2019 Fiscal Year Research-status Report
マイクロ流路デバイスを用いた伝播性α-シヌクレインの同定と伝播阻害システムの構築
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18K07371
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
田口 勝敏 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60462701)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | α-Synuclein / Seed / propagation / Lewy body / Parkinson's disease |
Outline of Annual Research Achievements |
α-Synuclein(αSyn)はパーキンソン病に特徴的な細胞内凝集体「レビー小体」の主要構成分子である。レビー小体の形成領域は病期の進行に伴って下部脳幹から大脳皮質に向かって上向性に拡大する。現在、神経細胞に障害を引き起こす過程において、「高分子化したαSyn(Seed)」が神経細胞間を伝播し、近傍の細胞内へ取り込まれることが重要であると考えられている(プリオン様細胞間伝播)。しかしながら、Seedの性状については未だ不明な点が数多く残されている状況にある。 本年度の研究では、レビー小体様凝集体を形成させた病的神経が産生したSeed分子をマイクロ流路デバイスによって高精度に分離・分画を行い、その生化学的特性として分子量やプロテアーゼ抵抗性等について、Native-PAGEや排除クロマトグラフィー、ウエスタンブロットを用いた解析を行った。更に、原子間力顕微鏡と電子顕微鏡による分子形態観察を実施した。その結果、ある特定の分子サイズを有し、特徴的な形態を有する高分子化αSynを見出した。今後はこの特徴的な分子に対する構造特異抗体を作製し、細胞間伝播を効果的に阻害することができるか、レビー小体 in vivo 再現モデルにより検証する。 また、本研究を遂行する過程において、嗅球傍糸球体神経(Juxtaglomerular neurons, JGNs)が高発現する内在性αSynの生理機能について神経解剖学的手法を用いて解析することにより、当該分子が虚血刺激に依存して未成熟なJGNsの成熟を促進するという新規機能を有していることを見出した(Taguchi et al., Molecular Neurobiology, 2020)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Recombinant αSynから人工的に作製した線維様αSyn(preformed fibrils, PFF)を用いて、マイクロ流路チャンバー内に病的神経を培養し、その軸索終末から培地中に放出された分子(更に細胞間伝播により二次病的神経で増幅されたSeed分子)を生化学的に分離・分画することにより、高分子化したαSynの存在を見出した。Native-PAGEを通じてこれらの分子はある特定の分子量を有することが明らかとなった。現在、HPLC(排除クロマトグラフィー)を組み合わせ、より正確に分子量を算定し、当該Seed分子が何分子のαSynから構成されているか、という点について検討を進めている。また、Seed画分に含まれる分子を原子間力顕微鏡と免疫電顕により観察を行ったところ、どちらの手法によっても共通してほぼ同等の分子形態を有する高分子化αSynの存在を検出することができた。 現在、これらの分子がSeed分子本体であると考え、より詳細な生化学解析や分子形態観察、構造特異抗体の作製を実現するため、Seed画分を大量に調製する作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、本研究で見出したSeed分子の性状についてより詳細に解析するため、当該Seed画分を大量に調製する作業を進めている。本作業はSeed分子を更に詳細に解析することができるのみならず、抗Seed構造特異抗体を作製することにより、細胞間伝播を効果的に阻害することができるか、レビー小体 in vivo 再現モデルを用いた検証に繋がる。 今後の計画では、微量の抗原でも免疫可能な「試験管内免疫法」により、得られたSeed画分を用いてマウス脾臓細胞を免疫する。試験管内免疫の後、脾臓細胞はミエローマと細胞融合させ、ハイブリドーマを作製する。得られたハイブリドーマの中から、dot blot assayとELISAによって単量体やPFFには反応せず、標的のSeed構造にのみ反応する構造特異的モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングする。その後、レビー小体 in vivo 再現モデルを用いて、同定したSeed分子に対する構造特異抗体が細胞間伝播を阻害し、神経変性を防ぐことができるか、検証する。本実験ではマウス線条体にPFFを注入すると共に、大脳皮質内へ構造特異抗体(あるいは対照として正常マウス由来精製 IgG 画分)を Alzet Brain Infusion kit(osmotic pump)を用いて持続投与する。PFFを注入後、30日目に灌流固定を行い、大脳皮質におけるレビー小体様凝集体の形成効率について抗リン酸化αSyn抗体を用いた免疫染色によって評価する。 本研究により、病的神経が産生したαSyn-seedの分子特性を明らかすることができるだけでなく、抗Seed構造特異抗体の作製を足掛かりに新しいパーキンソン病治療法開発の起点となることが期待される。
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Research Products
(6 results)