細胞株を用いて、これまでの知見から推測された以下の仮説を検証する。 1.遊離脂肪酸や炎症性サイトカインによる肝細胞機能不全は、GSNOR阻害により予防できること。 2.GSNORはS-ニトロソ化を介してインスリン感受性に影響を与えること。 3.GSNORはDNAおよびヒストンメチル化/脱メチル化酵素の活性制御に関与していること。 初年度は、計画していた上記研究のうち約50%を消化することができた。しかしながら、当初予想していたGSNOR阻害剤のインスリン抵抗性改善効果については、ob/obマウスを使った実験では得ることができなかった。細胞実験の条件検討に当初の予定よりも多くの時間が必要となり、手つかずのままの計画があった。動物実験はサンプル回収を計画通り進めることができた。回収したサンプルの解析は次年度に行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
項目1および2に関しては、マウス肝実細胞株とob/obマウスにおいて研究を進めた。IL-1βあるいは遊離脂肪酸(パルミチン酸)により惹起される肝細胞機能不全が、GSNOR阻害剤(N6022, Axon Medchem)や遺伝的GSNOR欠損によって防ぐことができるか検討した。肝臓特異的GSNOR欠損あるいは骨格筋特異的GSNOR欠損マウスにおける研究に関しては、概ね順調に進んでいる。作成した動物を用い、GSNOR欠損による血糖、耐糖能の変化を評価した。骨格筋特異的GSNOR欠損マウスは、当初の予想と反して高脂肪食を負荷した際にインスリン抵抗性を示した。このことから、GSNOR欠損によるインスリン抵抗性の改善効果は、主に肝臓における作用であることが示唆された。項目3のGSNORがDNAおよびヒストンメチル化/脱メチル化酵素の活性制御に関わるかについては、次年度以降に実施することを予定しており、本年度は特に進展していない。GSNOR活性阻害薬・促進薬の網羅的検索に関しては連携研究者の谷岡が担当している。現在解析を進めており、今後の報告を待っている状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降の研究計画に関して、当初の予定から大きく外れることなく進めていく予定である。項目①に関しては、肝細胞にGSNOR阻害剤などを作用させて機能評価する予定であったが、この実験に関しては、細胞実験による条件検討に時間がかかったため、初年度までに結果を出すことができなかった。そのため、次年度に繰り越して当初計画した実験を進める予定である。項目②に関しては、初年度中の予定はほぼ到達し、おおむね順調である。次年度は遊離脂肪酸や炎症性サイトカインによって増悪した肝細胞機能低下がGSNORの抑制で改善するかについて、Hepa1c1c7細胞、野生型ならびにGSNOR-KOマウスの単離肝細胞を用いて検討する。項目③のGSNORがDNAおよびヒストンメチル化/脱メチル化酵素の活性制御に関わるかについては、内因性GSNORをノックダウンしたマウス肝細胞Hepa1c1c7に野生型および変異型ヒトGSNORを強制発現し、NO供与体やiNOS強制発現によるDNAおよびヒストンメチル化/脱メチル化酵素の活性を検証する予定である。GSNORの活性を制御する化合物の検索については、すでに市販のGSNOR阻害剤があることから、その構造をもとに類似の効果を示す化合物を検索する予定である。新規阻害剤・活性化剤については、連携研究者である昭和大学薬学部准教授の谷岡が中心となって進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
初年度は海外協力機関であるHarvard Medical Schoolにおいて研究を進める割合が多かったため、当初予定した研究費を使用せずに計画を進めることができた。翌年度は、初年度に使用しなかった額を、動物実験や試薬の購入にあて、計画をさらに推進する予定である。
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