2018 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム編集を用いたEva1陽性グリオーマ幹細胞の増殖抑制ベクターの開発
Project/Area Number |
18K07317
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大津 直樹 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (10588403)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | グリオブラストーマ / 人工グリオーマ幹細胞 / Eva1 / ゲノム編集 / 増殖抑制 |
Outline of Annual Research Achievements |
悪性脳腫瘍であるグリオブラストーマ(GBM)に対する標準治療の技術は進歩しているが、抗ガン剤耐性や放射線耐性が強いため再発を抑制できず生存期間の改善はわずかである。このため新規の代替治療戦略が切望されている。今回、ゲノム編集技術をグリオーマ治療への応用に向けた安全性の高いベクターの開発をめざすことにした。これまでに解析してきたEva1遺伝子は正常脳組織では発現しないが、治療抵抗性が強く再発の原因となるグリオーマ幹細胞おいて特に強く発現することが認められている。そこでゲノム編集技術を用いてeva1遺伝子のプロモーター領域下流にGFP遺伝子を挿入すれば、Eva1陽性グリオーマ幹細胞を識別することができ、またp53などの増殖抑制遺伝子を挿入すればグリオーマ幹細胞の増殖を抑制できると考えられた。このゲノム編集ベクターを用いれば、Eva1陽性グリオーマ幹細胞対しこれまで以上の抑制効果が得られると期待された。この計画に従い当該年度はEva1陽性のヒト細胞株においてEva1プロモーターの下流にレポーター遺伝子 (GFP)を挿入し、レポーター遺伝子の発現を解析した。またマウスにおいて不死化させた神経幹細胞のEva1遺伝子プロモーターの下流にレポーター遺伝子であるモノメリッククサビラオレンジ1 (mKO1)を挿入した細胞を作成し、その細胞に活性化Rasを導入することで作成した人工グリオーマ幹細胞におけるEva1遺伝子の発現とレポーター遺伝子の発現の相関を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずポジティブコントロールとして複数の細胞株に対してEva1抗体を用いてフローサイトメトリーで解析すると、乳ガン細胞株であるMCF7とT47Dはほぼ100%でEva1陽性であった。このEva1陽性のヒト細胞株においてCrispr/Cas9を用いたゲノム編集システムによりEva1プロモーターの下流にGFPを挿入するとGFP陽性細胞が検出された。ゲノムを抽出しジェノタイピングPCRを行うと、Eva1遺伝子の下流にGFPが挿入されていることが確認できた。同様にSV40で不死化させたマウスの神経幹細胞を用いて、Eva1遺伝子の下流にmKO1が挿入されるようなguide RNAとドナーベクターを導入し、ジェノタイピングPCRを行うと、Eva1遺伝子のプロモーターの下流にmKO1が挿入された細胞があることが確認できた。この細胞にはmKO1陽性細胞は検出できなかった。この細胞株に活性化Rasを導入すると、一部の細胞がmKO1陽性であることが確認できた。このことからEva1遺伝子プロモーターの下流にレポーター遺伝子を挿入するとEva1遺伝子プロモーターの制御によりレポーター遺伝子が発現することが明らかになった。またEva1プロモーターの下流にp53遺伝子など細胞増殖抑制遺伝子を導入するとEva1陽性細胞のみ増殖できるのではないかと考えられた。SV40遺伝子で不死化させた細胞はp53の機能が抑制されるため、ゲノム編集でp53をノックアウトした神経幹細胞を作成した。ゲノム編集でp53をノックアウトして活性化Rasを導入することで野生型の神経幹細胞からグリオーマ幹細胞を誘導することができた。p53遺伝子を用いた増殖抑制実験にはp53ノックアウトのマウス神経幹細胞を用いる。
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Strategy for Future Research Activity |
定性的にEva1遺伝子プロモーターの下流にレポーター遺伝子を導入するとEva1遺伝子プロモーターの制御に従いレポーター遺伝子が発現することは明らかになったが、遺伝子組み換え効率が数%で低いという問題点がある。マウスの増殖抑制実験においては遺伝子が組替えられた細胞をクローニングすることにした。人工グリオーマ幹細胞にレポーター遺伝子とともにp53遺伝子を挿入する実験を進める。p53遺伝子とレポーター遺伝子を2A配列で繋ぎホモロジーアームで挟んだドナーベクターをp53ノックアウト神経幹細胞に導入し、組換え細胞をクローニングする。そして活性化Rasを導入したときのmKO1陽性細胞の割合を解析する。ヒト細胞においてMCF7やT47D細胞にp53を強制発現させると細胞増殖が抑制されることも認められたので、MCF7とT47Dも増殖抑制実験のポジティブコントロールにも用いる。ヒトGBM由来細胞は遺伝子導入効率も悪いという問題点がある。マウスの細胞やヒトのポジティブコントロール細胞を用いてより効率よく遺伝子組み換えできる方法を探索する。
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