2019 Fiscal Year Research-status Report
脂肪性軟部腫瘍は正確に病理診断されているか? 実践的診断アルゴリズムの確立
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18K06989
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
廣瀬 隆則 神戸大学, 医学研究科, 特命教授 (00181206)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 異型脂肪腫様腫瘍 / 高分化型脂肪肉腫 / 脱分化型脂肪肉腫 / 筋肉内脂肪腫 / p16 / HMGA2 / MDM2 |
Outline of Annual Research Achievements |
後腹膜の異型脂肪腫様腫瘍・高分化型脂肪肉腫ALT/WDLPSと脱分化型脂肪肉腫DDLPSは高率に再発し、腫瘍死を来すことが知られている。そこでこれらの浸潤様式を、手術材料を用いて病理学的に検討した。後腹膜に発生したALT/WDLPS 2例、DDLPS 7例を対象とし、すべての病理組織標本を検鏡し、切除断端浸潤の有無を評価した。またp16、HMGA2免疫染色を行い、腫瘍細胞の広がり方を検討した。病理診断の妥当性はMDM2、CDK4免疫染色とdual color in situ hybridization (DISH)法によるMDM2遺伝子増幅で評価した。検討の結果、対象とした9例のすべてで組織学的に断端部に腫瘍細胞の存在が確認された。腫瘍辺縁部では、腫瘍との境界が明瞭な領域と不明瞭な領域が観察された。前者では、腫瘍は膨張性に発育し、後者ではp16陽性の異型間葉系細胞が脂肪隔壁に沿って広範に浸潤していた。また主腫瘍とは離れた部位にも嬢結節を認める症例も存在した。以上の結果から、後腹膜ALT/WDLPSとDDLPSは浸潤傾向の強い腫瘍であり、完全切除が困難なため、高率に再発する可能性が示唆された。また腫瘍浸潤の同定にはp16免疫染色が有用と考えられた。 四肢深部に発生する異型脂肪腫様腫瘍ALTと筋肉内脂肪腫IMLPは成熟脂肪組織を主体とする腫瘍で、組織学的な鑑別が難しい場合がある。IMLPは良性であるが、ALTは良悪中間腫瘍で再発を来しやすい。両者を鑑別するために、ALT 5例とIMLP 5例を対象とし、p16およびHMGA2免疫染色を実施した。その結果、ALTとIMLPの両者でp16およびHMGA2陽性細胞が検出された。p16陽性細胞はALTで有意に高率に陽性であったが、ALTとIMLPで質的な差は見いだせず、いずれも特異的な診断指標にはなり得ないことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
脂肪肉腫の浸潤様式に関する研究では、おおむね良好な結果が得られたと考えている。後腹膜に発生した脂肪肉腫(異型脂肪腫様腫瘍と脱分化型脂肪肉腫)は高率に再発し、死亡率が高いことが知られている。その原因として完全切除が困難なことが挙げられるが、本腫瘍の浸潤様式に関する研究は乏しい。今回の検討結果で、後腹膜脂肪肉腫は肉眼的に境界明瞭に見えても、組織学的には周囲に広範に浸潤していることが明らかとなった。さらに主腫瘍とは離れた部位に嬢病変を形成することもある。この浸潤領域の確認には、p16免疫染色が有用であることも明らかにした。また検討した全例で切除断端部に腫瘍の浸潤が認められ、再発が予測される結果であった。本研究の意味するところは、後腹膜脂肪肉腫の外科的切除による根治は実際上困難であるということである。分子標的治療などの新しい治療戦略の開発が必要と考えられる。また再発の危険性を予測するために、p16免疫染色の活用が推奨される結果であった。 一方、異型脂肪腫様腫瘍と筋肉内脂肪腫との鑑別に関する研究では想定していた結果が得られず、際立った研究の進捗は得られなかった。異型脂肪腫様腫瘍は良悪中間群に位置付けられている脂肪性腫瘍であり、転移することはないがしばしば再発することから、良性の筋肉内脂肪腫との鑑別が重要である。しかし、この両者はよく成熟した脂肪組織からなり、組織学的に類似していることが多い。これらの鑑別を目的に、p16とHMGA2免疫染色による予備実験を行った。その結果、異型脂肪腫症腫瘍と筋肉内脂肪腫の両者で、p16、HMGA2陽性細胞が散在性に確認され、質的な違いは見出せなかった。想定した結果は得られず、症例数を増やした本実験に進むことは断念した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、四肢の脂肪肉腫における浸潤様式の研究と新しい脂肪性腫瘍概念の研究を予定している。 前年度の研究で、後腹膜に発生した脂肪肉腫では広範な腫瘍浸潤が認められ、手術的に完全摘出することは困難であることが明らかにされた。そこで次の課題として、四肢に発生した脂肪肉腫での浸潤様式についての検討を行う。具体的には、四肢に発生した異型脂肪腫様腫瘍と脱分化型脂肪肉腫を10例程度選定し、組織学的な断端評価とp16、MDM2などの免疫組織化学的検討を行う。その結果に基づき、後腹膜脂肪肉腫と四肢の脂肪肉腫との浸潤様式の違いを明らかにしたい。両者に違いがあれば、四肢のものは手術的な根治が期待されるし、後腹膜と同様の浸潤様式であれば、より広範な切除や断端部評価が必要になる。 さらに、近年、異型紡錘形細胞・多形性脂肪性腫瘍という新しい脂肪性腫瘍概念が提唱されている。これらは紡錘形細胞・多形性脂肪腫と鑑別を要する腫瘍群であり、これらに比べると高い再発率が報告されている。しかし、まだ報告例が乏しく、診断の手掛かりや分子異常、臨床的な特徴など不明な点が多い。過去の脂肪性腫瘍、特に紡錘形細胞・多形性脂肪腫、異型脂肪腫様腫瘍と診断されている症例を再検討し、異型紡錘形細胞・多形性脂肪性腫瘍に相当する症例を抽出し、臨床病理学的検討を行いたい。 また研究計画の最終年度であり、課題で得られた結果をもとに、脂肪性腫瘍の診断アルゴリズムの構築を行いたい。
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Causes of Carryover |
異型脂肪腫様腫瘍と筋肉内脂肪腫の病理学的鑑別に関する研究の予備実験を行ったところ、想定とは異なり、両腫瘍型でp16およびHMGA2陽性細胞が検出され、これらは特異的な指標とはなりえないことが明らかとなった。そのため、これに関する本実験を行うことを断念し、抗体、試薬などの消耗品の購入費が予定額より減少した。また後腹膜脂肪肉腫の浸潤様式に関する研究成果の発表および論文作成を年度内に完了することができなかったことも支出額の減少の一因である。 令和2年度は、四肢に発生した異型脂肪腫様腫瘍と脱分化型脂肪肉腫の浸潤様式に関する研究と新規脂肪性腫瘍である異型紡錘形細胞・多形性脂肪腫様腫瘍についての病理学的解析を行う予定である。研究経費は、これらを実施するための抗体、FISH/DISHプローブ、試薬類などの購入にあてる。また研究成果を、国内外の学会で発表し、最終的には学術誌に論文として投稿する。これらの経費としても活用する。
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