2018 Fiscal Year Research-status Report
実臨床データを利用した寄生虫症最適検査診断システムの構築
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18K07090
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
丸山 治彦 宮崎大学, 医学部, 教授 (90229625)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 寄生虫症 / 抗体検査 / 臨床研究 / 診断 / 組換え抗原 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の二本柱は、大規模検査に対応した抗体検査系の確立と、臨床データに基づく鑑別診断フローの作製である。前者は患者血清を用い、後者は患者情報を用いる。そのため、最初に、臨床研究「寄生虫症に対する包括的検査診断システムの開発-臨床情報と残余検体を使用する後向き研究-」を宮崎大学医の倫理委員会に申請し、承認を得た(研究番号O-0359)。これにより、2001年から2018年に宮崎大学医学部感染症学講座寄生虫学分野に寄生虫症検査依頼をした患者の、全ての残余血清と検査申込み書に記載された臨床情報を扱うことが可能になった。 本研究課題では、臨床症状と検査データから診断へ至るまでの最適手順を確立する。そのためには、わが国における寄生虫症の発生動向などの実態も正確に把握する必要があることから、本研究課題の最重要疾患である肺吸虫症の再評価をおこなった。その結果、近年肺吸虫症は全体の数には大きな変化がないものの、日本人患者は漸減傾向で逆に外国人患者は微増傾向にあること、また外国人の出身地もかつてのタイ、中国、韓国の3国に加えて、フィリピン、カンボジア、ネパールなど他のアジア諸国へ多様化していることがわかった。また、理由は不明だが、都道府県別で最も肺吸虫症の外国人症例の多いのは福岡県であった。このようなデータは、今後予想されるASEAN諸国などからの定住外国人の増加にともなう持ち込み寄生虫症ないし国内での新規感染への対策において有益な情報である。 抗体検査では、肝蛭の専門家である岩手大学・農学部・共同獣医学科の関まどか博士と共同研究を開始し、組換え肝蛭抗原rCatL1の感度と特異度を検討した。本抗原は感度と特異度にきわめて優れていることが分かったため、実際の寄生虫症抗体検査業務に取り入れた。2019年に入ってすでに4例が本抗原によるELISA法で肝蛭症と診断されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大規模検査に対応した抗体検査系の構築に欠かせないのは感度と特異度に優れる組換え抗原の導入である。平成30年度は組換え肝蛭抗原rCatL1の感度と特異度を検討した。その結果、感度は100%(26/26)で、寄生虫感染のない患者血清での特異度も100%(29/29)であった。他の寄生蠕虫感染陽性血清における交差反応は、顎口虫症0/28、トキソカラ症0/29、マンソン孤虫症0/20、住血吸虫症0/10、肝吸虫症0/8と全く認めなかったが、肺吸虫症血清では32例中6例が陽性となり、特異度は81.3%であった。しかしながら、肺吸虫症と肝蛭症では臨床像が全く異なっているので、診断に際して問題となることはないと考えている。 さらに、2018年に宮崎大学医学部感染症学講座寄生虫学分野に検査目的で送付された血清サンプル311検体について抗肝蛭抗体を検査したところ、陽性サンプルは11検体(3.5%)であった。この中で実際に肝蛭症と診断した症例2例は陽性であったことから、なんらかの理由で寄生虫感染が疑われた症例を母集団とすると、肝蛭抗原rCatL1の感度は100%(2/2)、特異度は97.1%(300/309)と計算された。さらに、rCatL1はマルチドットELISA法にも適用できることを確認し、きわめて優れた抗原であることが確認できた。これにより、すでに導入済みの組換え糞線虫抗原rNIEと併せ、粗抗原の特異度の低さに悩まされてきた肝蛭症と糞線虫症については、きわめて切れ味の鋭い抗体検査法が確立できた。 患者情報については、2011年以降の検査申込み書の電子テキスト化が終了しており、主訴、検査データ等をパラメータとした解析が実行可能になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
大規模検査に対応した抗体検査系の確立では、トキソカラ、ブタ回虫、顎口虫、マンソン孤虫、肺吸虫はすでにcDNAクローニングが終了している。直ちに組換え抗原を調製し、組換え肝蛭抗原rCatL1と同様に、実際の患者血清サンプルを用いて、他寄生虫との交差反応の程度、実際的な母集団における検査の感度と特異度、的中率、尤度比等を検討する。さらに、糞線虫症については、組換え糞線虫抗原rNIEを用いた体外診断用イムノクロマトグラフィキットを試作する。そのための倫理承認はすでに得ている。 患者情報の電子化では2001年~2010年の全データを取込み、18年分のデータを用いて症候解析、末梢血液像などの検査データ解析に着手する。最初に検討するパラメータは、主要症状(呼吸器症状、腹部症状、神経症状等)、年齢、画像所見、末梢血好酸球数とする。これにより「末梢血好酸球数がいくつ以上で肺と肝臓に結節影があれば、動物由来の回虫類による内臓幼虫移行症である確率(有病率)は70%以上」等の具体的な記述を積み上げていく。その結果得られる寄生虫疾患鑑別診断チャートは、「難診断性寄生虫症診断の手引き」として公開する。 さらに、検査申込みに添付されている(株)エスアールエルによるmultiple-dot ELISA法の結果から、その感度、特異度、的中率、尤度比を算出する。寄生虫疾患鑑別診断チャートと組み合わせることによって、さらに現場に即した診断プロトコルを確立する。
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Causes of Carryover |
本研究計画における消耗品費の対象は、おもに組換えタンパク質の作製と抗体検査のための試薬類である。初年度においては、組換え肝蛭抗原は共同研究者の関まどか博士(岩手大学・農学部・共同獣医学科)の供与を受けた。トキソカラ、ブタ回虫、顎口虫、マンソン孤虫、肺吸虫の各抗原については、初年度に実施したのはcDNAクローニングまでであり、ここまでは試薬の新規購入の必要がなかった。酵素抗体法についても、初年度には大規模アッセイを実施したのは肝蛭抗原についてのみであり、やはり試薬を新規に購入する必要がなかった。 次年度は、肝蛭以外の組換え抗原の調製と大規模な抗体検査を実施するため、消耗品費の大幅な増加が予想され、ほぼ全ての消耗品費経上額を執行する予定である。
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Research Products
(3 results)