2018 Fiscal Year Research-status Report
部位特異的光架橋を用いた細菌III型分泌装置のタンパク質膜透過経路の解明
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18K07108
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
寺島 浩行 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (60791788)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 細菌べん毛 / III型分泌装置 / タンパク質輸送 / in vitro再構成 / 光架橋 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌の運動器官であるべん毛は、III型分泌系に属するタンパク質輸送体を持っており、6種類の膜タンパク質からなる輸送ゲートと、3種類の細胞質タンパク質からなるATPase複合体で構成されている。しかしながら、基質となるべん毛タンパク質がどのような経路で膜透過するのか十分に理解されていない。そこで、基質タンパク質とべん毛輸送装置の間を部位特異的光架橋法によって架橋し、膜透過経路を同定する。本年度の研究では、(1)輸送基質となるGFP融合FlgDを発現するプラスミドを作成し、光架橋性アミノ酸を導入するためのアンバーコドン変異導入を行った。(2)光架橋性アミノ酸を含んだGFP融合FlgDを細胞で発現させ、in vivoで輸送装置との光架橋を形成させた。(3)光架橋性アミノ酸を含んだGFP融合FlgDを精製し、反転膜小胞を用いたin vitroタンパク質輸送計測系を使い輸送させ、架橋を形成させた。まず(1)の変異体の作成では、光架橋性アミノ酸pBPAがフェニルアラニン誘導体であることから、主に側鎖の大きい疎水性残基をターゲットに十数種類のアンバーコドン変異体を作製した。次に、(2)の細胞内での光架橋性アミノ酸を含んだGFP融合FlgDの輸送・架橋実験を行った。膜画分を調製し、界面活性剤で可溶化、C末端に付加したHisタグを使い輸送基質を精製した。本来細胞質から細胞外に輸送されるタンパク質であるFlgDが膜画分から検出されるということは、輸送ゲートを横断して輸送されている途中のため、細胞膜にトラップされていると考えられる。このサンプルをイムノブロットで解析すると、輸送ゲートタンパク質FlhAとの間の架橋を検出することに成功した。さらに現在は、(3)の反転膜小胞でのin vitro輸送検出系での架橋形成を試みているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、III型分泌系に属するべん毛輸送装置を基質タンパク質がどのように膜透過してくのかを明らかにすることを目指している。初年度の研究では、輸送基質となるGFP融合FlgDを発現するプラスミドを構築し、光架橋性アミノ酸pBPAを導入するためのアンバー変異体を作成した。作成した変異体は、FlgD232残基のうち、N末端からC末端まで計13種類作成した。また、pBPAがフェニルアラニン誘導体であることから、特にフェニルアラニンやロイシンをターゲットに変異導入をした。細胞内でpBPAを含むGFP融合FlgDを発現させたところ、全てタンパク質を発現させることができた。次に、in vivo、in vitoで輸送基質とべん毛輸送装置間での光架橋実験を行った。その結果、in vivoでは、2種類の変異体において輸送ゲートタンパク質FlhAとの架橋を形成することに成功した。この結果は、提案した実験系によって輸送経路の解明にアプローチできることを十分に期待させる結果である。そこで次に、反転膜小胞を用いたin vitro輸送計測系にて、同様に架橋形成できるかを試みた。まず、輸送アッセイを行うために、光架橋性アミノ酸を含むGFP融合FlgDを精製し、精製に成功した。次に、反転膜小胞への基質タンパク質取り込み実験を行った。しかしながら、輸送がスタックした基質タンパク質の量が少ないことから、未だ架橋の検出には至っていない。現在は、実験条件の改善とともに、更なる変異体の作成を通じて、FlhA以外の輸送装置タンパク質との架橋形成を目指している。最終的には、実験環境を厳密に制御できるin vitro輸送検出系で輸送経路を同定することで、より正確な輸送メカニズムの解明を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、輸送基質は、輸送ゲートFlhBによって選別され、輸送ゲートFlhAの細胞質ドメインを介して輸送ゲート内へと導かれ、その後、FliP、FliQ、FliRからなる複合体の内部を通って細胞外に輸送されると考えられている。最近の構造解析の結果から、FliP、FliQ、FliRが輸送ゲートの出口側で輸送チャネルを形成していることが示唆されている(Kuhlen et al 2018 Nature Struc.Mol.Biol.)。しかしながらFlhAとFlhBが形成する輸送ゲートの入り口側に関する情報はほとんどない。本研究によって、輸送ゲートの入り口がどうなっているのか、どのような経路で膜透過されていくのか明らかにできると期待される。これまでに、輸送基質FlgDにアンバー変異を導入し、光架橋性アミノ酸pBPAを導入させ、FlhAと光架橋の掛かる残基を見出すことに成功した。そこで、次に、その残基を中心に網羅的にアンバー変異を導入し、基質タンパク質と輸送ゲート間の架橋を検出し、タンパク質輸送時の基質‐輸送ゲート間相互作用マップの作成を目指す。また、ATPase複合体がタンパク質輸送時にどのような配置で、どのように輸送に貢献するのかについて様々な議論がある。特に、FliI、FliJや、FlhAの細胞質ドメインは、クラス3と呼ばれるフィラメント型タンパク質とそのシャペロンタンパク質と相互作用することが知られている。そこで、輸送基質にロッド・フック型タンパク質FlgDだけではなくフィラメント型タンパク質を使い、比較することを考えている。さらに、サルモネラの輸送装置だけでなくインジェクチソームのタンパク質分泌系やビブリオ菌など他種の基部体‐輸送装置の複合体形成とタンパク質輸送過程を解析し、III型分泌系の普遍的なタンパク質輸送メカニズムを明らかにしていく。
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