2018 Fiscal Year Research-status Report
Development of novel cancer immunotherapeutic approach based on age-associated inflammatory response
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18K07325
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
粟井 博丈 (塚本博丈) 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (10433020)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | がん免疫療法 / T細胞 / IL-6 / 老化 / 炎症 / Th1細胞 / 免疫抑制 / 細胞老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、がん患者、高齢者で増加する炎症応答の、がん免疫応答抑制因子としての働きに着目し、がん免疫療法を受けた担がん個体での、① 炎症性サイトカインIL-6が、がん免疫療法の感受性を予測する指標となる可能性、および ② IL-6シグナル阻害との併用療法が、がん免疫療法の効果を増強する新たなアプローチとなる可能性について検討し、がん免疫療法の効果予測、さらに汎用性を高める方策の開発の基盤を構築することを目的とした。 申請者は免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ)を投与した悪性黒色腫患者の予後とIL-6の相関を検討したところ、ニボルマブ投与に伴いIL-6濃度が増加した患者では、IL-6濃度が変化しない患者に比べて、早期の腫瘍進展が観察された。このことは、IL-6ががん免疫療法による抗腫瘍免疫応答の惹起を抑制する働きをもつ、という可能性を示唆するものであった。 そこで、担がんマウスモデルにて解析を進め、抗PD-1抗体投与によるIL-6産生誘導が、腫瘍進展を助けるミエロイド系細胞系譜であるマクロファージを体内から除去した場合に観察されなかったことから、マクロファージがIL-6産生誘導の原因細胞であることが示唆された。実際に、マクロファージを除去した際、抗PD-1抗体投与によりCD4+T細胞のIFN-gamma産生能が促進し、抗腫瘍効果が増強した。この発見は、PD-1阻害療法とそれに伴う炎症応答誘導の直接的関連を分子生物学的に説明し、IL-6がPD-1阻害療法の効果増強の標的として有効である可能性を示唆し、これらの研究成果を学術雑誌に報告した。 本研究は、IL-6を標的としたがん免疫療法の効果予測システム、およびIL-6とPD-1シグナルの併用阻害により、効率的にT細胞の(再)活性化を誘導し得る戦略開発の基盤となる前臨床研究であり、この成果の臨床応用は十分な将来性が見込まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの研究成果は、研究を計画した当初の仮説を支持する結果であり、申請者は、これらの内容をはじめとした研究成果を学術論文として発表することができた(Tsukamoto H. et al., Cancer Res. 78,5011-5022, 2018.)。申請者の研究成果は、炎症応答をT細胞を介したがん免疫療法の効果予測マーカーの確立、がん免疫療法の効果増強の有効な戦略の開発につながる発展性を有すると考えられ、この臨床応用を目指し、さらなる解析を進めている。 これまでの申請者の解析から、実臨床でPD-1阻害療法を受けたがん患者においても、マクロファージがIL-6産生誘導に寄与し、PD-1阻害療法によるT細胞活性化、さらには治療効果を減弱させる可能性が考えられる。しかし、マクロファージには様々なサブセットが存在し、ヘテロな集団であることから、どのような性質のマクロファージが炎症応答亢進に寄与するか、またIL-6産生を制御する分子機構についての詳細は不明であり、これらを明らかにすることが今後の課題である。この課題に対して、申請者は、マクロファージの老化に着目し、老化したマクロファージが炎症応答の亢進を引き起こし、抗腫瘍免疫応答の減弱に寄与する、と仮説を立て、この検証を目指し、現在さらなる検討を行っている。具体的には当初計画していた、マクロファージをはじめとするミエロイド系細胞特異的に細胞老化制御因子Cdkn2aを欠損するマウスを作成を完了し、この老齢マウスを作出するとともに、上記マウスを用いて、抗腫瘍免疫応答の解析を始めている。この解析結果は、老齢個体におけるマクロファージによる炎症応答の、がん免疫療法の反応性低下に対する影響と、その分子基盤解明に資するはずである。
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Strategy for Future Research Activity |
「がん患者の多くが高齢」であり、「加齢に伴い免疫機能が低下する」ことを鑑みた場合、より実臨床に近いモデルとして、老齢担がんマウスを用いて、がん免疫療法により誘導される抗腫瘍免疫応答に影響を与える因子を評価することは非常にリーズナブルである。申請者は、当初の研究計画に従い、マクロファージによる炎症応答亢進の影響を検討するため、ミエロイド系細胞特異的Cdkn2a欠損マウスより老齢マウスを作出し、このマウスにおいて、がん免疫療法により誘導される抗腫瘍免疫応答を、野生型老齢マウスと比較検討する。 また、マウスのみならず、ヒトにおいても、加齢に伴いマクロファージの老化・蓄積が誘導され、炎症誘導能が上昇する可能性について検証する。健常者、および肺がん患者の血液よりCD14陽性単球を単離し、マクロファージへと分化させたのち、炎症性サイトカイン産生、及びCdkn2aの発現を検討する。また、誘導されたマクロファージとT細胞を共培養し、T細胞応答への影響についても検討する。そして、これらのパラメーターをもとにがん患者を層別化し、がん増生、臨床予後との相関についても検討する。これらの検討により、マウスおよびヒトの個体老化に伴うマクロファージの蓄積、炎症亢進、抗腫瘍免疫応答の低下の関連性について評価できると考えられる。 さらに、抗PD-1抗体治療を受けた際に発生する自己免疫応答の誘導に対する、炎症応答の関与は明らかでなく、この自己免疫性の有害事象に対する影響についての解析も必要であると考え、これについても検討をすることを計画している。
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