2020 Fiscal Year Research-status Report
亜鉛欠乏症への亜鉛要求性タンパク質恒常性維持シグナル伝達機構破綻の関与
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18K06957
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
枝松 裕紀 順天堂大学, 医学部, 准教授 (70335438)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Ras / がん / 小胞体ストレス / JNK / p38 / UPR / MAPキナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
亜鉛欠乏が引き起こす細胞ストレス誘導機構について、亜鉛欠乏下での活性型変異体Ras(以下、HrasG12V)の発現によるラット線維芽細胞Rat-1細胞のストレス応答をモデル系とした解析を進めた。細胞死だけでなく、カスパーゼ3、JNK、p38MAPKの活性化も検討した。 前年度までに、亜鉛欠乏下でのHrasG12V発現によるストレス誘導に関与し得る亜鉛タンパク質の候補として、シャペロンタンパク質であるタンパク質Xを得ていた。今年度は、「亜鉛欠乏下でのHrasG12Vの発現がタンパク質Xの機能を喪失させ、その結果、細胞のストレスが誘導される」との仮説に基づき、研究を進めた。亜鉛が充分に存在する条件下でタンパク質Xをノックダウンし、さらにHrasG12Vを発現させたが、細胞死などの細胞ストレスは誘導されなかった。一方で、HrasG12Vを発現させたRat-1細胞をTPEN(細胞内亜鉛キレーターの一つ)で処理し細胞内の亜鉛を枯渇させると、速やかにカスパーゼ3の活性化が誘導されたにも関わらず、タンパク質Xの機能喪失を示唆するデータは一切得られなかった。以上の結果から、亜鉛欠乏下でのHrasG12Vによる細胞ストレス誘導には、タンパク質Xの機能喪失は関与せず、おそらく他の多数の亜鉛タンパク質の異常が関わると考えられた。 次に、亜鉛欠乏による細胞のストレス誘導におけるHrasG12Vの発現の必要性を検討した。その結果、TPENによる細胞内亜鉛の枯渇のみではカスパーゼ3の活性化などのストレス応答は誘導されず、一方で、HrasG12Vを発現させるとTPEN処理により速やかにカスパーゼ3などの活性化が誘導され、RASシグナル伝達系の重要性が示唆された。また、別の解析から、活性型RASによる一部のMAPキナーゼ系の活性化にはUPR関連シグナル伝達系が関係する可能性が見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度初めの所属研究機関の異動などに伴い、前年度後半から研究活動が停滞してしまった。異動の後は、現所属機関の協力を得ながら研究環境の整備を進め、当該年度の後半には研究活動の本格的な再開に至った。研究活動の本格化以降は、前年度に未達成であったタンパク質Xの機能喪失実験を行い、結果は予想に反するものではあったものの、明確な実験結果を得ることができた。さらに、亜鉛欠乏による細胞ストレス応答へのRASシグナル伝達系活性化の重要性を示すだけでなく、RASシグナル伝達系におけるUPRシグナル伝達系の役割の可能性を新たに見出すなど、本研究計画の立案時には想定していなかった方向へ研究を発展させることができた。これらのことから、これまでの研究の進捗の遅れは当該年度後半でかなり挽回できたと思われる。しかし、研究成果の取りまとめと公表の遅れを取り戻すには至らなかった。以上の理由から、本区分を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度までの研究成果を中心に成果をとりまとめ、論文として公表する。併せて、本研究の過程で明らかとなったRASシグナル伝達系の活性亢進による細胞ストレスの亢進のしくみについて、その分子機構に関わる研究も進める。
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Causes of Carryover |
2020年度に研究機関を異動したことに伴う旧研究実施場所の撤収と新研究実施場所の整備による研究活動の一時的な縮小に加え、計画立案時には想定していなかった研究以外の業務の多忙から、研究の実施全般に遅れが生じ、補助事業期間を延長することになった。2020年度内に研究成果の公表に至ることができず、そのための予算が執行できなかった。また、参加を計画していた学会が新型コロナ禍の影響で中止やオンライン開催になるなどの理由から参加を取りやめたため、学会参加に関係する予算の執行もできなかった。以上の理由から、次年度使用が生じた。次年度使用分は、成果発表に関わる費用を中心に使用する予定である。論文掲載に関わる費用の高騰に対応するため、当初の見込みより多めの予算を充てる計画である。また成果発表のために、これまでの研究をさらに精密に行う必要もあるので、それに関わる試薬等の購入費用に充てる計画である。
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