2018 Fiscal Year Research-status Report
腫瘍微小環境における好中球をターゲットとした新規大腸がん治療戦略の構築
Project/Area Number |
18K07196
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
板谷 喜朗 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (80814029)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 腫瘍微小環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
腫瘍微小環境における免疫細胞は癌の進展に深く関与するが、免疫細胞の中で多数を占める好中球系の細胞の腫瘍微小環境での役割は不明な部分が多い。好中球は体内で初期免疫をつかさどり、ヒトの生存に必須である。一方で担癌患者では癌組織で好中球系の細胞が癌の進展を促進するという矛盾が生じている。本研究では血液中と腫瘍微小環境中の好中球の機能的相違点に着目し、好中球の感染防御機能を保持しつつ、腫瘍微小環境での癌促進能を抑制するような新規の癌治療ターゲットを探索するべく解析を進めている。 まずは、腫瘍の好中球浸潤の強い大腸癌マウスモデルを用いて、腫瘍間質に作用する抗腫瘍薬での治療効果を検証し、腫瘍微小環境での好中球の役割の見当をつける。その為に、まずは腫瘍間質反応の強い大腸癌マウスモデルの構築、治療モデルの最適化が必須である。次にこれらの大腸癌マウスモデルを用いて、腫瘍中の好中球と血中の好中球を単離し、これらの形態の違いの解明を試みる。その際に腫瘍の消化、フローサイトメーターなど多数の因子の最適化が必要となる。また、費用対効果を考えて、効率の良い比較系を採用する必要がある。これらの情報をもとに、ヒト大腸癌患者においても同様の実験を行い検証する。最後に、腫瘍細胞を単離し培養し、腫瘍微小環境を変化させうる因子の同定を試みる。そうすることで、同定された因子に関する実験的な検証が行うことができる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らは、大腸癌において高頻度に見られる癌抑制因子SMAD4の欠損により、ケモカインCCL15が癌細胞から分泌され、CCR1陽性の好中球系の細胞(g-MDSCやTAN)が腫瘍周囲に集積し、癌の浸潤、転移を促進することを報告してきた。そこで、ほとんどの大腸癌で変異が見られるAPC遺伝子に欠損を有するApcマウスにさらにSmad4の欠損変異を加えたマウス、cis-Apc/Smad4マウス(Takaku_Cell1998)を用いて、大腸炎をきたす薬剤dextran sulfate sodium (DSS)を飲ませ、マウス(DSS-cis-Apc/Smad4)の大腸を観察した。すると、通常の水を飲ませたマウス(cis-Apc/Smad4)に比べて、優位に大腸腫瘍形成が促進されることがわかった。次に、これらの炎症で惹起された大腸腫瘍を有するマウスを、腫瘍微小環境をターゲットとした薬剤で治療するための、治療のプロトコールの最適化の検討を行った。元々cis-Apc/Smad4マウスは小腸に腫瘍を形成するモデルであるため、通常の飼育下では週齢15週ごろより肉眼的に観察可能な小腸腫瘍を形成し、25週には腫瘍からの消化管出血による貧血や、腫瘍増大に伴う腸閉塞で致死的になることがわかった。よって、小腸腫瘍による影響を極力排除するため、週齢11週からの1週間DSSを飲料水に混入し、12週からは通常の滅菌水を飲水させることとした。すると通常飼育下では16-18週で大腸腫瘍の増大に伴い致死的な状態になることがわかった。一般的にマウスを中和抗体で治療するときには3週間程度行うことが多く、このプロトコールであれば、13-15週までの3週間にわたって治療を行い、腫瘍の治療反応性を評価することが可能であると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、上記で作成された好中球の浸潤を認めないcis-Apc/Smad4マウスの小腸腫瘍と、浸潤を強く認めるDSS-cis-Apc/Smad4マウスの大腸腫瘍をそれぞれ確立されたspheroid作成技術を用いて、腫瘍細胞のみを単離培養する。そして、これらの細胞を比較しサイトカインアレイで、腫瘍微小環境への好中球浸潤や浸潤した好中球からの防御に関わる腫瘍側の因子の有無を確認する。 また、上記のDSS-cis-Apc/Smad4マウスを、腫瘍微小環境をターゲットとした薬剤である、抗VEGF抗体や抗PD-L1抗体で治療し、その治療効果をKeyenceのBZ-X700顕微鏡を用いることで定量的に評価する。 また、DSS-Apcマウスの大腸腫瘍を酵素処理し単細胞レベルに分解し、好中球分画のみをFACSにて分離する。同時に同マウスの血液から好中球分画のみを分離しそれぞれを回収する。これらの腫瘍微小環境の好中球と、血中好中球のサンプルをmicroarrayなどで解析し比較する。特に、腫瘍微小環境に深く関与することが予想される因子(血管新生因子やサイトカイン/ケモカイン)に注目する。同様に、ヒトの大腸癌患者においても、腫瘍由来の好中球と血液由来の好中球を単離、回収し、アレイを行い解析することで、マウスで得られた結果との整合性を検証する。
|
Causes of Carryover |
有効な利用のため小額の繰越金が生じた。 次年度の物品費に充当の予定である。
|
Research Products
(3 results)