2019 Fiscal Year Research-status Report
腫瘍微小環境中の細胞内シグナルを制御する次世代型キメラ抗原受容体T細胞の開発
Project/Area Number |
18K07268
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
安達 圭志 山口大学, 大学院医学系研究科, 講師 (40598611)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉田 耕治 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00615841)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 抗核抗体 / CAR / 概念実証実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
通常、高分子の阻害抗体や阻害蛋白は細胞膜を通過できないが、lupus患者に検出される抗核抗体は細胞膜を通過し、核に対して反応することが知られている。そこでこの特徴を利用し、細胞内シグナル分子に対する阻害抗体や阻害蛋白と、抗核抗体の一本鎖抗体(scFv)とをリンカーで繋いだ人工タンパクをデザインし、これらを産生するCAR-T細胞を作製して治療に応用する。これまでの報告では、lupusモデルマウスの抗核抗体クローン由来のscFv(以下、L scFvとする)は、in vitro 及びin vivo 実験系において、核酸トランスポーターを介した細胞膜透過能を示していることから、本研究課題ではL scFv 抗体配列を利用した。これまでに以下のことが実施された。1.概念実証試験を行うため、L scFvと組み合わせるタンパクとしてC末端にHisタグとMycタグを付加したGFP(以下、taggfpとする)を採用した。以下、L scFvとリンカーで繋いだ人工タンパクをL-taggfpと表記する。2.ピコルナウイルス由来2Aペプチドを利用し、がん抗原特異的CARと共にL-taggfpを一細胞に発現させるコンストラクト(以下、L-taggfp CARとする)と、L scFvと繋がないtaggfpを発現させるコンストラクト(以下、taggfp CARとする)も作成した。3.レトロウイルスベクターを使用し、上記のコンストラクトをマウスのプライマリーT細胞に遺伝子導入した。CAR、L-taggfp/taggfpの発現は、フローサイトメーターを用いて確認した。4.L-taggfp/taggfpのCAR-T細胞外への分泌を抗Hisタグ抗体と抗Mycタグ抗体を用いたELISAにより確認した。5.フローサイトメーターを用いて複数のマウスがん細胞株上の核酸トランスポーター発現を確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請書に記載した計画では、2019年度までに、遺伝子導入のためのコンストラクトを作成すること、およびin vitro系における概念実証実験を行い、STAT3シグナルを標的とする新規CAR-T細胞を用いたin vitro実験、および担がんマウスモデルを用いたin vivo系での実験を行うための基礎的・予備的データを集積する予定であった。実際に、【研究実績の概要】の1ー5に示したように、概念実証試験を行うためのコンストラクト(上記のL-taggfp CAR)作成や、マウスT細胞への遺伝子導入と発現確認については順調に進展した。しかし、L-taggfpの細胞膜透過能についての解析に当初の実施予定よりも時間がかかっている。これは、すでに報告されている論文を参考にしてL-taggfpの細胞膜透過能に関する実験を試みたが、論文の解析系をそのまま利用しても我々の実験系には必ずしも当てはまらないことが判明したためである。2019年度中には細胞膜透過能実験の解析系に様々な改良を加えたものの、過去に報告されたような結果は得られなかった。2020年度には細胞膜透過能実験に関して検出系も含めてさらなる改善を行う予定である。また場合によっては、in vivo実験を優先して開始することを検討する。 以上のようなことから、『(3)やや遅れている。(Slightly Delayed)』と自己評価を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、以下のことを予定している。 1.メディウムなどの条件を改善し、産生されたL-taggfpが、標的細胞の細胞質/核内に取り込まれることを確認する。2.抗STAT3抗体の配列を利用したscFv(以下、anti-STAT3 scFv)をデザインする。3.anti-STAT3 scFvとL scFvを繋いだ人工タンパクをデザインし、CARコンストラクトに組み込む(以下、L- STAT3 scFv CAR)。その際、anti-STAT3 scFvのC末端にMyc, FLAG, Hisなどのtagを組み込こんでおく。4.3で作成したL- STAT3 scFv CARを元にレトロウイルスベクターを用いてCAR-T細胞を作成し、CARおよびデザインしたanti-STAT3 scFvの発現確認を行う。CARの発現はフローサイトメトリー(FACS)にて、anti-STAT3 scFvの発現はELISAまたは細胞内FACSにて検出する。5.anti-STAT3 scFvの局在(細胞質内/核内に移行していること)を免疫染色にて検討する。また、CAR-T細胞を腫瘍細胞と共培養し、阻害分子が隣接する腫瘍細胞内にも移行することを確認する。6.anti-STAT3 scFvの機能を解析する。L- STAT3 scFv CAR-T細胞あるいは従来型CAR-T細胞と腫瘍細胞株を共培養し、それぞれの培養上清を用いて腫瘍細胞株のIL-6に対する反応性(細胞増殖アッセイ)や、IL-10のT細胞機能抑制効果(細胞増殖アッセイまたは細胞傷害アッセイ)、IL-11のMDSC分化誘導能などを比較検討する。7.マウス担がんモデルを用いたin vivo実験を開始する。
|
Causes of Carryover |
(理由)物品費の支出に関し、特に消耗品に関しては、緊急性がない場合、製造業者が割引キャンペーンを行なっている期間に購入するようにして節約を心がけていたために、申請時の予定よりも予算の消費が少なくなった。また、その他の支出に関しては、2020年度に遺伝子合成の委託業務を行うことになったため、申請時の予定よりも予算の消費が少なくなった。 (使用計画)2020年度については、2019年度に実施予定であった遺伝子合成の業務委託を行うことはもちろん、マウスモデルを使用したin vivo実験も開始する予定である。したがって、2020年度には2019年度と比較して多くの頭数のマウスを消耗品として購入する予定である。
|