2018 Fiscal Year Research-status Report
転写制御因子SUZ12によるレドックス制御を介した足場非依存性増殖機構の解析
Project/Area Number |
18K06969
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
石川 文博 昭和大学, 薬学部, 助教 (60515667)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 一憲 昭和大学, 薬学部, 講師 (60349040)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 足場非依存性増殖 / 転移 / 活性酸素種 / レドックス / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
足場非依存性増殖能、すなわち『細胞外マトリックスへの接着を喪失した際に起こるアポトーシス(アノイキス)を回避する能力』は、がん細胞の代表的形質の一つであり、がん細胞が遠隔転移する際に必須の能力と考えられている。我々は最近、高転移性乳がん細胞の足場非依存性増殖に関わる因子として転写制御因子SUZ12 を同定し、さらにSUZ12が活性酸素種(ROS)の制御に関わる可能性を見出した。本課題は、SUZ12によるレドックス制御を介したアノイキス抑制機構の詳細を明らかにし、酸化ストレス誘導による転移抑制治療の分子基盤を構築することを目的としている。 1)接着喪失に伴う細胞内レドックス変化とアノイキスへの関与 まず接着喪失に伴う細胞内レドックス変化及びそれに対するSUZ12の関与について検討を行った。細胞質またはミトコンドリアに局在するROS応答性蛍光タンパク質RoGFPを細胞に遺伝子導入し、接着喪失に伴う細胞内レドックス変化について調べたところ、いずれの細胞内画分でも時間依存的にROSの上昇が観察された。この結果と一致して、酸化型グルタチオンが顕著に増加していた。さらに、これらの変化はSUZ12のノックダウン(KD)によって増強された。 2)SUZ12による酸化ストレス克服機構の解明 当該酸化ストレス克服機構を調べるため、まず接着喪失によるROSの産生系への影響について、NADPHオキシダーゼ(NOX)とミトコンドリア呼吸鎖(OXPHOS)に注目してその発現を解析した。その結果、NOX及びOXPHOSを構成する遺伝子のいずれも誘導されていることが明らかになった。以上の結果から、接着の喪失はNOX及びミトコンドリアの呼吸鎖の構成因子を誘導することで、細胞内のROSの産生を上昇させる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は概ね実地計画に従って解析を行った。 1)接着喪失に伴う細胞内レドックス変化とアノイキスへの関与 接着喪失に伴う細胞内レドックスの変化について、ROS応答性蛍光タンパク質RoGFPとグルタチオンの酸化状態を指標に細胞内コンパートメントごとに評価を行った。その結果、接着喪失に伴いミトコンドリア内での活性酸素の産生が高まり、さらにこの産生がSUZ12によって抑制されている可能性が示唆された。しかし、この産生された活性酸素のアノイキスへの関与については明らかになっておらず31年度の課題としたい。 2)SUZ12による酸化ストレス克服機構と当該機構の人為的制御によるがん転移抑制の可能性 まず接着喪失による活性酸素産生系に関わる遺伝子の発現の解析を行い、NOXとOXPHOSの構成因子ともに誘導されることを見出した。しかし、SUZ12のKDはこれらの誘導に影響を与えないことから、SUZ12はこれらの産生系を抑制することでアノイキスを抑制している可能性は低いと考えられる。そこで現在、転移過程のがん細胞で変化する可能性が示唆されているROS消去系に注目して解析を行っている。また、現段階では関与因子の同定には至っておらず、人為的制御によるがん転移抑制の可能性の検討は31年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
1)接着喪失に伴う細胞内レドックス変化とアノイキスへの関与 昨年度の研究から細胞内でSUZ12により接着喪失時に生じる酸化ストレスが緩和されている可能性が示唆された。そこで今年度は抗酸化物質(N-アセチルシステイン、Trolox、MitoTEMPO etc)をSUZ12KD細胞に処理することで、SUZ12によるアノイキスの抑制にROSの上昇抑制が関与するかを解析する。さらに、カタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼなどのROS消去酵素を各コンパートメントで過剰発現し、アノイキスへの影響を調べる。加えて、酸化ストレス抵抗性転写因子NRF-2を過剰発現させてアノイキスへの寄与を調べることで仮説を補強する。 2)SUZ12による酸化ストレス克服機構 まず接着喪失による活性酸素産生系に関わる遺伝子の発現の解析を行い、NOXとOXPHOSの構成因子ともに誘導されることを見出した。しかし、SUZ12のKDはこれらの誘導に影響を与えないことから、SUZ12はこれらの産生系を抑制することでアノイキスを抑制している可能性は低いと考えられる。そこで、転移過程のがん細胞で変化する可能性が示唆されているROS消去系に注目して解析を行う。具体的には、グルタチオン系やチオレドキシン系や、これらの再還元の際に電子供与体として働くNADPHの産生系に関わる酵素の発現への影響を調べる。併せてSUZ12によるレドックス制御の全体像を得るために、SUZ12KD細胞を用いてRNAシーケンスによる網羅的発現解析を行う。 3)当該機構の人為的制御によるがん転移抑制の可能性 関与因子が同定次された際には、がん細胞でその遺伝子を操作し、免疫不全マウスへ移植することでがん転移への寄与を解析する。
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Causes of Carryover |
年度末に購入予定していた試薬の金額が残額を超えていたため、次年度分の助成金とあわせて購入することにした。
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