2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of novel cancer immunotherapeutic approach based on age-associated inflammatory response
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18K07325
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
粟井 博丈 (塚本博丈) 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (10433020)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 加齢 / 炎症 / 免疫応答 / マクロファージ / 細胞老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
国内外を通じて、がんに対する免疫応答の解析、治療法開発を目的とした動物実験モデルの多くは若齢マウスを用いて行われ、加齢に伴う個体環境の変化を考慮したモデル構築は極めて少ないのが実情である。しかし、がん患者の7割が65歳以上の高齢である現状において、若齢マウスを用いたモデルは実臨床に沿わないものである。この問題の解決に取り組むべく、我々は担がん老齢マウスを用いて、PD-1阻害療法の応答性に対する検討を行った。特に、老化に伴う炎症応答、IL-6産生が亢進する“Inflammaging”という現象に着目し、我々の先行研究の結果に基づく「IL-6がPD-1阻害療法の応答性を低下させる因子として働く」という仮説を立て、PD-1阻害療法を受けた老齢個体でのIL-6の変化を検討した。さらに、老齢個体の炎症亢進と抗腫瘍免疫応答抑制の根本的原因細胞、あるいは病態促進の素因として、マクロファージに着目し、その炎症誘導能を中心に検討を進めた。 その結果、担がん若齢マウスに比べ、担がん老齢マウスではIL-6の上昇、PD-1阻害療法に対して低感受性が観察される一方、IL-6欠損老齢担がんマウスでは、その応答性低下が是正されることを見出した。このことから、老齢個体特有の炎症応答亢進はがん免疫療法に対する応答性を低下させる要因の一つであることが示唆された。さらに老齢マウスにおけるマクロファージのIL-6産性能が、若齢のそれに比べて有意に高くなっていることが観察された。これらの結果から、老齢個体における抗腫瘍効果を高める方法として、マクロファージをはじめとするミエロイド系細胞の除去を併用したがん免疫療法の有効性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
老齢個体における炎症応答亢進、加齢随伴炎症に着目して、その影響を評価する本研究では、特に老齢個体由来のマクロファージの性質の変化について検討を行い、昨年度は老齢マウスにおけるマクロファージのIL-6産性能が若齢のそれに比べて有意に高いことを見出した。さらに、全身性に炎症応答亢進が観察されることから、全身に循環する血液内の因子、特に血液内細胞外小胞(エクソソーム)内のマイクロRNAに着目して、老齢個体における炎症応答亢進に関連する血液内細胞外小胞(エクソソーム)内のマイクロRNA候補を同定した。そして昨年度までに、この細胞外小胞に内包されるマイクロRNAについての研究結果を、老化に伴う炎症応答の制御への応用を目指した研究へと発展させる基盤を作ることができた。これらの研究結果をまとめ、現在、その成果を学術論文へ投稿している。 我々のこれまでの研究結果より、老齢個体における炎症応答の亢進はがん免疫療法に対する応答性に大きく影響を与えることが示唆される。さらに、この老齢個体の炎症亢進状態は、抗腫瘍免疫応答に対してのみならず、インフルエンザワクチンの効果減弱に対しても悪影響を与えることを示唆するデータを得ている。つまり、本研究の主題となる加齢随伴炎症の免疫学的影響の解析は、がんに対する免疫応答のみならず、感染症に対する免疫学的防御等、より広い老化関連疾患に対する予防、治療戦略の開発へと発展させることができると考えられる。 現在、老齢個体におけるPD-1阻害療法をはじめとした、がん免疫療法の効果に対するマクロファージの寄与について、さらなる検討を進めるための予備的なデータも得られており、今後も本研究計画は順調に推進させることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
「がん患者の多くが高齢」であり、「加齢に伴い免疫機能が低下する」ことを鑑みた場合、より実臨床に近いモデルとして、老齢担がんマウスを用いて、がん免疫療法により誘導される抗腫瘍免疫応答に影響を与える因子を評価することが、がん免疫療法のさらなる適応拡大と効果増強には必要不可欠である。我々は、当初の研究計画に従い、老齢個体由来マクロファージによる炎症応答亢進の影響を検討することを本年度の課題として研究を遂行する。具体的には、担がん老齢マウスに対して、マクロファージを除去する処置を行い、PD-1阻害療法により誘導される免疫応答に対する影響を詳細に検討することにより、がん免疫療法に対する低感受性のメカニズムを解明することを目指す。 マウスのみならず、ヒトにおいても、加齢に伴いマクロファージの老化・蓄積が誘導され、炎症誘導能が上昇する可能性が考えられる。そこでヒト単球由来老化マクロファージの炎症性サイトカイン産生、及び老化に伴う性状の変化をin vitroにて検討する。また、老化マクロファージとT細胞を共培養し、T細胞応答への影響についても検討する。これらの検討により、マウスおよびヒトの個体老化に伴うマクロファージの蓄積、炎症亢進、抗腫瘍免疫応答の低下の関連性について評価できると考えられる。
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