2019 Fiscal Year Research-status Report
実臨床データを利用した寄生虫症最適検査診断システムの構築
Project/Area Number |
18K07090
|
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
丸山 治彦 宮崎大学, 医学部, 教授 (90229625)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 抗体検査 / 寄生虫症 / 感度 / 特異度 / 確定診断 / スクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
土壌媒介性寄生虫症である糞線虫症について、アドテック株式会社(大分県)を共同研究機関として組換え抗原NIEを用いた検査キットの試作品を開発した。検査感度は通常の酵素抗体法(ELISA法)よりやや劣る80%であり、感度を上げるための検出系を調整している。住血吸虫症とトキソプラズマ症でも他機関との共同研究について医の倫理委員会承認を取得し、住血吸虫症は長崎大学熱帯医学研究所、トキソプラズマ症は東京慈恵会医科大学附属病院から陽性血清を入手、組換え抗原を用いた抗体検査系の研究開発を進めている マンソン孤虫症については、マンソン孤虫の概要ゲノムを決定してプロテオーム解析をおこない、最も検出量の多い分泌タンパク(機能不明)を同定して組換え抗原を作製したが、患者血清と反応しなかった。また、既報のシステインプロテアーゼも患者血清との結合がみられなかった。これらの原因は不明であり、マンソン孤虫症については研究開発が中断されている。 もっとも進捗したのは肝蛭症の抗体検査系で、システインプロテアーゼの一種であるカテプシンL1の組換えタンパク質(rCatL1)を大腸菌で作製し、既知血清との結合をELISA法で検討した(用いた既知血清は、肝蛭症10、非感染29、他の寄生虫症119)。ROC曲線を利用してカットオフ値を設定し、rCatL1-ELISAで感度特異度ともに100%が得られた。次にこの検査系が実際の診断にどの程度有用かを検討するため、2018年1月から2019年2月までに検査目的で受け取った血清全て(311検体)について再アッセイを実施したところ、見落としていた1症例を肝蛭症と診断することができた。実検体311による感度は100%、特異度99.3%であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
検査申込み書と報告書の電子化はほぼ終了し、数千症例からなる膨大なデータが電子的に検索可能な状態になっている。症候や画像所見、検査値等から検索できる寄生虫疾患データベースの構築に着手しており、この点は順調に進展している。 抗体検査系の方も、糞線虫症と肝蛭症は完成し、現在投稿論文準備中である。トキソカラ症、ブタ回虫症、住血吸虫症、トキソプラズマ症については実験進行中で、進捗状況はほぼ計画通りである。ただし、マンソン孤虫症は組換え抗原が患者血清と反応しないという予期しないトラブルが発生して実験が中断され、次の候補タンパク質の作製はできていない。また、肺吸虫症と顎口虫症では組換えタンパク質が作製できていない。 以上より、本プロジェクトの一部のモジュールは計画通りまたは計画を上回る進捗状況をみせているものの他のモジュールでの若干の遅れがあるため、全体では「やや遅れている」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
最優先の研究項目は「臨床データに基づく鑑別診断プロトコルの作製」であり、電子化されたデータに基づき、主要症状(呼吸器症状、腹部症状、神経症状等)でまとめ、さらに、それぞれを年齢、画像所見、末梢血好酸球数などのデータにより、いくつかの亜集団に分ける。この項目に関しては2011年から2015年の5年分のデータに基づいて作製したベータ版があり、診断上有用な項目が分かっているので、これを拡大して包括的プロトコルを完成させる。 すでに組換え抗原が存在するトキソカラ、ブタ回虫、住血吸虫、トキソプラズマについても、糞線虫症(SsNIE)、肝蛭症(rCatL1)の診断抗原で確立した手順で速やかに感度と特異度を決定する。すなわち、陽性血清、非感染血清、交差反応試験血清(他種寄生虫に感染)を用いてELISA法による結合試験をおこない、ROC曲線を利用してカットオフ値を決定する。次いで、一定期間に受け取ったサンプル全てについて網羅的に再アッセイ等を実施し、実際の診断業務と同じ条件での検査の品質を検討する。 組換え抗原が作製できていない顎口虫、マンソン孤虫、肺吸虫については上記と並行してコンストラクトの作製を進める。顎口虫と肺吸虫の虫体は、農学部獣医学科寄生虫病学研究室に材料を供与してもらい、cDNAを得る。マンソン孤虫はプロテオーム解析のデータを再検討し、分泌量の多いプロテアーゼに的を絞り、組換え体を得る。
|
Causes of Carryover |
今年度は、マンソン孤虫抗原についてプロテオーム解析の結果により診断抗原として有用と判断した機能不明のタンパク質、および既報のシステインプロテアーゼを発現させ、患者血清との結合を検討した。ところが、どちらについても、得られた組換えタンパク質に患者血清が全く結合しないという予想外の結果となり、塩基配列の確認や発現系の変更などに時間を要した。その間、他の組換え抗原の作製と血清結合試験を停止させていたので、結果として消耗品の消費が少なく、次年度使用額が発生した。 次年度は最終年度に当たることから、マンソン孤虫抗原については当面棚上げとし、ブタ回虫、住血吸虫など他の組換えタンパク質の調製と血清との結合試験を同時並行して実施する。抗体検査系としての評価手順は確立しており、rCatL1と同様、陽性血清、非感染血清、交差反応試験血清を用いてELISA法による結合試験をおこない、ROC曲線を利用してカットオフ値を決定、次いで一定期間に受け取ったサンプル全てについて網羅的に再アッセイを実施し、実際の診断業務と同じ条件での検査の品質を検討する。 以上の抗体試験結果と臨床データに基づく鑑別診断プロトコルを合わせて、研究計画の目的を達成する。
|
-
-
-
-
-
-
[Journal Article] 1.Phylogenetic relationships of Strongyloides species in carnivore hosts.2020
Author(s)
Phoo Pwint Ko, Kazuo Suzuki, Marco Canales-Ramos, Myo Pa Pa Thet Hnin Htwe Aung, Wah Win Htike, Ayako Yoshida, Martin Montes, Kazuhiro Morishita, Eduardo Gotuzzo, Haruhiko Maruyama, Eiji Nagayasu.
-
Journal Title
Parasitol Int.
Volume: 78
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
-
-
-
-