2022 Fiscal Year Research-status Report
第4世代ビスホスホン酸によるγδ型T細胞の新規活性化機序を応用した癌免疫療法開発
Project/Area Number |
18K07274
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
小林 博人 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (80318047)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ガンマ・デルタ型T細胞 / 癌性腹膜炎 / ベータリン酸カルシウム / マクロファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、癌性腹膜炎による難治性腹水に対し、新たな治療戦略として腹水中のγδ型T細胞を用いた癌免疫細胞療法を開発することである。癌性腹膜炎 の症状緩和には、腹水を穿刺採取し、中空糸濾過カラムを通して癌細胞を含む細胞成分を除去後、濃縮して体に有用な蛋白を回収して、患者に静脈投与する腹水 濾過濃縮再静注法(Cell-free Ascites Reinfusion Therapy: CART)が有用である。本研究では濾過カラムに残存し、本来は破棄される細胞成分を用いることが 特徴である。本研究を通して、腹水より治療に供する自己活性化γδ型T細胞を得る方法を探索することが主たる研究目的である。2021年はベータリン酸カルシウム(βTCP)を培養系に用いることで、腹水に混入する癌細胞の増殖を抑制し、γδ型T細胞を活性化させるのに必要な単球系細胞の活性化を通して、2倍程度の増殖率の向上を達成した。2022年度は、2名の卵巣がん患者より得られた腹水を用いて、培養に添加するβTCPの濃度等の条件を変え、さらなる培養効率の向上を目指したが、より良い条件を見出すことは困難であった。現在までに腹水中に含まれる癌細胞を減らし、βTCPを用いて、癌細胞の増殖抑制と単球系細胞の活性化から目的とするγδ型T細胞の培養効率の向上をある程度達成できたが、臨床応用するにはさらなる方法論の検討が必要と考え、さまざまな文献的検索や研究者ネットワークを活用した。また、本年度はプロトコルの改訂を行い、本学の倫理委員会にて承認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年の研究において、γδ型T細胞の増殖効率の改善にベータリン酸カルシウム(βTCP)に有用性を見出し、さならる培養効率の改善を目指したが、臨床応用に足る細胞数を得られていない。さまざまな文献的検討を行い、2021年頃よりβTCPが免疫抑制性のM2マクロファージを高率に誘導し活性化させるという研究結果が複数報告されていることがわかった。腹水中にはM2マクロファージが多く含まれており、これらの報告を勘案すると、γδ型T細胞を活性化させるマクロファージ系細胞の一部が逆にγδ型T細胞の増殖を抑制するために、十分な細胞数が得られていない一因となる可能性に至った。現行の方法では、添加するβTCP量の培養条件を検討しても、十分な細胞数が得られていないことを考えると、現状の方法では目的を達成させる事は困難であると判断した。一方免疫活性型のM1マクロファージとM2マクロファージは、完全に分化した細胞集団ではなく、様々な環境因子で変換することがわかっている。文献的検索および研究者ネットワークからの知見より、M2マクロファージをM1マクロファージに誘導するか、培養中のM2マクロファージを除去し、かつβTCPを用いて活性化させることで腹水中のγδ型T細胞の効率的な培養を可能にすることができるという考えに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
βTCPによる腫瘍細胞の増殖抑制は、腫瘍細胞を抗原提示細胞とした場合のγδ型T細胞の増殖にはプラスに働くが、同時にマクロファージ系細胞を抗原提示細胞とした場合には、M2マクロファージへの分化が誘導されるため、γδ型T細胞の増殖にはマイナスに働き、十分な数のγδ型T細胞の培養に至らないと考えている。腫瘍細胞を抗原提示細胞とした場合は、活性化したγδ型T細胞により混入する腫瘍細胞が除去され、培養産物を患者へ再投与することを考えると好都合であるため、この機序を利用したままマクロファージ系細胞を制御することで目的達成を目指す事とする。定期的に研究情報交換をおこなっている研究者から、単球から樹状細胞を誘導する培養系にヒト血小板ライセートを用いることで、M2マクロファージへの誘導がコントロールでき、腹水の培養系でも有用との助言をいただき、本実験系においても応用を行う予定である。この培養系が予想通りにいかない場合は、そもそもγδ型T細胞の抗原提示細胞には腫瘍細胞が利用できるため、本培養系からマクロファージ系細胞を抗体を用いて除去することでマクロファージ系細胞の影響を除く事が可能である。今後の推進方策としては、γδ型T細胞の増殖に影響を与えていると考えられるマクロファージ系細胞の制御に注目して本研究の目的達成を目指す。
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Causes of Carryover |
2021年度に採取した腹水および試薬等を使用し実験をおこなった。条件検討を行ったが、予想した成果が得られないため、一旦実験を中断し、検体採取と保存および文献検索や研究者ネットワークを通じて今後の研究推進の方策立案に費やしたため、追加の消耗品等の購入は不要であった。実験プロトコル改訂のために、倫理委員会での審査手数料に一部使用した。
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