2019 Fiscal Year Research-status Report
臓器横断的オミックス解析による神経内分泌腫瘍の診断・治療標的物質の探索
Project/Area Number |
18K07343
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Research Institution | Shizuoka Cancer Center Research Institute |
Principal Investigator |
大島 啓一 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (10399587)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 神経内分泌腫瘍 / 腫瘍マーカー / ドライバー遺伝子 / オミックス解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、消化管や肺などに発生する神経内分泌腫瘍(NET)に対して、腫瘍横断的にオミックス解析を行うことにより、NET個々の分子学的特徴を明らかにし、NET共通または臓器別診断ならびに治療標的分子を探索することを目的とする。3年の期間内に次の2点を明らかにする計画である。①血中腫瘍マーカーの開発を目指し、NET症例に共通的あるいは臓器特異的な発現を示す遺伝子を明らかにし、それら翻訳タンパク質の分泌状態をプロテオミクスにより明らかにする。②分子標的薬標的タンパク質を見出すため、既存のドライバー遺伝子を認めないNET症例に対して、新しいドライバー遺伝子を見つけ出す。 静岡がんセンターでは、腫瘍組織に対するオミックス解析研究であるプロジェクトHOPEを2014年1月に開始させた。その特徴は、手術で摘出された腫瘍組織について、周辺組織または血液を比較対照として、全エクソン解析(whole exome sequencing, WES)及び全遺伝子発現解析(gene expression profiling, GEP)を行うことにより、がん個々の特徴を解明し、がん患者さんの治療や予後に関する情報提供、さらに将来的な診断や治療薬や方法の開発に役立てることである。 計画段階(平成29年10月)では、プロジェクトHOPEにおいて、15種以上の臓器からなる3,022症例におけるWES及びGEPデータが存在し、NET症例は51サンプルに認められた。計画1年目では、累計で4,252サンプルのデータを取得し、NET症例は65サンプルに認められた。計画2年目の当該年度(令和元年度)においては、累計で5,517サンプルのデータを取得し、NET症例は90サンプルであった。これらNETサンプルについて、データマイニングを行い、各候補遺伝子の抽出作業を行うと共に、1年目で抽出した遺伝子の検証作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、腫瘍サンプルに対するオミックスデータベースを主体としたデータマイニング、及びマーカー候補タンパク質のプロテオミクス的検証とドライバー遺伝子の検証実験から構成される。計画段階において、3,194サンプルに対する全遺伝子発現解析(GEP)および全エクソン解析(WES)データを取得し、51サンプルにNET症例を確認した。 計画1年目では、累計で4,254サンプルのデータを取得し、そのうちNET症例は65サンプルであった。2年目の当該年度では、累計で5,517サンプルのデータを取得し、NET症例は90サンプルであった。計画では、新規データ取得サンプル数は年間1,000例、NET症例は累計で83例を予測しており、ほぼ計画通りにデータを取得した。研究計画に対する進捗状況は以下の通りである。 ①NET腫瘍マーカー候補分子の探索。1年目にNET及び非NETサンプルの比較により、NET特異的発現を示す遺伝子を32種抽出した。2年目では、同様にNET症例(90サンプル)と非NET症例(約5,000)の比較により、25遺伝子を抽出した。その中で、共通に見出された19遺伝子について、NET細胞株培養上清液のプロテオームデータを利用し、それらタンパク質の存在の有無を確認した。 ②NETドライバー遺伝子候補の探索。1年目に、既知ドライバー変化のない症例について、腫瘍サンプルで発現亢進かつコピー数上昇を認める遺伝子の検討を行って以来、進展していない。 本年度における達成度は、計画通り5,000サンプルに対するデータを取得し、NET腫瘍マーカー遺伝子候補を4,000症例のデータと比較し、抽出することができた。一方、培養上清中のウェスタンブロッティングによる候補タンパク質の同定、及び5,000症例のデータを用いたドライバー遺伝子の検討が未着手であったため、「やや遅れている」状況であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
計画2年目までに、NET症例90サンプルを含む、15以上の様々な臓器に由来する5,517サンプルに対して、全遺伝子発現解析(GEP)および全エクソン解析(WES)データを取得した。計画最終年である3年目においては、累計で6,000サンプルに対するデータの取得を予想しており、データマイニング作業を同様に行う。一方、既にNETサンプルで特異性のある発現を示した遺伝子について、タンパク質レベルでの発現検証を行い、特異抗体の作製とELISAによる測定系の開発を行う。 ①NET腫瘍マーカー候補分子の探索。6,000サンプルのデータを用いて、NET症例と非NET症例の比較により、NET特異的な発現を示す遺伝子を抽出する。また、NET症例間の比較により臓器特異的な発現を示す遺伝子を腫瘍マーカー候補として抽出する。候補遺伝子の中で、分泌性あるいは細胞膜タンパク質に定義されている遺伝子について優先的にNET細胞株における発現を確認する。その後、候補遺伝子の発現が認められるNET細胞株の培養上清液画分に含まれるタンパク質の解析を行う。質量分析の結果は、入手可能な市販抗体を用いて、ウェスタンブロッティングにより確認する。抗体の入手が不可能な場合あるいは抗体の特異性が低い場合は抗体の作製を検討する。分泌確認されたタンパク質については、ELISA測定系を構築し、血清サンプルでの検討を開始する。 ②NETドライバー遺伝子候補の探索。6,000サンプルにおけるNETサンプルに対して、既知ドライバー変化を認めない症例について、腫瘍サンプルで発現亢進かつコピー数上昇を認める遺伝子を抽出する。候補遺伝子について、NET細胞株中の遺伝子やタンパク質発現を確認する。次いで、細胞株及びマウスを用いて、過剰発現やノックアウト効果に対する細胞増殖や悪性形質転換性への影響を検討し、ドライバー遺伝子としての機能確認を行う。
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Causes of Carryover |
(理由) 本年度(令和元年度)では、データマイニングにより、腫瘍マーカー及びドライバー候補遺伝子を抽出した。一方で、当初の計画より「遅れ」が生じた結果、計画予定であった培養上清中のウェスタンブロッティングによる候補タンパク質の同定、及び5,000症例のデータを用いたドライバー遺伝子の検討を行うまでには至らなかった。その結果、当該実験に関わる費用を次年度(令和2年度)に持ち越すことになってしまった。 (使用計画) 次年度(令和2年度)では、上述した本年度(令和元年度)に目標を達成できなかった培養上清中のウェスタンブロッティングによる候補タンパク質の同定、及び当初の計画である腫瘍マーカー候補に対する特異抗体の作製とELISAによる測定系の構築を行う。さらに、ドライバー遺伝子候補に対する細胞株やマウスを用いた機能検証実験に着手する計画である。従って、研究費の請求は、タンパク質や細胞・動物実験に関連するものに加えて、本年度から持ち越すことになったタンパク質発現関連の消耗品に対して行う。また、当初の計画通り、学会誌への論文投稿目的として英文校閲費、及び国内学会における発表に対する出張費を申請する。
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