2019 Fiscal Year Research-status Report
腸管出血性大腸菌におけるプロファージ間相互作用と宿主菌進化へのインパクトの解明
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18K07116
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中村 佳司 九州大学, 医学研究院, 助教 (60706216)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
澤口 朗 宮崎大学, 医学部, 教授 (30336292)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 腸管出血性大腸菌 / 志賀毒素(Stx)ファージ / サテライトファージ / ヘルパーファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管出血性大腸菌(EHEC)のO145:H28菌株について、①F株のプロファージゲノム内に挿入された志賀毒素(Stx)ファージと②S株のStxファージゲノム内に挿入されたラムダ型サテライト様ファージ、に関する機能解析の成果を以下に記載する。 ①F株には塩基配列が完全に一致した2つのStxファージが挿入されているため、プロファージ内Stxファージに関する詳細な解析を行うのが非常に困難であった。そこで、新たに同定した、同一のStxファージ溶原化パターンを示すE株(互いに異なる塩基配列を含む2つのStxファージが挿入)を用いて、Stxファージの粒子形成能を、ファージ粒子由来のDNAを用いたPCRにより評価した。その結果、プロファージ挿入Stxファージにおいて、他のStxファージと同様にファージ粒子を形成し宿主細胞から放出されることが示唆される結果を得た。さらに、公共データベースに登録された約800の大腸菌株の完全長ゲノム配列を利用して、プロファージ上のStxファージの挿入サイトの塩基配列が、特定の病原性大腸菌のプロファージ間で保存されていることを新たに見出した。 ②サテライト様ファージがS株から放出されることを、①と同様の方法で確認した。さらに、サテライト様ファージゲノム内に薬剤耐性遺伝子を挿入した変異株を作製し、変異株から放出されるサテライト様ファージの溶原株を薬剤耐性を指標に検出する方法を確立した。上記の方法を用いて、サテライト様ファージとヘルパーファージが共に溶原化した株をスクリーニングし、最終的にこれを単離することに成功した。 以上の成果に加え、本研究を行うための基礎知見である、EHEC O145:H28菌株におけるファージとプラスミドのダイナミクスに関する研究成果を、原著英語論文として発表した (10.研究発表の項目に記載)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」と同様に、同時進行する2つの解析の進捗状況を考慮し、選択区分の判断の理由とした。 ①申請書提出時には判明していなかった、F株のStxファージ挿入と同一のパターンを示す菌株(E株)を新たに見出し、F株では困難であった解析をE株を用いて行うことができた。その結果、プロファージ挿入Stxファージの機能を理解するために必要な知見が得られた。さらに、プロファージ上のStxファージ挿入部位の配列に着目し、データベースに登録された大腸菌の完全長ゲノム配列を利用して、大規模な配列解析を行い、プロファージ上のファージ挿入に関する非常に重要な知見を得た。これらの結果は、当初の計画から予想された成果以上に、ファージ研究に関する有益な知見をもたらし得ると考えられた。 ②ラムダ型サテライト様ファージに薬剤耐性遺伝子を導入することで、サテライト様ファージが溶原化した菌株を効率的に単離する方法を確立することに成功した。本法を用いたスクリーニングにより、サテライト様ファージの機能解析を行う上で非常に大きなハードルであった、サテライト様ファージとヘルパーファージが共に溶原化した株を単離することができた。これらの解析は当初の計画どおりに進み、予想通りの成果が得られていると判断できる。 以上のことから、新たに見いだされた知見を加味し、本研究計画は当初の予定以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」と同様に、2つの解析について今後の方針を以下に記載する。 ①F株およびE株をはじめとして、EHEC菌株には一般的に多数のファージが溶原化している。Stxファージの機能解析を詳細に行うため、本研究で使用している菌株からStxファージ粒子を誘導し、ファージ粒子非産生のK-12株に感染させることで、各株由来のStxファージのみが溶原化した株を作製する。また、親株(F株)と2つの重複したファージのいずれかを脱落させた変異株(前年度に作製済)を用いて、プロファージ内Stxファージの機能解析を試みる。ファージの機能解析に際して必要な、ファージ誘導に関する諸条件は前年度に検討済みである。これらに加え、「研究実績の概要」に記載の解析結果をまとめ、本研究課題の成果のひとつとして、原著英語論文の年度内の発表を目指す。 ②単離したサテライト様ファージとヘルパーファージの溶原株から、ファージ粒子を誘導してその形態を観察する。典型的なサテライトファージの形態は、ヘルパーファージとは大きさが若干異なる頭部構造と、ヘルパーと完全に同一な尾部構造から成る。形態画像の所見から、サテライト様ファージ粒子の形態が、ヘルパーファージと類似していること、それ以外の形態の粒子は存在していないことを目視で確認する。この解析を通じて、サテライト様ファージのDNAを包む粒子が、ヘルパーファージにコードされる形態形成遺伝子の発現によって形成されることを確認する。その後、研究計画書に記載のとおり、ファージの複製や形態形成に関与すると予想される遺伝子を欠失させた変異株を作製する。各変異株を用いてファージの機能解析を行い、サテライト様ファージとヘルパーファージの関係を検証する。
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[Journal Article] Differential dynamics and impacts of prophages and plasmids on the pangenome and virulence factor repertoires of Shiga toxin-producing Escherichia coli O145:H282020
Author(s)
Nakamura K., Murase K., Sato MP., Toyoda A., Itoh T., Mainil JG., Pierard D., Yoshino S., Kimata K., Isobe J., Seto K., Etoh Y., Narimatsu H., Saito S., Yatsuyanagi J., Lee K., Iyoda S., Ohnishi M., Ooka T., Gotoh Y., Ogura Y., Hayashi T.
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Journal Title
Microbial Genomics
Volume: 6
Pages: e000323
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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