2018 Fiscal Year Research-status Report
最適な乳がんホルモン療法を患者に届けるための新たな遺伝子診断法の開発
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18K07310
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
前佛 均 公益財団法人がん研究会, がんプレシジョン医療研究センター リキッドバイオプシー診断開発プロジェクト, プロジェクトリーダー(部長クラス) (90372820)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 乳癌 / エクソーム / ターゲットリシークエンス / ホルモン療法 / タモキシフェン / 副作用 / 有効性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度はタモキシフェンを含む乳がんホルモン療法が施行された患者を対象に血液サンプルの単核球分画より、生殖細胞系列のゲノムDNAを抽出し、エクソーム解析を行った。average depth of coverageは51であり、HGVD(Human Genome Variation Database)のreference配列と各症例のゲノムシーケンスを比較したところ、各症例につき115,646-122,769個のSingle Nucleotide Variant (SNV),Insertion/Deletion多型が同定され、平均1症例当たり118,788個の多型が同定された。同じくHGVDのreference配列をコントロールとしてC10orf11のターゲット・リシークエンスも行ったところ、0.05-0.28程度のアレル頻度をもつバリアント(SNV)を同定した。 また本研究対象となる、上記治療を受けた乳がん症例を電子カルテより検索し、① 基本情報 (年齢、性別、がん種、既往歴、現病歴、家族歴、病期、治療内容、予後等)、②本研究に必要な情報 (前治療内容、治療開始日、投与量、併用薬剤、投与期間、投与方法、投与経路、副作用情報 (種類、発現日、Grade、発現期間等)、治療反応性情報 (縮小率、無再発生存期間、生存期間、無増悪生存期間等)) 等を抽出し、本研究における解析用の臨床情報データベースの一部を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では乳がんホルモン療法が行われた症例を対象にエクソーム解析を行い、これによるシーケンス情報と電子カルテから抽出した臨床情報の間で関連解析を行い、有効性及び副作用と統計学的に有意な相関を示す遺伝子および遺伝子変異を同定することを目的としているが、H30年度において、研究対象患者の適格基準の変更等に伴い、解析対象患者の登録が当初の予定よりも遅れたため、エクソーム解析の目標症例数の解析完了には至っていない。 更に、これまでのゲノムワイド関連解析(遺伝子多型解析)の結果、C10orf11上の遺伝子多型(SNP; single nucleotide polymorphism)がタモキシフェン治療効果と強い関連をもつことが示されたため、本研究では、C10orf11のターゲット・リシーケンス解析を行い、common variant (SNP)だけではなく、rare variant (SNV)や挿入・欠失変異等を調べることで、ホルモン剤治療効果・副作用と関係する新たな遺伝的要因を同定することも目的としているが、C10orf11遺伝子のターゲット・リシーケンシングについても同様に、解析対象患者登録の遅延のため、解析終了には至っていない。上記解析対象症例の臨床情報データの抽出は、部分的になされたものの、現在、シーケンス情報と臨床情報(副作用・効果情報)の間で関連解析を行っているため、全体として研究進捗は「やや遅れている」状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの先行研究では、乳がんホルモン療法に対する反応性の違いを解明する際に、体細胞変異(がんゲノム)を調べる方法が多くを占めていたが、本研究は、生殖細胞系列のゲノム情報と薬剤反応性の関係を解明するという特徴を有している。平成30年度までに、解析上基盤となるエクソーム情報と研究のエンドポイントである乳がんホルモン療法による効果・副作用に関する情報取得が完了していないため、速やかに適格症例の患者登録を推進すべく、研究協力医師らと定期的に情報交換を行う予定である。エクソーム解析が終了し、シークエンス情報取得が完了した段階で、ゲノム情報と効果・副作用情報の間でFisherの正確検定等による統計解析も完了する予定である。サンプル数が少ないため、False positiveを抽出してしまう可能性が高いが、P-valueのみならず、Odds RatioやFalse Discovery Rate (FDR)などの指標により、臨床的有用性の高い、新たなホルモン剤効果・副作用マーカーを同定する予定である。 先行研究により、ホルモン剤治療効果との深い関係が示唆された、C10orf11遺伝子は近年、Leucine Rich Melanocyte Differentiation Associated (LRMDA)として登録された遺伝子であるが、メラノサイトの分化に関係し、眼皮膚白皮症の原因遺伝子として知られているものの、乳がんホルモン療法の治療効果にどのように関係するのか、その詳細な機序は不明である。これまで全く検討されていない新たなアプローチが必要になるため、細胞株の種類や暴露する薬剤、さらにtranscript variantの種類などにも配慮のうえ、ホルモン治療との関わりを詳細に解き明かす予定である。
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Causes of Carryover |
本研究の第一段階として、乳がんホルモン療法を受けた患者の血液からゲノムDNA抽出を行い、エクソーム解析により患者生殖細胞系列のゲノム情報を取得する必要があるが、患者適格基準につき、対象とする薬剤の種類等に関し、当該領域の専門医より厳格な基準を設けるべきとの指摘があり、当初の予定よりも、適格患者の登録スピードに遅れが生じてしまい、平成30年度内に予定していたエクソーム解析が予定サンプル数に到達しなかったため、患者登録およびエクソーム解析の完了を次年度に繰り越す必要が生じた。2019年度は、患者登録の頻度を高めるために、電子カルテ等を利用し、患者来院予定日を確認のうえ、適格症例に対し本研究への参加呼びかけや登録漏れのないように、研究協力医師やコメディカルらとの連絡および連携を強化し、2018年度に解析予定としていた血液サンプルも含め、すべてのエクソーム解析を2019年度内に完了する予定である。
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