2018 Fiscal Year Research-status Report
オルガノイドの同所移植マウスモデルを用いた、 ヒト大腸がん転移メカニズムの研究
Project/Area Number |
18K07217
|
Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
柳沼 克幸 公益財団法人がん研究会, がん研究所 細胞生物部, 研究員 (40182307)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 大腸がん / オルガノイド / 転移マウスモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度、申請者は、ヒト大腸がん転移の分子機構を解明することを目的として、遺伝的背景を同じにする、同一患者由来の原発巣、肝転移巣、肝再発巣から三種のオルガノイドを調製し、さらに、ゲノム編集によってGFP遺伝子とルシフェラーゼ遺伝子の、増殖と転移過程を追跡する標識マーカーを導入した。このオルガノイドを、超免疫不全(NSG)マウスの直腸粘膜下に同所移植することでモデルマウスを作製し、発光イメージングによる経時的観察を行った。その結果、それぞれのオルガノイドの直腸移植巣では、手術標本に類似した組織像を形成することが確認された。また、原発巣オルガノイドを移植したモデルマウスでほとんど転移は認められないのに対して、肝再発巣オルガノイドを移植したモデルマウスでは高頻度に肺転移が見られたことから、移植するオルガノイドによって転移の頻度に差異があることが判明した。また、形成された肺転移巣自体は極微小であり、転移の初期段階を反映するものであった。免疫組織学的解析からは、肺血管内に腫瘍塞栓を形成している状態と肺実質に微小転移を形成している状態の二つの異なる転移段階を認めた。さらに、RNA発現解析からは、原発巣と肺転移巣で、幹細胞マーカーの発現パターンが異なることが判明し、転移プロセスでは、転移巣の構成細胞の階層性に変化を生じていることが示唆された。 同一大腸がん患者の原発巣と転移巣に由来する、希少なオルガノイドが、マウスの生体内で、大腸に腫瘍を形成し他臓器への転移も再現できることが実証されたことから、このモデルマウスを用いた転移巣形成過程の詳細な解析が、ヒトで起きている転移メカニズムの実態を明らかにできると考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度に計画したモデルマウスの作製は成功裡に運び、解析が進んだことから、順調な成果を上げることができた。 具体的な実験としては、オルガノイドとして、同一患者由来の原発巣、肝転移巣、肝再発巣から三種のオルガノイドを調製し、このオルガノイドを免疫不全マウスの大腸に移植(同所移植)を行なって、患者の腫瘍の造腫瘍能と転移能を再現する実験系を構築した。大腸腫瘍形成における幹細胞の役割を明らかにするために、標識マーカーあるいは幹細胞マーカーを発現するオルガノイドを同所移植することで、腫瘍形成や転移巣形成における幹細胞の動態を詳細に解析した。移植法としては、ヒトでの腫瘍形成と転移過程をより正確に再現することをめざして、直腸反転法と、大腸内視鏡の使用を試みている。腫瘍形成過程は、IVIS Lumina IIを用いて、発光イメージングによる経時的観察を行った。その結果、それぞれの移植巣病変は、ヒト手術標本に類似した組織像を形成することが確認された。継時的観察からは、原発巣のモデルマウスでほとんど転移は認められなかったが、肝再発巣のモデルマウスでは高頻度に肺転移が見られ、転移頻度に差のあることが示された。さらに、免疫組織学的解析から、移植オルガノイドの違いによる、原発巣の組織像の違いを明らかにし、肺の初期転移巣の組織像を捉えることができた。また、RNAscopeを用いたin situ hybridization解析から、幹細胞マーカー遺伝子の発現動態の詳細を明らかにすることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
ヒト大腸腫瘍由来のオルガノイドを同所移植したマウスモデルにおいて、転移巣形成が再現されたことから、初年度において、当初の目的である、転移メカニズムの詳細な解析を可能にする実験系が構築できた。 肝再発巣オルガノイドでは、原発腫瘍巣から他臓器への転移巣形成が頻度高く起きる。一方、原発巣由来のオルガノイドでは、原発腫瘍巣を形成するものの、転移巣形成の頻度は低い。また、肝再発巣オルガノイドの転移巣では、幹細胞マーカーの発現パターンから、原発腫瘍巣とは異なる細胞亜集団の構成に変化していることが明らかになっている。これらの転移能の差異と腫瘍巣の構成細胞の変化は何に起因するのか、微小環境との関連も含めて詳細な解析を進める。 さらに、転移現象では、原発腫瘍巣から血管へ移行の際に、いわゆる上皮間葉転換(EMT)が起きていることを示唆する観察結果も得られていることから、血中の腫瘍循環細胞(CTC)を分離採取して解析することも不可欠と考える。
|
Causes of Carryover |
計画初年度の実験を始めるにあたっての試行錯誤を予想して、移植に用いる超免疫不全マウスの購入数を多く見積もっていたが、実験が順調に進展した結果、購入匹数を抑えることができた。また、in situ hybridization用試薬も高額であったが、使用量が見積もりを下回ったことにより、低く抑えられた。
|
Research Products
(3 results)