2019 Fiscal Year Research-status Report
レプトスピラ症病原体の宿主選好メカニズムに関する研究
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18K07100
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 修一 東北大学, 工学研究科, 助教 (90580308)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小泉 信夫 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (10333361)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 細菌感染症 / 宿主特異性 / スピロヘータ / レプトスピラ / 運動性 / 人獣共通感染症 / 顕微計測 / 生物物理学的解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界的にアウトブレイクが見られる人獣共通感染症レプトスピラ症の病原体レプトスピラ属細菌は250以上の血清型に分類され、ヒトを含む様々な哺乳動物に経皮的に感染する。感染後の症状は,血清型と宿主の組み合わせに依存する。一部の動物はレプトスピラを無症状のまま腎臓に長期保菌し,尿とともに断続的に排出するため,感染症拡大の原因となる。保菌動物の発生抑止や感染予防のためには,各レプトスピラ血清型の宿主選好性(宿主との相性のようなもの)を理解することが重要であるが,そのメカニズムは未だ明らかにされていない。本研究では、レプトスピラの宿主選好性を決める可能性因子として、「動物組織への接着性」と「接着後の運動性」の2つを挙げ、これらの実験的検証を行うこととした。 3種のレプトスピラ血清型(非病原性1種,病原性2種)と6宿主由来の腎臓細胞を組み合わせ(計18種),初年度に構築した腎臓細胞シート上での細菌運動アッセイ技術を用いた顕微計測実験を行った。初年度に行った予備実験によって,重篤な症状を引き起こす宿主―病原体ペアと非感染性ペアには,接着性と運動性に違いが見られる可能性が示唆されたため,本年度はこの2つのパラメータを定量的に調べた。それぞれのペアについて約2700レプトスピラ菌体について,腎臓細胞上での接着と運動性を調べたところ,重症ペアでは50%以上の菌体が腎臓細胞に接着し運動しているのに対し,非感染性ペアでは,その割合は25%に満たなかった(75%以上は腎臓細胞に接着せずに,液体培地中を遊泳していた)。また,腎臓細胞上での滑走運動(クロウリング)の持続性を調べたところ,重症ペアほど,レプトスピラは方向性のある持続的な滑走運動を示すことが分かった。以上のことから,病原体の強い接着性および持続的な細胞上運動が,感染後の重症化につながることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では,当該年度の実験はレプトスピラ3株と動物細胞2種の組み合わせで行う予定であった。しかし,初年度の予備実験で病原性と運動・接着性の密接な関係性が示唆されたため,本年度は動物細胞の種類を増やすことにより,より多くの病原体―宿主ペアについて調べることができた。それぞれのペアの重症度については疫学などの文献を参考にした。腎臓細胞上での細菌運動を顕微鏡下で観察,記録するには,市販のスライドチャンバーをそのまま使用することはできず,スライドチャンバー内で腎臓細胞を培養したのち,チャンバー外枠を取り外してから顕微鏡ステージに設置するなど観察上の工夫を施した。細菌運動データの解析に,細胞自動追跡用の自作プログラムを導入したことにより,効率的な実験が可能となり,1ペアについて2700菌体以上のデータを収集することができた。当初の予定にはなかったが,大量のサンプル数が得られたことにより,実験データの統計的クラスタリング(グループ分け)が可能となった。クラスタリングの結果,接着性と運動性のデータが重症ペア,無症状ペア,非感染ペアに仕分けられることが分かった。腎臓細胞へのレプトスピラ感染実験の一つである,「非接着(遊泳)」「接着」「滑走運動」の3状態のフラクション解析結果から,状態間の平衡定数を求めるなど熱力学的考察も行った。また,滑走運動の評価にはブラウン運動の解析(平均二乗変位解析)を用いることで,運動の方向付けの程度が,重症ペア,無症状ペア,非感染性ペアで異なることを見出した。また,予備的実験であるが,滑走運動に関わると思われるレプトスピラ外膜のリポ多糖の変異体を入手し,リポ多糖の構造異常がレプトスピラの滑走運動に影響する可能性を示唆する結果も得た。 このように,申請時の予定より多くの条件での実験と,多角的な解析技術の活用によって,当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の最終年度には,病原因子の特定を行う予定としていた。2年目までの研究によって,腎臓細胞表面での滑走運動が感染初期の病原性に密接に関わることが分かったため,今後は,レプトスピラの滑走運動に関わる分子に注目する。我々の以前の研究で,レプトスピラの滑走運動には,外膜表面に多数存在するリポ多糖(LPS)が関わる可能性を示唆した(Tahara et al., 2018 Science Advances)。レプトスピラの血清型はLPSの構造で分類されるため,LPSは,血清型と滑走運動依存的な病原性を結びつける重要因子であると思われる。しかし,滑走運動に対するLPSの関与も自明ではないため,滑走運動のLPS依存性を調べる必要がある。我々は,LPS形成に関わる遺伝子のトランスポゾン破壊株を入手し,予備的実験によって,LPSの変異がレプトスピラの接着と滑走運動に影響する可能性を示唆する結果を得た。これを踏まえて,レプトスピラのLPS変異体と腎臓細胞を組み合わせ,腎臓細胞上での滑走運動のLPS依存性を定量的に調べる。 運動解析に使用するレプトスピラ血清型もさらに増やしたいと考えている。細胞上で個々の細菌運動を解析するには,レプトスピラの蛍光標識が必要で,現在は,GFPの発現に成功した3株を使用している。レプトスピラにおける分子生物学実験は未だ十分に確立されていないため,使用できる技術には今のところ制限があるが,これまでの症例報告で重要と思われる種,血清型をできるだけ多く使用することを目指したい。滑走運動を阻害する恐れもあるため注意が必要だが,菌体表面への少量の蛍光色素標識も考えている。
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Causes of Carryover |
予定していた旅費,学会参加費分予算に未使用額が生じた。次年度,論文投稿費に使用する。
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