2020 Fiscal Year Research-status Report
転写制御因子SUZ12によるレドックス制御を介した足場非依存性増殖機構の解析
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18K06969
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
石川 文博 昭和大学, 大学共同利用機関等の部局等, 講師 (60515667)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 一憲 昭和大学, 薬学部, 講師 (60349040)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 足場非依存性増殖 / がん転移 / レドックス / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
SUZ12によるレドックス制御を介したアノイキス抑制機構の詳細及びがん転移への関与を明らかにするため、2020年度はSUZ12によるアノイキス抑制機構と酸化ストレス克服機構の解明に焦点を当てて検討を行った。 1)SUZ12により抑制されるアポトーシス経路の同定 2019年度までの解析から、SUZ12は接着喪失により誘導される細胞質及びミトコンドリアでの活性酸素種(ROS)量の上昇を緩和してアノイキスを抑制していると考えられた。そこで、2020年度はSUZ12によって抑制されるアノイキスに関与するアポトーシス経路の同定を試みた。アポトーシスは誘導型カスパーゼとして、カスパーゼ8を介した外因性経路またはカスパーゼ9を介する内因性経路によって引き起こされると考えられている。いずれの経路に依存しているかを調べるために、CRISPR-Cas9を用いてこれらの誘導型カスパーゼをノックアウトすることで検討を行った。その結果、カスパーゼ9をノックアウトした際にSUZ12によるアノイキス抑制効果が完全に消失した。従って、SUZ12はROSによって活性化される内因性経路を抑制することで、がん細胞をアノイキスから保護していると考えられた。 2)SUZ12による酸化ストレス克服機構の解明 2020年度はSUZ12による酸化ストレス克服機構について新たな手がかりを得るためにSUZ12の発現抑制によって影響を受ける遺伝子群の同定をRNAシークエンスによって試みた。発現変化を示す遺伝子群の特性を調べるためにGene-set enrichment analysis (GSEA)を行ったところ、がんやリウマチをはじめとする疾患に関わる遺伝子群やサイトカイン・ケモカインシグナルに関わる遺伝子群、そして代謝に関わる遺伝子群が有意に変化していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
1)SUZ12によるアノイキス抑制機構 SUZ12によるがん細胞のアノイキス抑制メカニズムについて糸口を得るために、関与する誘導型カスパーゼをCRISPR-Cas9を用いてその関与を調べた結果、ミトコンドリアを介する内因性経路に関わるカスパーゼ9が特異的に関わっていることが明らかになった。アポトーシス経路がミトコンドリアを介していることは、SUZ12が接着喪失に伴うミトコンドリア由来のROSの上昇を抑制してアノイキスを抑制しているというこれまでの解析結果とも一致する。 2)SUZ12による酸化ストレス克服機構の解明 SUZ12は転写制御因子であり、核内で何らかの遺伝子の発現を制御することでその機能を果たしていると考えられる。そこで、新たな手掛かりを得るためにRNAシークエンスによってSUZ12により制御される遺伝子群のGSEA解析を行った。その結果、がんやリウマチなどの炎症性疾患に関わる遺伝子群が多く含まれていることが明らかになった。しかしながら、現在のところ酸化ストレス克服に関わる遺伝子の同定には至っておらず、2021年度の課題としたい。 3)当該機構の人為的制御によるがん転移抑制の可能性 未だ関与因子の同定にまで至っていないため、こちらについてはまだ着手できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に行ったSUZ12をノックダウンした転移性乳がん細胞のRNAシークエンス解析から、SUZ12の発現によって影響を受ける110の遺伝子が同定されている。まず、これらのうち、文献的にアポトーシスまたは酸化ストレス制御に関わることが知られる遺伝子を抽出する。次いで、それらの遺伝子に関してshRNAまたはcDNAを過剰発現することで、接着喪失に伴う酸化ストレス及びアノイキスへの影響を調べる。関与が認められた際には、当該遺伝子による酸化ストレス制御機構とSUZ12による遺伝子発現制御機構について解析を行う。既知の酸化ストレス制御因子で影響が認められなかった場合には、その他の遺伝子に関しても、同様に解析を行う。 3)当該機構の人為的制御によるがん転移抑制の可能性 関与因子が同定された際には、転移性がん細胞でその遺伝子を操作し、免疫不全マウスへ移植することでがん転移への寄与を解析する。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、大学でのPCR検査体制の構築と運営に多大な時間を費やすこととなった。このような状況のため、実験に費す時間がとれず大幅な研究の遅れが生じ、予定していた研究を行うための費用を使うことができなかった。2021年度は前年度に計画していた実験を遂行するために使用する予定である。
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