2019 Fiscal Year Research-status Report
ニッチ細胞と癌細胞とのハイブリッド形成および癌多様性獲得に寄与する遺伝子の探索
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18K07220
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
田島 陽一 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (00300955)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
芝崎 太 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, プロジェクトリーダー (90300954)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 細胞融合 / 免疫チェックポイント / DNA損傷シグナル / 免疫回避 / 間葉系幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
長い時間をかけて蓄積した遺伝子変異が正常細胞を制御不能な増殖を行うがん細胞に変えてしまう。腫瘍組織を形成すると、末梢組織からリンパ球が浸潤し、がん細胞を攻撃すると同時に正常組織も破壊するが、骨髄から動員された間葉系幹細胞等により修復される。近年、がん悪性化の過程で間葉系幹細胞とがん細胞との細胞融合が多数報告されている。本研究では、間葉系幹細胞とがん細胞との細胞融合がin vitroおよびex vivoの条件下で可能かを検討した。これまでに、in vitroの条件下で間葉系幹細胞とUMUC-3膀胱がん細胞を含む多くの細胞で細胞融合が起きていることを見出した。さらに、免疫不全マウスを用いたxenograftにおいても間葉系幹細胞とがん細胞との細胞融合が観察された。親細胞と融合細胞との性質を解析したところ、融合細胞では有意にgammaH2AX陽性のDNA2本鎖切断(DSB)を起こした細胞の割合が高いことが示された。我々は、RNA-seqによる発現解析の結果、融合細胞においてPD-L1遺伝子の発現が高いことを見出した。最近、放射線処理より細胞にDSBが起きるとDNA修復シグナルが活性化され、最終的に免疫チェックポイントに関わるPD-L1の発現を増加することが報告された。そこで、放射線によるDNAダメージと融合細胞で起こるDNAダメージの間に共通点および相違点があるか検討を行っている。さらに、ヌードマウスを用いたxenograftを用いて融合細胞の腫瘍形成について検討したところ、親細胞の間葉系幹細胞は腫瘍を作らないが、融合細胞は腫瘍を作ることが示された。さらに、PD-L1遺伝子をノックアウトした融合細胞では、腫瘍形成が著しく阻害される知見を得ている。これら一連の実験によって、間葉系幹細胞と癌細胞との細胞融合による癌発生メカニズムと免疫回避に関わる知見が得られることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々はこれまでにin vitroの実験では薬剤選択により11種の融合細胞を樹立、またex vivoでは免疫不全マウス(SCIDマウス)の皮下腫瘍より融合細胞を単離した。融合細胞はFACS解析を行い、mCherryおよびGFPダブルポジティブの融合細胞が90%以上検出された。さらに、核型解析により融合細胞は両親細胞の持つ染色体数よりも多くの染色体を持つことが分かった。細胞増殖、細胞障害について検討を行ったところ、細胞増殖は親細胞の間葉系幹細胞よりも速く、もう一つの親細胞UMUC-3よりも遅いことが分かった。細胞障害については融合細胞でDNA2本鎖切断(DSB)が起きている細胞の割合が親細胞よりも高いことが示された。発現解析により親細胞では、免疫チェックポイントに関わるPD-L1のRNAレベルおよび蛋白質レベルの発現は弱いが、融合細胞では増加し、PD-L1は細胞表面に局在することが示された。最近の報告では、放射線照射によりがん細胞膜表面上のPD-L1発現が高まること、またその発現上昇には、DNA二本鎖切断により活性化されるATM/ATR/Chk1が必要であることが報告されている。そこで、融合細胞でこのシグナルが働いているかを検討したところ、融合細胞ではChK1の活性化が見られ、DNA損傷を増強するとChk1の活性化が強くなることが示された。放射線の系では活性化されたChk1がSTAT1/3を活性化し、最終的にPD-L1の発現を誘導することを報告している。しかし、我々の細胞融合の系ではChk1は活性化されているにもかかわらず、STAT1/3の活性化が起きないという相違点がある。今後、放射線の系と細胞融合の系起きるPD-L1の発現メカニズムの相違点を含めて検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
間葉系幹細胞とがん細胞の細胞融合により、腫瘍形成する融合細胞が樹立できた。この融合細胞は、DNA2本鎖切断(DSB)を含むDNA損傷が起きているが、増殖可能である。さらに、DNA二本鎖切断により活性化されるATM/ATR/Chk1シグナルが活性化されており、さらにPD-L1の発現が誘導されている。ヌードマウスを用いたxenograftによりコントロールの融合細胞とPD-L1をノックアウトした融合細胞の腫瘍形成を比較したところ、PD-L1を欠損させた融合細胞の腫瘍形成が著しく阻害された。さらに、腫瘍の組織学的解析を行ったところ、PD-L1の有無は腫瘍の増殖に大きく影響するが、腫瘍の組織に存在する浸潤マクロファージの数や発現マーカーには大きな違いが見られなかった。最終年度では、融合細胞で活性化されたChk1がPD-L1を誘導するメカニズムの解明とPD-L1有無で腫瘍の形成が大きく異なることを腫瘍に浸潤するマクロファージの点から解析を行う予定である。さらに、本研究で得られた知見をまとめ論文化する。
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Causes of Carryover |
論文の英文校閲、投稿、掲載料を確保するため。
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Research Products
(1 results)