2018 Fiscal Year Research-status Report
ニッチ細胞と癌細胞とのハイブリッド形成および癌多様性獲得に寄与する遺伝子の探索
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18K07220
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
田島 陽一 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (00300955)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
芝崎 太 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, プロジェクトリーダー (90300954)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 細胞融合 / 間葉系幹細胞 / 癌多様性 / ハイブリッド |
Outline of Annual Research Achievements |
がんは遺伝子が傷つくことで発症し、長い時間をかけて腫瘍へと成長する。腫瘍が形成されると、末梢組織からリンパ球が浸潤し、がん細胞を攻撃すると同時に正常組織も破壊する。損傷された組織は骨髄から動員された間葉系幹細胞により修復される。間葉系幹細胞は脂肪、筋、骨、軟骨組織に分化する性質を持ち、さらに腫瘍組織中では一部の間葉系幹細胞が腫瘍関連繊維芽細胞(CAF)へと分化し、腫瘍の成長と転移を促進することが報告されている。近年、がん悪性化の過程でがん微小環境を構成する間葉系幹細胞とがん細胞との融合が関わっていることが示唆されている。融合したがん細胞は、骨髄由来細胞が元来持つ高い運動能を獲得し、浸潤・転移に有利に働くと予想される。そこで、本研究では、間葉系幹細胞とがん細胞との細胞融合がex vivoの条件下で起きるかどうかを検討する。実際には間葉系幹細胞とがん細胞のミックス細胞を免疫不全マウス(SCIDマウス)の皮下に移植し、皮下腫瘍内でハイブリッドが形成されるかについて検討する。次に、ハイブリッド形成が検出できた場合、幾つかのハイブリッド細胞を樹立し、それぞれの株についての腫瘍形成における性質を検討する。ハイブリッド間で腫瘍形成に相違が見られた場合、その原因となる遺伝子を同定する。同定した遺伝子が腫瘍形成に影響を及ぼすかを検討するためにCRISPR-Cas9で同定した遺伝子を破壊したハイブリッド細胞を樹立し、ヌードマウスに皮下移植してその影響を調べる。これら一連の実験によって、間葉系幹細胞と癌細胞との細胞融合による癌多様性を生み出すメカニズムの一端を解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ex vivoでがん細胞と間葉系幹細胞がハイブリッドを形成するかを検討するため、mCherryを発現させた膀胱がん細胞株(UMUC-3)とGFPを発現させた不死化ヒト間葉系幹細胞を免疫不全マウス(SCIDマウス)の皮下に移植し、腫瘍を形成させた。SCIDマウスの皮下腫瘍からがん細胞を分離して、FACS解析を行い、mCherryおよびGFPダブルポジティブのハイブリッド細胞の存在を検出した。また、ハイブリッド細胞は両親細胞の持つ染色体数よりも多くの染色体を持つことから細胞融合が起きことを示唆している。現在のところ、細胞融合のメカニズムについては不明である。次に複数のハイブリッド細胞株を樹立して、それぞれをヌードマウスの皮下に移植して、ハイブリッド細胞由来の腫瘍の成長を観察した。その結果、ハイブリッドHB1-6では、成長が早い腫瘍と成長が遅い腫瘍の2パターンが存在することが判明した。その違いを調べるために、急速に成長する腫瘍と遅い成長の腫瘍からRNA、タンパク質を分離し、RNA-seq解析、タンパク質解析を行った。解析の結果、成長の早い腫瘍のみ強く発現するX蛋白質(未発表)を同定した。X蛋白質が急速な腫瘍形成に影響するかを検討するために、CRISPR-Cas9でX遺伝子を破壊したハイブリッドHB1-6細胞を作製し、ヌードマウスの皮下に移植した。その結果、X蛋白質を欠損させたハイブリッドHB1-6細胞からは急速に成長する腫瘍は見られず、遅い成長をする腫瘍のみが観察された。一方、コントロールのHB1-6細胞ではこれまでどおり成長の早い腫瘍が出現した。これらの結果から、X蛋白質は急速に成長する腫瘍に必要な蛋白質であることが示唆された。現在、X蛋白質の発現を調節する因子(転写因子を含む)を探索するために、CRISPR-Cas9による遺伝子ノックアウトを行い、解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
生体内で発症するがん細胞と間葉系幹細胞がハイブリッド形成するか否か検討するため、早期がん化マウス(rasH2マウス)を用いた実験を行う。rasH2マウスは発がん物質を投与することで、様々な腫瘍が2か月以内に発生する。同時にヒトまたはラット骨髄由来の間葉系幹細胞(GFP陽性)を静脈より移植し、腫瘍組織に浸潤させる。腫瘍組織を取り出し、FACS分析によりGFP陽性細胞を集め、ヒトまたはラットの染色体を持つGFP陽性のハイブリッド細胞を選別する。この実験でハイブリッドが検出できれば、in vivoで間葉系幹細胞とがん細胞との細胞融合が証明できる。 上記の急速な腫瘍形成に関与するX遺伝子は既知のがん細胞の増殖に関わる遺伝子ある。その機能は十分に研究されているため、X遺伝子の発現に影響を及ぼす遺伝子を探索する。まず、急速成長する腫瘍において高い発現を示す転写因子、転写共役因子を選別する。選別した遺伝子をCRISPR-Cas9による遺伝子ノックアウトをハイブリッドHB1-6細胞で行う。遺伝子欠損により、HB1-6細胞においてX遺伝子の発現を減少または消失させる転写因子、転写共役因子を同定する。この方法で選別した転写因子、転写共役因子の中に目的の遺伝子が含まれていない場合は、範囲を広げてシグナル伝達、エピジェネティックに関与する遺伝子をターゲットに含める。一連の研究で癌の成長を減速させる手法の開発につながる可能性がある。
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Causes of Carryover |
学会参加費として計上していた金額は、別の予算で賄ったため、次年度に繰り越した。繰り越した額は物品費に使用する。
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Research Products
(2 results)