2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K07195
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
荒木 聡彦 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (80242808)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塩井 成留実 (青木成留実) 福岡大学, 理学部, 助教 (50510187)
澤田 均 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60158946)
松井 太衛 藤田医科大学, 保健学研究科, 教授 (90183946)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 浸潤 / 細胞間接着 / ADAM / プロテアーゼ / 接着解離 |
Outline of Annual Research Achievements |
「がん細胞や白血球の血管貫通」における血管壁の開口現象の分子機構は、よく分かっていない。血管貫通においては、ADAMプロテアーゼファミリーが浸潤細胞仮足に出現することや、それを人工的に欠失させることで浸潤能が抑制されることから、ADAMプロテアーゼが関与することが考えられていた。申請者らは同様に血管壁を開口させる出血性ヘビ毒ADAMを用いて受容体を探索したところ、Wnt受容体でもある、LRP6(申請書では論文発表前だったためADAMR1としている)とLRP5 (同ADAMR2)が、ADAMプロテアーゼの受容体となることを見出した。受容体LRP6の切断阻害抗体を作製することにより、ヘビ毒のADAM毒素による細胞間接着解離および出血現象が抑制されたことから、LRP6やLRP5は血管壁開口現象の受容体の一つであることが示唆された。これらの受容体は、ヘビ毒ADAMと同様に、ヒトのがん細胞や白血球細胞が持つADAM8およびADAM12によっても、同じ個所を切断できることが分かった。したがって、ヒトがん細胞や白血球細胞も、この受容体を使って血管壁開口を起こし、血管を通過する可能性が示唆された。そこで、ADAMによる血管壁開口の分子機構を、これをきっかけに明らかにしていけば、免疫機構やがん浸潤における血管通過を制御することができるかもしれない。 今回、現在までに申請者らはLRP5/6以外に新しく数個のADAM特異的標的を見出した。これらの標的候補の受容体には、いくつかの共通する特徴が見いだされた。このことは、ADAMが血管開口のために、一定の関連した受容体群を切断し、活性化する可能性を示唆した。これはADAM受容体ファミリーの全体像の手がかりになるかもしれない。これらによって血管壁開口現象や、血管細胞に留まらない細胞間接着解離現象を、解明していける可能性を見出した。現在、これらADAM受容体候補因子が、実際に細胞間開口にどの程度関与するか研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成20年度は、サブテーマの①「血管開口機構の疾患関与の解析」においては、癌細胞の血管貫通の細胞培養実験系」の構築に取り組み、②「血管開口機構の解明」においては、主に受容体ファミリー分担の解析で成果があった。 ①の「血管開口機構の疾患関与の解析」においては、癌細胞のTHP-1が血管内皮細胞を貫通する二層チャンバー培養系を構築し、血管内皮細胞が存在するときのみに下チャンバーに貫通する浸潤実験系ができた。血管内皮細胞の存在に強く依存する浸潤実験系は稀で、血管貫通への血管細胞の関与を調べることができる。一般に二層チャンバーを用いた浸潤実験では、二層の間に細胞外マトリクスを用いることが多く、血管内皮細胞を用いることが少ないこともあり、血管内皮細胞が障害物として働く実験系に加え、今回の実験系のような血管内皮細胞が強く促進物として働く現象があることが分かったことで、より血管通過における血管内皮細胞の関与が明らかになる可能性が出てきた。 ②の「血管開口機構の解明」においては、受容体LRP6とLRP5の他に、ADAMにより特異的に標的になり切断される受容体型分子を3種見出した。それらは、既に血管細胞間接着に関与することが報告されたものや、ほとんど論文で言及されたことのないものもあった。これらのいずれの場合も、これまで報告されていない受容体切断だった。また、LRP5, LRP6と新しい3種の標的分子に共通する興味深いいくつかの特徴を見出すことができた。この特徴がADAMの受容体ファミリーの全体像を映し出している、という可能性が考えられた。また、これらの特徴から、共通する一定の細胞内信号伝達が予想された。
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Strategy for Future Research Activity |
サブテーマの①「血管開口機構の疾患関与の解析」における、癌細胞の血管貫通の細胞培養実験系」の構築については、血管細胞に強く依存した浸潤実験系ができたが、この系を確立させるために血管細胞の依存の条件などを調べ上げ、再現性の高い実験系を構築する。 「②血管開口機構の解明」においては、特異的に切断される新しいADAM受容体候補が、複数見つかったことから、これらが、実際に血管細胞間接着の解離に関与しているかどうかを培養細胞等で調べていく。そのために、切断を阻害する抗体を作製し、特異的切断を阻害することで、細胞間接着解離が抑制されるかどうかを調べて行く。 次に、ADAM受容体候補に共通するいくつかの特徴が浮かび上がってきたため、その条件が本当に必要かどうか、またその条件を満たす他の分子もADAM受容体なのかどうかを検証する。そのため、受容体の共通条件存在下と非存在下における、受容体結合と切断の変化について、試験管内・細胞・個体において比較し、共通条件の必要性を調べる。そのことによって示された受容体の条件によって受容体群を特定していき、受容体の全体像を明らかにし、ADAMによる信号伝達システムの解明の糸口とする。 それとともに、このような共通特徴を持つ受容体候補を、網羅的に特定して、ADAM受容体の全体像を把握していく。 他方、それら受容体の細胞内の信号伝達を解明していくため、受容体で共通する細胞内ドメインによる細胞内信号伝達を解析する。培養細胞を用いて、共通する細胞内ドメインに結合する分子群に対する抗体染色等により、それら細胞内信号伝達因子の挙動を調べ、細胞内信伝達を解明していく。
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