2019 Fiscal Year Research-status Report
「リポペプチド」を標的とした、ウイルス感染制御の新戦略
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18K07172
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森田 大輔 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (40706173)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | MHCクラス1 / ミリスチン酸修飾 / リポペプチド / Nef / リゾリン脂質 / 内在性リガンド |
Outline of Annual Research Achievements |
一部のウイルス蛋白質は宿主の反応系を利用し、そのN末端に炭素数14の飽和脂肪酸であるミリスチン酸による修飾を受けて機能することが知られている。例えば、ヒト/サル免疫不全ウイルス(HIV/SIV)が持つNef蛋白質はこのミリスチン酸修飾を受けることで、その免疫抑制蛋白質としての機能を発揮する。研究代表者はサルエイズモデルを用いた詳細な免疫解析から、ミリスチン酸修飾を受けたペプチド抗原、すなわち「リポペプチド」がキラーT細胞の標的分子となることを明らかにした。そして、このリポペプチド免疫応答を担う責任分子は新しいタイプのMHCクラス1分子「LP1」であることを実証してきた。
本年度の主要な研究実績として、LP1分子の内在性リガンドがリゾリン脂質であることをサルLP1分子をモデルとして証明した(Shima et al. 2019 JBC)。MHCクラス1分子の内在性リガンドは、コンベンショナルMHCクラス1分子の場合、例外なくペプチドである。内在性リガンドは定常状態におけるMHCクラス1分子の細胞表面発現レベルを維持し、ナチュラルキラー細胞からの細胞傷害を防ぐ役割を果たしている。LP1分子についてはペプチドでは無くリゾリン脂質によって発現レベルが維持され、一方、ウイルス感染時に多量のリポペプチドが産生されると、リガンドをリポペプチドへと切り替えるものと考えれる。LP1 分子の内在性リガンドの発見により、リポペプチド免疫研究をヒトへと展開するための重要な示唆が得られた。具体的には HLA 分子の内在性リガンドを解析することでリポペプチド提示能力の是非を判定することが可能となり、網羅的なヒトLP1分子の同定へと繋がることが期待されれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度の成果において、高いリポペプチド結合能を有する複数のヒトLP1分子候補を選抜していた。この候補分子については既にトランスジェニックマウスの作出を完了し、安定的な飼育に成功している。現在、リポペプチドの免疫賦活化方法について種々の条件検討を進め、方法論の確立を完了しつつある。 さらに、当該年度の研究成果から、当初の想定以上に網羅的なヒトLP1分子の探索が可能となってきた。リポペプチド提示分子の同定を進めていくことにより、最終的にはそのMHCクラス1分子のアミノ酸配列情報からコンピューターサイエンスの手法によってリポペプチド提示能力の是非を判断することが可能になると見込まれる。以上から、本研究課題は「当初の計画以上に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に向けては当初の計画通り、樹立を完了したヒトLP1トランスジェニックマウスの解析を最優先し、リポペプチドワクチンの開発を視野に個体レベルでの免疫解析を推進する。以下のようなスケジュールでの研究を計画している。1) 免疫賦活化方法についてさらに検討を重ね、再現性と実効性のあるプロトコールを確立する(3-4ヶ月を見込む)、2) 惹起されたリポペプチド特異的T細胞についてLP1四量体を用いて細胞表面マーカー、TCR遺伝子レパートリー、サイトカインプロファイルについて詳細に評価する。また、RNAシークエンスを実施し、ペプチド特異的T細胞と比較する実験も計画している(半年程度を見込む)。3) さらに、種々の研究資源が許せば、ウイルスリポペプチドによる免疫賦活化の後に、感染実験へと進み、リポペプチドのワクチンとしての実効性を直接的に検証する。
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Causes of Carryover |
「次年度使用額(B-A)」については「254,818円」であり「0」より大きいものの、前年度からの持ち越し金額「549,610円」よりも減少している。従って、当該年度は計画以上の支出があった。これは主にトランスジェニックマウスの解析に向けて、抗体の購入費用が嵩んだためである。 翌年度はマウスモデルの解析に向け、マウス飼育費用、LP1四量体構築費用、ELISpot kitや抗体購入費用へと重点的に配分予定である。
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