2020 Fiscal Year Research-status Report
膵がんにおけるArl4cとIQGAP1の相互作用を介した細胞増殖制御機構の解析
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18K06956
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松本 真司 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (20572324)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Arl4c / Wnt / GREB1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「Arl4cによるIQGAP1との相互作用を介した新規の膵がん細胞の増殖制御機構」を明らかにすることを目的とし、前年度までに、Arl4cはIQGAP1と相互作用し、IQGAP1とMT1-MMP(MMP14)の細胞膜への局在制御を介して、膵がん細胞の浸潤能を制御することが示唆された。2020年度は以下の研究成果を得た。 (1) ヒト膵がん検体におけるArl4c、IQGAP1の発現と予後の相関について検討した。Arl4cは膵がん症例の約80%で過剰発現し、予後不良と相関した。また、Arl4cとIQGAP1を共に発現する症例は、それぞれ単独を発現する症例よりも予後が悪い傾向を認めた。また、データベースを用いた解析から、IQGAP1およびMMP14の遺伝子発現は、Arl4c同様に膵がんの予後不良と相関した。 (2) Arl4cがIQGAP1の細胞膜への局在を制御する機構を解析した。IQGAP1の細胞膜への局在制御には、Arl4cの細胞膜への局在に加えて、Arl4cのC末端の塩基性アミノ酸配列と細胞膜のPIP3 (phosphatidylinositol 3, 4, 5-trisphosphate)が必要であった。また、Arl4cのC末端の塩基性アミノ酸配列はIQGAP1との結合にも必要であることが明らかになった。 (3) 膵がん細胞株S2CP8のヌードマウス膵移植モデルに対して、Arl4cを標的としたアンチセンス核酸(Arl4c-ASO)を皮下投与すると、腸間膜リンパ節への転移が有意に強く抑制され、この時腫瘍組織では、IQGAP1の細胞膜部への集積が抑制されていた。Arl4c ASOの投与は、膵がん細胞を同所移植したマウスの生存期間を延長させる傾向を認めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画である「Arl4cとIQGAP1の細胞内局在の相互依存性の解析」については、18年度におおむね終了し、また、「IQGAP1のArl4c結合ドメインの同定とArl4c-IQGAP1相互作用の機能的意義の解析」については、18年度の結果からIQGAP1のArl4cとの結合に必要な最小領域を同定することは困難であった。一方で、Arl4c側に関しては、Arl4cのC末端の塩基性アミノ酸配列がIQGAP1との結合に必要であることを明らかにし、Arl4cとIQGAP1の相互作用の重要性を示すことが出来た。さらに、Arl4cによるIQGAP1の細胞膜局在の制御には、Arl4cのPIP3膜領域への集積が重要であることが明らかになった。膵がんは予後の非常に悪い癌であり、多くの症例で発見時にはすでに転移が認められ手術適応がない。がんによる死亡原因はこの転移によるものが最も多く、転移の制御は膵がんの予後改善のために急務とされている。そこで、研究計画「in vivo膵癌細胞ゼノグラフトモデルにおけるArl4c-IQGAP1相互作用の意義の解析」を行い、Arl4c ASOによるArl4cの発現抑制がin vivoでの膵がん組織においてIQGAP1の細胞辺縁部への局在と、腫瘍内リンパ管への細胞浸潤、膵がんのリンパ節転移を抑制することを確認出来た。これらの結果から、Arl4cによるIQGAP1とMMP14の局在制御を介した膵がん細胞の浸潤転移の新たな機構と、Arl4cを標的としたアンチセンス核酸の抗腫瘍効果を明らかにすることが出来ており、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はArl4c ASOの作用機序と動態に関する詳細な解析を行う。蛍光標識したアンチセンス核酸を膵がんマウスモデルに皮下投与し、ASOの膵がん腫瘍部への集積と、細胞内への取り込みを確認する。また、正常膵臓組織へのArl4c ASOによる副作用についても解析を行う。 さらに、Arl4c ASOを投与した膵がん組織から、RNAを抽出し、RNAシークエンス解析を行うことで、in vivoの腫瘍組織においてArl4c (ASO)依存的に発現変動する遺伝子群とそのシグナル経路を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究の進捗に伴なって、Arl4cを標的とした膵がんに対する新たな抗がん剤候補としてのArl4c ASOの作用機序と、ASOの動態解析を行う必要性が生じた。本解析には、蛍光標識in vivo用ASOの合成や、RNA-シークエンス解析等を行う必要があるため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(9 results)