2018 Fiscal Year Research-status Report
うつ病重症度や自殺願望を予測する新たな臨床検査法の確立
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18K07417
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
瀬戸山 大樹 九州大学, 大学病院, 助教 (30550850)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | うつ病 / 質量分析 / 代謝物バイオマーカー / 遊離型代謝物 |
Outline of Annual Research Achievements |
メンタルヘルス分野に対する客観的な臨床検査法の開発が世界規模で望まれている。我々は、質量分析装置を駆使し、臨床検体を用いた新たな検査技術の開発およびそれに基づくバイオマーカーの探索に取り組み、これまでに、未服薬のうつ病患者の検体から重症度に関連する代謝物バイオマーカーの発見等を報告してきた。本研究では、血しょうの代謝物層別化法によって、タンパク質に結合していない「遊離型代謝物」に着目し、うつ病と健常群をより高精度に識別できる可能性について検証した。九州大学病院精神科神経科によって収集された未服薬の大うつ病患者および年齢性別が一致している健常者を用いたコホートサンプルを解析した結果、遊離型のトリプトファン系代謝物(トリプトファン、キヌレニン、キヌレン酸など)がうつ病患者の識別およびうつ病重症度を予測する優れたバイオマーカーになりうることを実証した。更に、うつ病の治療予後の検体を用いて、遊離型バイオマーカーが治療反応性に対して効果的に判定する性能を持つかどうかを検証した。うつ病の治療法として、薬物療法ではない反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)と電気けいれん療法(ECT)の2つの治療反応性に対する効果を検証した。その結果、特にECTの治療反応性に対して遊離型のトリプトファン系代謝物が優れた予測性能を有するバイオマーカーとして有用であることを実証した。以上の結果は、血しょうの遊離型代謝物のモニタリングが個々人のメンタルヘルスを反映する可能性を強く示唆しており、客観的検査法の確立はもとより、精神疾患の発症の分子機構の解明にも貢献できると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度は健常者血しょうを使った分画法の最適化と我々が以前見出したうつ病重症度バイオマーカー(11種類, 既報)について遊離型の評価を目的とした。まず、分画法については、分子量3,000以下を通過させる限外ろ過膜を用いた遠心分離法によって条件を最適化した。特に、臨床検体は採血から血しょう調製までのステップを厳密に同一条件で行うことが極めて重要であることを鑑み、遊離型代謝物調製法の標準手順書(SOP)を策定した。次にこのSOPに基づき、健常者血しょうを用いて、うつ病重症度バイオマーカー遊離型を質量分析で定量した。その結果、トリプトファンやキヌレニン、キヌレン酸などのトリプトファン代謝に強く関連する代謝物は、血しょう中では主にタンパク質に結合して運搬されており、約20-30%が遊離型として存在していることを見出した。そこで、実際の臨床サンプルに対して有用性を評価するため、未服薬のうつ病コホートサンプル(患者20名、健常者20名)や、rTMS療法(患者8名)やECT療法(患者40名)の治療前後のコホートサンプルへ適用した。現在これらの治療反応性の検体は引き続き採取中であり、次年度も改めて検証を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当年度に確立した血しょう遊離型代謝物の測定法を用いて、今後は、臨床検体による実証研究と、トリプトファン系代謝物が結合する標的タンパク質の同定の2本立てで研究を進めていく。前者は、未服薬のうつ病患者と健常者の検体およびrTMSやECT治療患者の検体リクルートを引き続き連携研究者の加藤隆弘博士と共に進めていく。これに関連して、中国の上海交通大学新華病院との国際共同研究を行うことで検体数の規模を拡大していく。この共同研究により、検体数は数百名規模を確保することが可能となる。一方、遊離型代謝物の調節に関わると予想される標的タンパク質の同定は、血しょうのゲルろ過分画や質量分析を駆使して行う。結合タンパク質を同定した後、そのタンパク質とうつ病との相関・因果関係を突き止め、うつ病発症の分子メカニズムの解明に糸口を与えたい。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた消耗品は次年度まとめて購入するので、次年度の消耗品が増加する予定である。
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Research Products
(7 results)