2018 Fiscal Year Research-status Report
脾臓髄外造血制御とその破綻の分子機構解明と造血幹細胞培養系の確立
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18K07182
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
小田 朗永 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 研究員 (80547703)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脾臓髄外造血 / 骨髄性白血病hakketubyou / 間葉系幹細胞 / 造血幹細胞 / ニッチ |
Outline of Annual Research Achievements |
Tlx1は免疫器官の中で脾臓特異的に発現する転写因子である。申請者らはこのTlx1を発現する細胞(Tlx1発現細胞)を追跡可能なTlx1CreER-Venusマウスを作製する事によって、Tlx1発現細胞が赤脾髄に局在する間葉系前駆細胞である事を明らかにしてきた。さらにTlx1発現細胞は、LPS誘導性脾臓髄外造血時に自身のTlx1の発現量を増加させていた。このTlx1発現量増加の意義を調べる為、Tlx1発現細胞特異的にTlx1欠損可能なTlx1CreER-Venus/flox(CKO)マウスを作製し、Tlx1欠損誘導後LPSを投与した所、CKOマウスにおいて脾臓髄外造血が完全に抑制された。従って、LPS誘導性脾臓髄外造血はTlx1発現細胞におけるTlx1の発現上昇によって誘導される事を明らかにした。興味深い事にTlx1CreER-Venus;Rosa26-Tlx1(Tg)マウスを作製し、Tlx1発現細胞特異的にTlx1の発現を上昇させた所、それだけで脾腫を伴う脾臓髄外造血が誘導された。従って、脾臓Tlx1発現細胞におけるTlx1の発現量が、脾臓髄外造血を制御しているマスターレギュレーターである事を証明した。さらにTlx1を長期的に過剰発現させたTgマウスでは、脾腫以外に末梢血における顆粒球を主体とする白血球増多ならびに重度な貧血を呈し、骨髄における赤芽球系細胞、巨核球の消失、肝臓や肺への骨髄球系細胞の浸潤など、骨髄増殖性疾患様の造血異常が認められた。これらの症状を呈したTgマウスの骨髄または脾臓細胞を放射線照射したCD45.1レシピエントマウスへ移植した結果、約6ヶ月後には末梢血の解析で貧血ならびに白血球増多が認められ、骨髄芽球などの幼弱な細胞も出現していた。従って、脾臓髄外造血制御機構の破綻によって、骨髄性白血病を発症する事が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長期間のTlx1過剰発現によって骨髄性白血病様の症状を呈する事が明らかとなったので、これらの白血病様細胞の中に、自立増殖性を有する白血病細胞が含まれているかどうかを検証する為に、白血病症状を呈したTgマウス(CD45.2)の骨髄または脾臓細胞を放射線照射したCD45.1レシピエントマウスへの移植実験を行った。その結果、脾腫が誘導され末梢血中にCD45.2陽性のCD11b+Gr1+顆粒球を主体とする白血球増多ならびに重度な貧血を呈し、長期間Tlx1を過剰発現したTgマウス同様の表現型が再現された。これらの実験は、長期の時間を要するため、同結果を得られた事は研究の地盤を築くという意味で当該研究を順調に進展できたと言う事ができる。今後、白血病症状を呈したTgマウスの骨髄または脾臓細胞をin vitroにて培養する事によって、株化する事を目的に自立増殖性を有するかどうかの実験を進めたい。さらに骨髄造血と脾臓髄外造血における相違性と共通点を、双方の間葉系前駆細胞の特性を分子レベルで明らかにし、脾腫を伴う髄外造血の病態生理学的な特異的な役割を明らかにしていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の展望として、脾腫と骨髄性白血病との関係を明らかにするために、コントロールマウスと脾腫を有するマウスとの比較において、骨髄性白血病細胞移入時における骨髄及び脾臓へのhoming、増殖、病態変化、そしてsurvivalの違いについて明らかにする。野生型マウスへの骨髄性白血病細胞移入において、移入直後は骨髄へのhomingし、そこで増殖が起こる事が知られているが、その後の急性転化期に脾腫が誘導され、脾臓でも骨髄性白血病のリクルートと増殖が亢進する。この時のTlx1発現細胞におけるTlx1の発現状態や、CKOマウスを用いたときの病態変化についても検証を行う。そして、骨髄造血と脾臓髄外造血における相違性と共通点を、双方の間葉系前駆細胞の特性を分子レベルで明らかにすると同時に、脾臓髄外造血誘導時の骨髄造血ニッチの状態・変化について解析を行う。 これらの結果は、通常白血病細胞が骨髄で増殖し骨髄微小環境を破綻し、脾臓髄外造血を誘導するプロセスの分子メカニズムを提供する。さらに、慢性的に誘導される脾臓髄外造血は、脾臓髄外造血ニッチが白血病ニッチになっているのか、もしくは、脾臓髄外造血ニッチが骨髄造血ニッチの減弱化を誘導しているのかの知見についても明らかとなる事が期待される。それらが白血病の病態進行や悪化に影響するのかを明らかにする事は、白血病進行の遅延に関わる新たな視点を提供すると考えられる。
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Causes of Carryover |
平成30年度の日本分子生物学会へ参加する予定であったが、骨髄性白血病細胞移入時における骨髄及び脾臓へのhoming、増殖、そしてsurvivalの違いについて明らかにするための予備実験を行うために、日本分子生物学会への参加を見送った。このため未使用額は次年度の学会参加の経費に充てる。
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