2019 Fiscal Year Research-status Report
コレラ流行株の大規模ゲノム領域重複メカニズムの解明
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18K07126
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
今村 大輔 法政大学, 生命科学部, 准教授 (70454650)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コレラ / ゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、コレラ流行株のゲノムに起こっている大規模なゲノム領域の増加について、その原因や表現型、流行への影響を明らかにすることを目的としている。コレラの流行地域であるインドのコルカタで、コレラ患者から分離したコレラ菌のゲノム解析を行ったところ、一部の株ではリード数の著しく増加したゲノム領域が見られた。しかし、ショートリードによる解析からは、その増加様式や、メカニズムに関する知見は得られなかった。そこで、ナノポア社のシークエンサーを用いてロングリードを取得し、完全ゲノム配列を構築したところ、染色体構造の大規模な変化や新たなレプリコンの発生は起こっていなかった。また、増加の見られた0.4 Mbに渡る領域が環状化していることが明らかになったが、この領域の切り出しは起こっていなかった。コレラ菌のコレラ毒素をコードしているCTXファージの複製メカニズムであるRolling Circle Replication (RCR)では、ファージゲノムの切り出しは起こらずに、ニックの入った部位から複製される。増加ゲノム領域の環状化部位からも、Rolling Circle Replicationのニック部位のモチーフ配列が見つかった。これらの結果から、コレラ流行株の一部では、RCRによって染色体の大規模な領域が増加していることが示唆された。そこで、さらに5株のゲノム領域増加の見られた株の完全ゲノム配列を構築したところ、いずれの株においても染色体の構造変化や新たなレプリコンの発生は見られなかった。したがって、コレラ菌ではCTXファージの複製メカニズムによって頻繁に染色体領域の増加が起こっている可能性が示唆された。この現象はコレラ菌の遺伝子組成を大きく変化させるため、病原性や流行の継続に影響を与えている可能性がある。また、遺伝子の水平伝播に関与している可能性も考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、コレラ流行株の一部で見られた染色体領域の増加について、その増加様式やメカニズム、コレラ菌の性状への影響を明らかにすることを目的としている。初年度の解析より、コレラ菌の染色体領域の増加は、CTXファージのRolling Circle Replicationによるものである可能性が示唆された。そこで本年度は、この現象の普遍性について検証するため、その他の染色体領域に増加が見られた株5株について完全ゲノム配列を構築したところ、いずれにおいても染色体の構造変化やレプリコンの発生は見られなかったため、同様のメカニズムによるものと考えられた。これらの結果より、本現象による染色体領域の増加はコレラ菌では高頻度に発生していることが示唆された。これらの発見は、当初の計画に対しておおむね順調な進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、このようなゲノム領域の大規模な増加が誘発される条件の特定、また、これによる菌株の病原性や性状に対する影響、そして、これが遺伝子の水平伝播に関与しているのかなどを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
本研究では、完全ゲノム配列の構築が順調に進んだため、これに要する費用が計画段階よりも少額で済んだ。そこで、このゲノム増加が誘発される条件、その病原性や流行への影響など、今後の解析費用に充当し、増加メカニズムの詳細な解明を目指す。
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