2018 Fiscal Year Research-status Report
発がん性複製ストレス応答分子を標的とした新規がん治療法の開発
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18K07289
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
関本 隆志 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (20436322)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 複製ストレス / 発がん / c-Myc / Rad51 / フォーク保護 / fork reversal / synthetic lethality |
Outline of Annual Research Achievements |
発がんシグナルが誘導するDNA複製の遅延・停止(発がん性複製ストレス「発がんRS」)は細胞老化・細胞死を誘導し、これを解消するRS応答機構が発がん促進に重要な役割を果たす。この発がんRS応答機構を解明し、RS増強による細胞死を誘導する治療法が期待されている。 Rad51は従来知られていたDNA二本鎖切断(DSB)に対する相同組換え修復に加えて、複製フォークの修復・複製再開において中心的役割を果たすことが明らかとなってきた。より詳細には、停止した複製フォークのreversalと呼ばれるリモデリングと、その後のヌクレアーゼによる分解からの保護への関与を通して、複製の再開を促進する。しかし、Rad51が発がんRS応答において果たす役割については、まだ十分明らかではない。 そこで、がん遺伝子c-Myc(Myc)の活性化による複製ストレスにおけるRad51を中心とした応答機構を解析した。その結果、Rad51の発現抑制はMycが誘導する細胞周期のS-G2期への蓄積、DSB形成、細胞死を増強することを見出した。また、複製フォークの進行動態を直接的に評価するためにDNA fiber法による解析を行ったところ、Rad51がMyc誘導性複製ストレスによるフォーク停止または分解を抑制することを示唆した。さらに、相同組換えとフォーク保護機能を阻害するRad51阻害剤は、Myc誘導性の細胞死を促進した。一方、Rad51以外のreversalに関与する分子の発現抑制は、Myc誘導性の複製ストレスに大きな影響を与えなかった。したがって、Rad51のreversalを介する役割は小さいと考えられた。以上の結果は、Rad51が主に複製フォークの保護と相同組換え修復の2つの作用を介してMyc誘導性複製ストレスへの耐性を高め、細胞の生存・増殖を促進することを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
発がん性複製ストレスにおけるRad51の役割については順調に研究は進み、第41回分子生物学会年会においてその成果を発表した。しかし、Rad51はマルチファンクションなタンパクであり発がん性複製ストレスにおいてどの機能が優位に働くかを判断するのは困難であった。また、今回解析に用いたモデル細胞U2OSはテロメラーゼに依存しないテロメア伸長機構(alternative lengthening of telomere, ALT)によりテロメアが維持されている。ALTは相同組換えを利用するためRad51が中心的な働きを示す。テロメア維持障害の影響が96時間程度の培養期間に出現した可能性は低いことや、DNA fiber法は、テロメア局所ではなく複製フォークの全般的な複製動態を反映することから、今回のモデル細胞においても発がん性複製ストレスにおけるRad51の役割を示唆できたと考えられるが、Rad51発現抑制の効果がALT阻害を介している可能性は否定できない。これらのことから、発がん性複製ストレスにおけるRad51の役割をより詳細に解析するためには、最近報告されたRad51のフォーク保護機構を選択的に抑制するdominant negative変異体を用いた解析や、ALTに依存しないテロメア維持細胞を用いて発がん性複製ストレスモデル細胞を作製する必要があり、現在これらを作製中である。しかし、これらの作製には時間がかかるため、次年度以降は並行して以下の研究課題に取り組む。(1)複製ストレスを増強してsynthetic lethalityを示す組み合わせの探索。(2)グアニン四重鎖安定化剤によるRS応答の解析と抗腫瘍細胞効果の検討。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) これまでにc-Myc誘導性発がんRSにおいて、Y-familyポリメラーゼの一員であるPolymerae η(Polη)とヌクレアーゼ複合体Mus81-EME2が協同してRS軽減に働き、その抑制はsynthetic lethalityを示すことを見出している(Kurashima et al., J Cell Sci 2018)。このことはPolη欠損が原因であり、紫外線感受性や高発がんを特徴とする色素性乾皮症バリアントタイプ(XP-V)において、Mus81やEME2ががん治療のターゲットになり得る可能性を示唆する。そこで、変異Ras、Cyclin Eモデル細胞系において同様の効果があるか検討する。また、XP-V患者由来の不死化二倍体細胞や腫瘍細胞を用いて、Mus81、EME2抑制の殺腫瘍細胞効果を解析する。さらに、Polη抑制と、他の発がんRS応答分子抑制や既存の抗がん剤との組み合わせにおける殺腫瘍細胞効果を系統的に解析し、新たなsynthetic lethality候補を探索する。 (2) テロメアやプロモーター領域等のグアニンに富む塩基配列で見られるDNA高次構造グアニン四重鎖(G4)を安定化する化合物(G4リガンド)はRSを増強して抗がん作用を示し、また、Rad51やBRCA1/2の発現抑制はG4リガンドによる細胞死を増加させることが報告された(Zimmer et al., Mol Cell 2016)が、G4リガンドに対するRS応答機構は十分明らかでない。そこで、c-Myc、変異Ras、Cyclin E活性化モデル細胞系において、G4リガンドによる発がんRS応答を解析する。G4リガンド処理とこれらRS応答分子の発現抑制によるsynthetic lethalityを示す組み合わせを探索する。
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Research Products
(6 results)